研究課題/領域番号 |
20K00048
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01020:中国哲学、印度哲学および仏教学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
吉水 千鶴子 筑波大学, 人文社会系, 名誉教授 (10361297)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | チベット仏教 / 中観思想 / ギャマルワ / チャパ / 二諦説 / ジュニャーナガルバ / 二諦分別論 / 学説綱要書 / チャパチュキセンゲ / 勝義 / カシミール / パツァプニマタク / ロンソムパ / カギュー派 / 密教 / 帰謬派 / 自立論証派 / シャーンタラクシタ / カマラシーラ / チベット仏教後伝期 / カダム派 / 論理学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、11~13世紀に起こったインドからチベットへの仏教伝播後伝期に北インド、カシミールから導入された仏教内外の諸学説を、チベットのカダム派論師たちが教相判釈を加えながらどのように批判的に体系化し、「ドゥンタ」(Grub mtha’)の名で知られる「学説綱要書」(Doxography)に見られる仏教教学を創り上げていったか、を明らかにするものである。とくに前伝期から継承された中観学説(空の教説)を最上位とする教学を彼らが再編し、新たな議論を加えて超克していく事例を検証し、今日へと続くチベット仏教教学の基盤解明に貢献を目指す。
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研究実績の概要 |
2023年度は、12世紀のチベットで学問体系を形成する過程において、最高の真実へのアクセスに論理学的思考の重要性を主張したギャマルワの中観学説解釈を分析した成果をまとめ、以下の知見をアメリカ・マディソンと台湾・台北で行われた国際会議において発表した。 ギャマルワは、その弟子でチベットにおける最初の論理学の学習システムを構築したチャパ・チュキセンゲと共に、8世紀のインドの中観思想家ジュニャーナガルバの『二諦分別論』に注釈書を著している。彼らは、インド撰述で権威とも考えられた『二諦分別論細疏』の解釈に異議を唱え、最高の真実は人の思考を超越したものではなく、論理によって理解できることを説いた。特にギャマルワは、チベットでは最初にこの立場を明確に表明し、それは15世紀にゲルク派の開祖ツォンカパなどに引き継がれた。チベット僧院の学習カリキュラムでは、現代でも論理学の学習が初級のプログラムに組み込まれているが、その礎は、ギャマルワとチャパが築いたとも言える。ジュニャーナガルバの『二諦分別論』がチベットで広く用いられるきっかけともなった。彼らの論理学重視の傾向は、チベット仏教におけるもう一つの流れである瞑想体験重視の立場と対立し、密教修行を中心とする教義を唱えたカギュー派との議論を引き起こすことともなった。この議論は数世紀続き、チベット仏教教学の大きな問題となった。 本研究は、ギャマルワの思想についての新しい知見をもたらすもので、発表後のフィードバックを経て細部の修正を行い、マディソンの国際会議のプロシーディングスに論文として投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チベット仏教教学の形成に大きな役割を果たしたサンプ僧院系の学者であるギャマルワ、チャパの思想を検証し、その結果を発表、投稿することができた。二つの国際会議で発表、論文をマディソンの国際会議プロシーディングスに投稿したことで、有意義なフィードバック、査読によるコメントを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
チベット仏教の教学体系を考える上で、学説綱要書というジャンルの文献群が重要な資料として用いられてきた。しかしながら、それはチベットからインド仏教の諸学説を分類整理して、内容を分析したものであり、その見方が正しいかどうかは、慎重に見極められなければならない。1970-80年代に、14世紀以降の学説綱要書の研究が世界的に推進されたが、研究者は、チベット仏教徒が構築した教学体系を通してインドを理解するという方法によって、実際にはインドに存在しなかった「学派」が存在したかのように捉えがちとなった。このことを反省し、学説間の相違を、12世紀のチベット仏教徒がどのように理解していたかを検証する。これによって、本研究課題を総括する。
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