研究課題/領域番号 |
20K00083
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01030:宗教学関連
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
勝又 悦子 同志社大学, 神学部, 教授 (60399045)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 自由 / 儀礼 / 意図 / 汚れ / 清浄規定 / 巨人 / 偶像 / 律法 / 穢れ / 律法主義 / ユダヤ教 / 聖書解釈 / 偶像崇拝者 / 創造の業 / マアセ・ベレシート / 創造の書 |
研究開始時の研究の概要 |
唯一神への信仰と偶像崇拝の禁を説き、偶像崇拝からの解放を「自由」と考える正統派ラビ・ユダヤ教のただなかで、像を造り出す「創造の業(マアセェ・べレシート)」への衝動が存在した。その後、カバラー(ユダヤ神秘主義)に色濃く継承され、さらにキリスト教イスラームの錬金術による永遠の生命理論・自動人形ブームとも接近し、宗教を超えた文化の地下水脈的な機能を果たした。本研究では、表象芸術も含め、ユダヤ教思潮の文献を渉猟し、ユダヤ教思想史における像禁止と創造の業という相反する二つの衝動の関係性を問う。
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研究実績の概要 |
2023年度は、自由や多様性の対極にあると考えられがちな、ユダヤ教の律法主義、戒律主義的側面をユダヤ教の伝統がどのように解釈しているのかについて、考察した。福音書の中で、すでにイエスやその弟子によって同時代のユダヤ教の律法主義的側面は、批判されている。この新約聖書におけるユダヤ教像は、その後の教会における説教やメッセージで今なお、批判的に持ち出され、ユダヤ教のイメージを形成している。特に、2023年度は、律法主義の象徴的存在ともいえる清浄規定について、近代に成立したユダヤ学における扱いの変遷をたどった。 その結果、キリスト教や近現代の本質主義的な思潮のみならず、近代に成立した科学的ユダヤ学においても、自身の律法的側面は、真正面から受け止めるのではなく、別の価値-倫理、道徳に還元することで、その意義を主張する傾向が見いだされた。ユダヤ学自体が、近代的宗教像に合致するようなユダヤ教像を生み出したということが推察された。これは、ユダヤ学自体が、ユダヤ教自身が「自由であるということを主張する際にも注意して受容しなくてはならないことを示唆する。 他方で、2000年代に入り、このような傾向に変化が起きていることも指摘した。特に考古学において、沐浴に使われたと考えられるミクヴェ(沐浴のためのプール)、清いとされる石製の食器の出土から、清浄規定が神殿崩壊後も一般生活において重視されていた可能性が指摘され、また、律法文書を、別の価値に還元するのではなく、それ自体の構造、特徴、意義を把握しようとするアプローチが生まれていることを指摘した。 以上の知見は、英文論文として投稿し、現在査読中である。 他に、ユダヤ教に関する事典の項目を数項目、書籍紹介雑誌にユダヤ教を知るための書籍紹介を行った。また、2023年8月にはイスラエルでの発掘調査に参加し、当時の生活状況を体感することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「自由」の対極にあると考えられがちな「律法主義」の研究の系譜をたどることで、これまでの問題点、ユダヤ学自身の偏向性を明らかにすることができたこと、また2010年代以降の研究による新しいアプローチを指摘することができたことは、海外のユダヤ学においてもまだ十分に指摘はされていない点であり、非常に有益な成果であった。 夏季にイスラエルでのテル・レヘシュでの古代ローマ時代のユダヤ教のシナゴーグと考えられる場所での発掘に参加し、ラビユダヤ教社会の風土、環境を知ることができた。また、実際に白い石製の器の破片が出土していること、ミクヴェと思われる水槽の跡をみることで、これらの知見を踏まえて、ラビ・ユダヤ教世界においても、清浄規定が重要であったであろうことが理解された。清浄規定のユダヤ学での取り組みにおける問題点を英語論文として発表予定である。他にも、イスラエル関係の文献紹介、ユダヤ文化事典の項目など知見を公表した。
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今後の研究の推進方策 |
宗教の「律法的」側面の研究は宗教学全体において遅れている。理念中心の西欧学問の偏重の中、律法、儀礼的な側面をどのように評価するのか、その方法論をユダヤ学を超えて、宗教学、キリスト教学関係の研究者と連携して研究する場を作り上げる。また、ユダヤ教伝統における「偶像」理解について、今年度は集中して取り組む。ユダヤ教伝統の中で、何を「偶像」と見なしているのか、その危険性がラビ・ユダヤ教以降のユダヤ教文献の中でどのように展開されているのかを古代、中世、近代にわたって集中的に明らかにする。 昨年度10月7日に勃発したハマス・イスラエル戦争により、ユダヤ学の中心地であるエルサレムに資料収集のために入ることができない。状況が落ち着き次第、エルサレムに渡航し、アビグドール・シンアン教授、ナフタリ・メシェル教授など、ラビ文献研究、儀礼文書研究者らと意見交換を行う。 9月には、日本宗教学会で、本研究の研究成果を発表する予定である。また、最終年度となるので、本研究の研究成果を積極的に発信する。
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