研究課題/領域番号 |
20K00058
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01020:中国哲学、印度哲学および仏教学関連
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研究機関 | 常磐大学 |
研究代表者 |
松崎 哲之 常磐大学, 人間科学部, 准教授 (40364484)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 会沢正志斎 / 水戸学 / 孝経 / 春秋学 / 『大日本史』 / 術数学 / 儒学 / 朱子学 |
研究開始時の研究の概要 |
水戸藩二代藩主徳川光圀の『大日本史』編纂に端を発する水戸の学問は、様々な思想を受容し、いわゆる水戸学として変容する。その思想は明治維新のひとつの原動力となり、その後の日本に大きな影響を及ぼした。しかし、水戸学の実体はなお不明な点が多い。その理由のひとつに水戸の学問の基礎を形成している経学思想が明らかとなっていないことが考えられる。そこで本研究では、後期水戸学の中心的人物である会沢正志斎が、儒教経典である四書五経をいかに解釈し、自らの思想を形成していたのかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は、幕末期に活躍した水戸藩の学者、会沢正志斎の経学思想を明らかにしつつ、水戸学思想の解明を図ることを目的としている。 2023年度は2022年度に実施予定であった会沢正志斎の『孝経考』を主に検討した。『孝経考』は公刊されておらず、会沢の自筆稿本といくつかの手抄本が残されるのみである。そこで、研究の便を図るため『孝経考』の諸本を集め、翻刻と校勘作業を行い、その成果を「翻刻 会沢正志斎『孝経考』」として『常磐大学人間科学部紀要 人間科学』第41巻第2号に発表した。 そして、主に『孝経考』と『中庸釈義』から、会沢の孝に対する思想について検討した。これまでの研究によって会沢は易の思想に基づいて自らの理論を構築していたことが明らかとなったが、この検討によって、孝もまた易の理論によって人倫の根底に置かれていたことが明らかとなった。すなわち、会沢は人倫の根底に孝を置くにあたり、それを愛と敬の二つの要素に分離し、個人における愛が社会活動における仁となり、同様に敬が義となり、人倫および政治制度は孝を基本とした仁義が基本となって形成されているとした。また、孝は至徳要道と最も重要な徳であり道とされたが、それは人が生まれながらにしてそなえる親に対する親愛の心と、厳粛の心に基づいた行動から聖人が中庸なる行動を見出しそれを教えとして、人々に学ばせることによってはじめて身につくとしたことを明らかにした。この成果は、2024年度の『中国文化 ――研究と教育――』第82号に掲載する予定である。 さらに、二松学舎陽明学研究センター公開シンポジウム「水戸学と尊王攘夷―近代日本の漢学と陽明学―」において「儒教史の中における水戸学―会沢正志斎の天の思想を中心にして―」と題して研究発表を行った。そこでは儒教史における天の変遷を検討した上で、会沢の天の思想は朱子学よりも唐代の思想の影響が強いことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度、2021年度はコロナ禍により、遠隔授業が主となったため、授業準備とその後処理に膨大な時間がかかり、当初の研究計画を遂行できない状況であった。 しかし、遠隔授業は授業内容を文字に起こし、その講義録に基づいた課題を解くという形式でおこなったため、多くの原稿が残されることになった。特に「思想史」の授業は、水戸学について扱ったものであったので、2020年度、2021年度の授業で作成した講義録をもとにして、2022年度は儒教の歴史思想と水戸学の形成過程を、一般向けの教養書としてまとめ、2023年度に『水戸学事始』としてミネルヴァ書房から出版した。 会沢正志斎の経学思想については、2020年度は、彼が世界の始元についてどのような見解を持っていたのを検討し、朱熹の理気論について彼が批判的であり、世界は混沌とした一元気で始まるという『日本書紀』の冒頭に基づいた説を唱えていることを明らかにし、「会沢正志斎の「天」の思想―一元気論を中心に―」(『中国文化―研究と教育-』第78号、2020)として発表した。2021年度は会沢正志斎の経学思想と術数学について検討した。術数学とは西洋学の数学・物理学に相当するものであり、数理的合理性によって世界を証明しようという学問である。儒教では漢代以来、術数学によって経学を担保していたが、会沢の学問は術数学的要素を排除した易学に基づくものであったことを明らかにし、「会沢正志斎の経学思想における術数学」(『中国文化研究と教育-』第80号、2022)として発表した。 2022年度から2023年度にかけては会沢の孝の思想について検討した。『孝経考』のいくつかの写本から国会図書館所蔵の正志斎蔵書本を底本にして、諸本との校勘をし、会沢の孝の理論は易の理論に基づいていることを明らかにした。その詳細は研究業績の概要に示した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は会沢正志斎の儒教経典に関する書籍の整理解読を進めつつ、会沢の経学思想、および水戸学の全容の一端の解明をはかるものである。2020年度、2021年度のコロナ禍により、予定通り計画は進まなかったが、今年度は研究機関の最終年度に当たるため、これまでに検討した会沢正志斎の経学思想をまとめる方向で研究を進めていく。 2020年度から21年度はこれまで訳注を作成してきた『中庸釈義』を検討する中で生じた問題点を基本に研究を進め、主に会沢正志斎の「天」の思想について検討し、それによって新たに会沢の経学思想において術数学がどのように位置づけられたのかという問題点が浮上し、それについての検討を行った結果、会沢は易の理論を基本にして自説を構築していることが明らかとなった。2022年度から2023年度は、会沢の思想の根幹を形成している孝の思想について検討し、人倫や政治制度は愛と敬からなる孝に基づいて形成されてることを易の理論によって説明しているこを明らかにした。 これら研究成果を踏まえて、今後は会沢の思想とそれが形成されていく過程を、前漢から明清に至るまでの儒教の変遷、そして伊藤仁斎、荻生徂徠などの江戸期の日本儒教の変遷、さらには『大日本史』の編纂を起点とする水戸の学問の変遷等を検証しつつ明らかにし、会沢の経学思想の歴史的位置づけ、会沢の思想が日本社会に与えた影響などを検討していくことにする。 また、本研究課題のきっかけとなった『中庸釈義』の訳注の作成は一通り作業を終えているので、再検討した上で完成稿の発表を目指す。 以上、これまでの研究を踏まえた上で、研究の総括をする予定であるが、やはり2年間のコロナ禍があったため、当初計画をかなり縮小して総括せざるを得ない。総括する上で検討が必要な課題が出た場合は、一年を限りとして研究期間を延長することにする。
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