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ウクライナにおける新しい公共宗教としての正教会

研究課題

研究課題/領域番号 20K00072
研究種目

基盤研究(C)

配分区分基金
応募区分一般
審査区分 小区分01030:宗教学関連
研究機関九州大学

研究代表者

高橋 沙奈美  九州大学, 人間環境学研究院, 講師 (50724465)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2025-03-31
研究課題ステータス 交付 (2023年度)
配分額 *注記
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
キーワードウクライナ / 正教会 / 公共宗教 / ロシア世界 / ロシア・ウクライナ戦争 / 政教関係 / ナショナリズム / 社会貢献活動 / 政治と宗教 / 宗教社会学 / 地域研究
研究開始時の研究の概要

ウクライナにおける正教会は20世紀以降、分裂と対立に苦しんでいる。最大宗派であるウクライナ正教会(UOC-MP)はロシア正教会と結びつきを有する教会である。ロシアとの紛争後、国家による支援を受けた新しい正教会(OCU)が創設され、両者の対立は激化した。
2つの教会は弱者支援や軍の後援など、それぞれに積極的な社会活動を展開することで、正当性アピールに努めている。これらの活動は、結果的に、ウクライナ社会における公共性や市民社会の確立に繋がっていく可能性を有する。教会という宗教組織による国家や社会とのかかわりを再考することで、ポスト社会主義圏における公共宗教について宗教社会学の立場から検討を加える。

研究実績の概要

本研究課題は、ウクライナにおける正教会を公共宗教という概念から再検討することを目指したものである。ウクライナでは、ロシア正教会によって自治を認められたウクライナ正教会(Ukrainian Orthodox Church、以下UOCと略)と、2019年にウクライナ政府の支援によって創設されたウクライナの正教会(Orthodox Church of Ukraine、以下OCUと略)という2つの正教会組織が対立している。
2022年2月のロシアによるウクライナ全面侵攻によって、ウクライナ政府はUOCをロシア政府の協力機関とみなし、聖堂の強制力を用いた閉鎖、聖職者やジャーナリストの逮捕といった抑圧的な宗教政策を全国的に展開している。一方、OCUでは、従軍聖職者(チャプレン)の積極的な派遣をはじめとする軍などの公的機関との積極的な連携が観察される。UOCは国内で弾圧を受けているために、公的活動にはかなりの制約を受けている。しかし、国外におけるウクライナ避難民の精神的・物質的支援を通してその公的役割を果たしている。OCUは国外での司牧活動権を持たないために、国外避難民の司牧に関しては、OCUではなくUOCが重要な役割を果たす。
戦争という状況のために、ロシア・ウクライナ両国における現地調査が困難な状況が続いている。本研究では、現地から発信される情報を用いながら、さらに両国出身の居住者を多く抱えるドイツをフィールドとして調査を進めることとした。
近代以降の政教分離の原則が、戦争という非常事態において、いかに機能するのか、また教会組織が果たしうる公的役割とはどのようなものでありうるかを分析している。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の研究計画予定では、ウクライナにおける現地調査を予定していたが、戦争終結の見通しが立たない現状では調査を行うことが不可能である。そこで、ウクライナ語・ロシア語のニュースサイト、SNSを通じたジャーナリストの発信などを主なリソースとして現状分析を行った。さらに、20世紀以降のロシア正教会とウクライナ正教会の関係、ウクライナ亡命教会の歴史について、先行研究の整理を行った。これらは『迷えるウクライナー宗教をめぐるロシアとのもう一つの戦い』(扶桑社新書、2023年)として刊行した。さらに、2本の概説を発表し、4回の学会報告(内国際学会での報告が1回)、9回に及ぶ市民講座を行って、積極的な成果報告を行った。
また、9月及び3月には、ドイツにおけるロシア正教会およびウクライナ正教会の教区教会での調査を行った。ドイツは開戦以来、100万人をこえるウクライナ避難民を受け入れている。同時にドイツは歴史的にロシア語話者が多く居住する国でありながら、地方教会組織を持たない。19世紀以降、ロシア正教会がドイツに教区教会を開設して以来、現在は複数の地方教会組織の教区教会組織が乱立している状態である。ウクライナからの避難民のうち定期的に教会に通う信者は多くはないものの、正教会における婚配式(結婚式)や、子供の誕生に伴う洗礼や避難民の死亡に伴う埋葬をはじめ、正教会の存在を必要不可欠とする避難民は多い。そのため、開戦後UOCは自らの教区教会を国外に積極的に展開している。聖職者らへの聞き取りを中心として、ドイツにおける両教会の公的役割について調査を進めた。

