研究課題/領域番号 |
20K00093
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
手代木 有児 福島大学, 経済経営学類, 教授 (20207468)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 清末宣教師 / ティモシー・リチャード / 『時事新論』 / 中国改革論 / マッケンジー / 戊戌変法 / 鄭観応『盛世危言』 / 康有為「公車上書」 / 『万国公報』 / 社会進歩の強調 / 康有為 / 中国国民性批判 / 『泰西新史攬要』 / 清末中国 / 宣教師 / 知識人 / 西洋情報 |
研究開始時の研究の概要 |
清末中国が、西洋中心の世界に自らを位置付けて行く上で、西洋人宣教師の言説が少なからぬ影響力をもったことは従来からある程度知られている。だが宣教師言説の内容や知識人への影響の研究は、日清戦争後の日本経由の西洋受容に比して大きく遅れている。本研究は、1870年代半ば以降の宣教師の中国改革論の形成とその知識人の変法論への影響を、宣教師ティモシー・リチャードの言説と変法論者鄭観応の『盛世危言』(1894)を中心に考察し、日清戦争までの宣教師経由の西洋認識・中国認識の知識人への影響の実態を解明しようとするものである。
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研究実績の概要 |
2022年度は、2020年度の宣教師ティモシー・リチャードに関する研究への準備作業をふまえて2021年度に行ったリチャードの中国改革論の主要な著作及び関連史料の精読によって得られた知見、すなわち①リチャードの改革論には清末の他の宣教師には見られない重要な特徴があったこと、②そうした特徴ゆえに、戊戌変法期にリチャードが関係した知識人・官僚の著作には改革の内容や西洋認識の仕方においてリチャードの改革論の多大な影響が見られ、特に康有為「公車上書」、鄭観応『盛世危言』は、リチャードの改革論の集大成『時事新論』(1894)の強い影響とそこからの発展が見出せること、の2点を踏まえて、論文「ティモシー・リチャードの中国改革論と清末知識人」(完成時の分量は雑誌論文ほぼ4本分)の初稿執筆を開始し、ほぼ主要な部分を書き上げた。その内容は以下の通りである。リチャードの『時事新論』の特徴としては、①官僚・知識人との接触経験をふまえてキリスト教色を極力抑制したこと、②清朝改革派官僚や知識人のニーズに応えうる中国改革の包括的プランを精力的に提示したこと、③西洋近代の発展と伝統中国の衰退の原因を「生利分利」という象徴的表現で説明したこと、④マッケンジー の影響をうけ西洋近代の急激な進歩を強調し、人類社会が急激な進歩を遂げる可能を提示したこと、の4点である。また知識人への影響については、第一に康有為「公車上書」の変法に関する提言の部分が、ほぼ『時事新論』に収録された論文を参照または引用することによって構成されていたことを明らかにした。また第二に鄭観応『盛世危言』において鄭の思想の新しさを象徴する記述として従来論及されてきた「商戦上」篇および「教養」篇について、それぞれ『時事新論』所収の「論中国宜特設商部以整頓商務」および「論士宜兼習養民新学」を踏まえて独自に発展させていることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初稿執筆の過程で、a)リチャードの改革論の影響の数値的根拠を示すために経世文編類への論文転載数の調査の必要が生じ、またb)リチャードの改革論の独自性をより明確にするためには、宣教師ヤング・アレンの『中西関係略論』および「強国利民略論」、エルンスト・ファーバーの『自西徂東』との詳細な比較対照が必要と判断するにいたった。そのための文献の調査・精読に少なからぬ時間をかけることになり、初稿の執筆は大幅に中断した。しかし結果的にはリチャード以外の宣教師の中国改革論にも対象を広げリチャードのそれと比較対照することで、宣教師の中国改革論の影響力、とりわけリチャードのそれの突出した影響力の原因を明らかにするという、当初を大幅に上回る構想を立てるに至った。総じて本研究が、植民地主義者という否定的側面に由来する宣教師への否定的評価ゆえに、彼らの中国改革論と清末の官僚・知識人への巨大な影響について十分な注意を払ってこなかった従来の清末思想史研究の見直しにつながることへの確信を一層強めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
以上の到達点をふまえ、すでに初稿を書き上げている論文のリチャードの中国改革論の形成とその清末宣教師の中国改革論中の位置に関する前半部分(雑誌論文ほぼ2本文)の完成を目指す。もし可能であればコロナ禍のため実施出来ずにきた中国での現地調査を行い、関連する内容も論文に盛り込みたい。
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