研究課題/領域番号 |
20K00105
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 都留文科大学 |
研究代表者 |
辺 英浩 都留文科大学, 文学部, 教授 (50264693)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 東学 / 天道教 / 侍天主 / 人乃天 / 開闢 / 土着的近代 / 儒教 / 民族 / 仏教 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、土着的、自生的近代思想を朝鮮、韓国の伝統思想の中から取り出し、日本を始めとした他地域の同様の思想との比較素材を提供し、その世界史的意義を明らかにしていこうとするものである。具体的には東学(1860年創始、1905年天道教と改称)を中心とした「開闢」を唱えた諸思想が検討対象となる。その特徴は、土着的近代思想という視点を導入することで東学を西洋的近代化、西洋的近代思想とは異なる近代化運動、近代思想として評価することや、開闢思想は価値の中心を中国の「聖人」から韓国の「民衆」に移行させ、近代ナショナリズムとしての性格を有することの解明などである。
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研究実績の概要 |
本研究は自生的、土着的近代思想として韓国の東学、天道教をはじめとした開闢を唱える諸宗教を比較思想史的視座より世界史的意義を明らかにしようとするものであった。具体的には東学(1860年創始、1905年天道教と改称)を中心とした開闢諸思想・宗教がその検討対象であるが、東学が東学農民戦争や三・一独立万歳運動を主導し、積極的な政治参与が特徴であるため、宗教思想の構造と現実への参与との両面からの研究が必要である。 また今後日本での東学研究のために未だ実現していない東学経典の精密な日本語訳を作成することが本研究のひとつの柱である。開祖崔済愚の思想、特に侍天主という神観念が踏まえられる必要があるため、崔済愚の現存する全著作、漢文の『東経大全』と古典ハングルの歌詞である『龍潭遺詞』を丁寧な注釈を付けつつ日本語全訳を目指した。これは2023年2月に出版することができた。二代目教祖の崔時亨については開祖に比して民衆化を一層進めた事人如天、敬愛の対象を物にまで拡大した三敬思想(敬天・人・物)など重要点でこの日本語訳の出版も必要である。現在試訳を作成しつつあり、今少し時間をかけて出版する準備をととのえつつある。三代教祖孫秉煕については、「侍天主」から「人乃天」への転換の意味をさらに追求していく。「人乃天」の天はよくいわれる法則天ではなく人格神的性格を保持しており、この神観念は孫秉煕が三・一独立万歳運動を主導したことにも深い関係がある。さらにこの「人乃天」はキリスト教との関係も考察する必要がある。現代韓国で一般化している良心宣言は、従来キリスト教の影響といわれてきたが東学の影響を強く受けていることが予測され、昨年度この点を明らかにした論文を発表した。また土着的近代思想という点からの研究として、外来思想を韓国に受容する際に韓国的に変容させる思想的磁場の解明も必要であった。それは東学を中心に整理した論考を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
開祖崔済愚の思想、特に侍天主という神観念が踏まえられる必要があるため、崔済愚の現存する全著作、漢文の『東経大全』と古典ハングルの歌詞である『龍潭遺詞』を丁寧な注釈を付けつつ日本語全訳し出版することができたことは本研究の大きな成果である。ただ開祖に比して民衆化を一層進めた事人如天、敬愛の対象を物にまで拡大した三敬思想(敬天・人・物)など崔時亨についての注釈や全訳作業が遅れ、試訳はほぼ完成させられつつあるが、今少し時間をかける必要があり、1年の研究期間の延長を申請せざるをえなかった。これ以上の延長はできないためこの研究を優先的課題とする。 第三代教祖孫秉煕については、「侍天主」から「人乃天」への転換の意味を追求し、今後一層の掘り下げが必要であった。孫秉煕の「人乃天」は、周知の法則天ではなく人格神的性格を保持していることは明らかにしており、神との人格的対話がなされており、それが三・一独立万歳運動を主導したことにもつながっている。さらにこの人格神的天主は現代韓国での良心宣言にもつながっている。従来キリスト教の影響とされてきた良心宣言は東学の影響を強く受けていることを明らかにし、論文化した。さらに土着的近代思想という点で外来思想を韓国に受容する際に韓国的に変容させる韓国の思想的磁場の解明が必要であった。この韓国の思想的磁場をについて東学を中心に整理した論考を発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず最優先課題は、民衆化を一層進めた事人如天、敬愛の対象を物にまで拡大した三敬思想(敬天・人・物)など崔時亨についての注釈や全訳作業と出版を終えることである。すでに試訳はほぼ完成させているが、思想研究者が参考としえる詳細な注釈をつけていく。特に崔時亨が崔済愚から思想を継承しつつ、さらに事人如天という神(天)の人間への一層の内在化をすすめ封建的身分制度を批判していった点には注意する。また敬物は環境思想として現代で評価されるばかりでなく、韓国語で慕う物を表す「ニム」と関連させて解釈をしたほうがよいこと、例を挙げつついえば自身が使う筆記用具などは一般の筆記用具という物ではなく、自身の一部としてとらえられることなど従来になかった視点からの解釈を提示していく。孫秉煕の「人乃天」については、人格神的性格を保持していることは明らかにしたが、依然として構造的な解明は不十分であるため、さらなる研究をすすめていく。
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