今後の研究の推進方策

ドイツでは、正教会組織がナショナリズムによって大きく分断されている現状を確認できた。そもそも、地方正教会の組織は、世俗の支配領域に従う形で創設される原則(ここではこれを「領域原則」と称する)がある。ロシアではロシア帝国の領域がそのままロシア正教会の管轄領域となったわけだが、ロシア帝国の崩壊、ソ連解体といった国家領域の変化にも関わらず、ロシア正教会はいまだにベラルーシ、ウクライナ、バルト三国、中央アジアといった旧ソ連の国々の領域にも、その管轄権を有している。これは一見領域原則に反した教会管轄であるが、ロシア正教会の典礼では「教会スラヴ語」というロシア語とは異なる言語が用いられ、多民族帝国教会としての性格を失っているわけではない。正教徒の民族が混交している旧ソ連圏において、世俗国家の領域に従った地方教会の創設には、極めて困難な課題がある。
というのも、例えばウクライナの場合、ロシアから独立した地方教会の創設を要求している。その要求自体は領域原則に則ったものと評価されるべきだが、実際にはウクライナ語による典礼をはじめとするウクライナ・ナショナリズムとの結びつきが濃厚という問題がある。典礼語や教会の建築様式、イコンの画法などにおいてウクライナの独自性を主張するとき、教会組織の原則は民族主義に大きく傾くのである(これを「民族原則」とする)。戦争という非常事態下において、ウクライナ正教会が独立を認められる場合、多様な民族性をバックグラウンドにした正教会ではなく、ナショナリズムを標榜する正教会組織となり、それが民族間対立をさらにあおるものとなる可能性が高いと考えられる。
今後の本研究においては、UOCとOCUそれぞれの公的活動に着目しながら、民族原則が及ぼす地方教会組織の変容について、明らかにしていく予定である。

報告書

(4件)
  • 2023 実施状況報告書
  • 2022 実施状況報告書
  • 2021 実施状況報告書
  • 2020 実施状況報告書
  • 研究成果

    (14件)

すべて 2024 2023 2022 2021

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 図書 (3件)

  • [雑誌論文] 神政学の台頭?ウクライナ侵攻と正教会というアクター2024

    • 著者名/発表者名
      高橋沙奈美
    • 雑誌名

      宗教哲学研究

      巻: 41 ページ: 1-17

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [雑誌論文] ロシアのないウクライナ2022

    • 著者名/発表者名
      高橋沙奈美
    • 雑誌名

      一神教学際研究

      巻: 18 ページ: 61-85

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] コロナ・パニックと東方正教会(2)われわれの中に潜む敵――ウクライナ正教会の断罪と救い2021

    • 著者名/発表者名
      高橋沙奈美
    • 雑誌名

      ゲンロンβ

      巻: 53

    • 関連する報告書
      2020 実施状況報告書
  • [学会発表] The One, Holy, Catholic and Apostolic Church: Russian and Ukrainian Churches in Diaspora2024

    • 著者名/発表者名
      Sanami Takahashi
    • 学会等名
      Public Symposium "Religious Organisations and their Transformation in the Time of Crisis"
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 黒衣のコラボレーター?ウクライナにおける戦争と2つの正教会2023

    • 著者名/発表者名
      高橋沙奈美
    • 学会等名
      「宗教と社会」学会第31回学術大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] ウクライナ・ディアスポラ教会 異論派の時代の自己認識2023

    • 著者名/発表者名
      高橋沙奈美
    • 学会等名
      ロシア史研究会大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] ウクライナ避難民と正教会2023

    • 著者名/発表者名
      高橋沙奈美
    • 学会等名
      ロシア東欧学会2023年度研究大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 神政学の台頭?ウクライナ侵攻における正教会ファクター2023

    • 著者名/発表者名
      高橋沙奈美
    • 学会等名
      宗教哲学会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] 「市民宗教」としての大祖国戦争の記憶2022

    • 著者名/発表者名
      高橋沙奈美
    • 学会等名
      「宗教と社会」学会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] Hope is the Last Thing to Die: Survival, Adaptation, or Modernization? Social Ties of the UOC-MP in east-south Ukrain2021

    • 著者名/発表者名
      Sanami Takahashi
    • 学会等名
      ICCEES X Congress
    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] ウクライナの排他的公共圏と正教会2021

    • 著者名/発表者名
      高橋沙奈美
    • 学会等名
      西日本宗教学会
    • 関連する報告書
      2020 実施状況報告書
  • [図書] 迷えるウクライナ――宗教をめぐるロシアとのもう一つの戦い2024

    • 著者名/発表者名
      高橋沙奈美
    • 総ページ数
      287
    • 出版者
      扶桑社新書
    • ISBN
      4594093167
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [図書] 現代ロシア政治2023

    • 著者名/発表者名
      油本真理、溝口修平
    • 総ページ数
      262
    • 出版者
      法律文化社
    • ISBN
      4589042797
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [図書] 講義 ウクライナの歴史2023

    • 著者名/発表者名
      黛秋津
    • 総ページ数
      320
    • 出版者
      山川出版社
    • ISBN
      4634152355
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書

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公開日: 2020-04-28   更新日: 2024-12-25  

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