研究課題
特別研究員奨励費
B型肝炎ウイルス(HBV)感染による肝障害は、肝硬変や肝がんといった重篤な肝疾患の原因となる。肝星細胞は障害肝細胞からのシグナルにより活性化してコラーゲン等を産生し、肝線維化の進展に主要な役割を果たしている。本研究では、当該研究室開発のiPS細胞由来静止期星細胞を用いて三次元培養HBV感染モデルを作成し、HBV感染における線維化発症メカニズムの解明と新規治療標的の同定を行う。始めに三次元培養の条件検討を行い、次に最適化された培養条件における肝細胞、星細胞のトランスクリプトーム解析を行う。ここから新規治療標的の同定を試みる。
本研究では、肝細胞のHBV感染における星細胞の関与について明らかにする。構築したモデルを用いて肝疾患に対する新規治療標的や治療薬候補の同定することも目的とする。当該年度では、肝細胞単独培養と肝細胞・星細胞共培養のR N A発現量を比較した。その結果、HBV複製に関与することが報告されているHSP90とPPARαの発現量が、星細胞との共培養系で亢進することが分かった。この他にHBV複製に関与するHNF4αは共培養によって発現量が変化しないことも明らかとなった。HBV感染は肝線維化や肝硬変を引き起こすため、本培養系でのHBV複製による星細胞の活性化について検討した。HBVのウイルス産生をテトラサイクリンで制御可能なHepAD細胞と静止期星細胞を共培養し、HBV複製によって星細胞が活性化するかどうかを調べた。星細胞の活性化は活性化マーカーであるαSMAの下流にRFPあるいはルシフェラーゼを導入したレポーターiPS細胞を用いて調べた。その結果、この培養系では星細胞の活性化が示されないことが分かった。形態観察から星細胞はHepAD細胞との共培養が困難であると推察された。この点については培養系の改善等がさらに必要であると考えられる。また、様々な新規合成化合物のHBV複製抑制活性と星細胞活性化抑制効果について調べた。その結果、複数のHBV複製抑制活性を持つ化合物を同定した。以上本研究全体において、静止期星細胞と肝細胞の三次元共培養系を確立し、静止期星細胞は肝細胞におけるHBV複製を亢進することを明らかにした。このメカニズムは、星細胞のセルカルチャーインサートによる間接的な共培養ではなく、直接的な三次元共培養による肝細胞でのHBV複製亢進タンパク質の発現上昇によると示唆された。新規合成化合物を培養系に供することで、星細胞の活性化を抑えずHBV複製を抑制するHBV治療薬候補分子を見出した。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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Methods in Molecular Biology
巻: 2544 ページ: 107-117
10.1007/978-1-0716-2557-6_7
Stem Cell Reports
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