研究課題/領域番号 |
20K00111
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
佐々木 一惠 法政大学, 国際文化学部, 教授 (80547787)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | アングロ・カトリシズム / 福音主義 / 修道院 / 活動的生 / 観想的生 / 独身主義 / ジェンダー / アメリカ史 / 生・権力 / 善き生 / セクシュアリティ / プロテスタンティズム / ウェーバー / フーコー / 思想史 / 社会主義 / 共同体主義 / 宗教史 / アメリカ思想史 / キリスト教社会主義 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、宗教を経由した公共善に基づくリベラルな共同体主義の潮流を、アメリカ思想史の中に位置付けていく試みである。革新主義期における社会改革運動に注目し、その思想と実践の中に、キリスト教社会主義の立場に基づく共同体主義を見出していく。また、この共同体主義の系譜から、今日における排他的な同質性を土台とするポリティクスとは異なる、異種混交の協同的連帯の構築に向けた契機と可能性を探っていくことを目指す。
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研究実績の概要 |
本年度は、1865年に米国で初めて創設されたプロテスタントの女子修道院である聖マリア修女会に関するアーカイヴ調査を、聖マリア修女会、トリニティ教会古文書館、米国聖公会ニューヨーク教区古文書館(いずれもニューヨーク州)において実施した。書簡や日記史料等を通じて見えてきたのは、聖マリア修女会の修道女たちが求めていた生とは、「活動的生」と「観想的生」とを結びつけた宗教的独身に基づく「神に奉献した生」であったことである。それは、19世紀後半の個人主義的なプロテスタンティズムにおける「活動的生」への偏りや、福音主義の「聖なる家庭」を土台とするジェンダー規範に対する異議申し立てであり、彼女たちの活動はこれらと異なる形の信仰に基づく女性主体による公共善の遂行を目指す共同体主義の試みであった。さらに、聖マリア修道会では病院や孤児院などの運営に加え、セツルメント活動も展開していた。しかし、これまで女性史・ジェンダー史においては革新主義期の女性運動として取り上げられることはなかった。ここに、「世俗」(進歩的)と「宗教」(抑圧的)の二分法並びにヒエラルキーが見て取れる。しかし、本年度実施したアーカイヴ調査を通じて、聖マリア修道会の修道女たちの活動やアングロ・カトリシズムに基づく信仰に基づく彼女たちの女性主体の構築の試みは、こうした従来の二分法では捉えきれない、革新主義期アメリカの多元主義的な共同体主義の一形態であったことが明らかになった。
佐々木一惠「『神に奉献した生』とプロテスタントの女性主体―19世紀後半のアメリカにおける聖マリア修女会の実践から―」『異文化』24号、2023年。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は2年続けて延期していたアメリカ合衆国でのアーカイヴ調査を実施することができ、論文として発表することができた。(佐々木一惠「『神に奉献した生』とプロテスタントの女性主体―19世紀後半のアメリカにおける聖マリア修女会の実践から―」『異文化』24号、2023年。) また、調査で訪れた聖マリア修女会のマザー・ミリアムのご厚意により、滞在中、シスターたちと共に生活を送る機会を得たことで、今後の研究に繋がる新たな知見も得られた。さらに、シスターたちとの交流を通じて、当初、まったく想定していなかった論点に気づくことも可能となった。現在は、2023年6月にカリフォルニア州サンタ・クララで開催されるバークシャイア女性史会議(参加パネル名:Rethinking Religion, Race, and Gender: Beyond the Paradigm of the ‘Empire of the Home’)において、聖マリア修女会に関する研究を発表する準備を進めている。また次の研究としては、アングロ・カトリシズムに基づくエキュメニズム(教会大分裂以前のカトリシズムを土台とする連帯)に関する研究の準備を進めている。ただ、2023年6月にボストンのThe Society of St. John the Evangelist(アングロ・カトリシズムの男性修道院)で予定したアーカイヴ調査は、家庭の事情(家族の疾病)により延期となった。2023年度については国内並びにオンラインで入手できる史料を中心に研究を進め、アーカイヴ調査はそれ以降に実施したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の成果に基づき、2024年度以降も革新主義期の米国におけるアングロ・カトリシズムの潮流を公共善と共同体主義との関連から検討していく予定である。そこで重要になるのが、本研究課題の中で新たに発見したロマン主義と宗教との関係性である。アングロ・カトリシズムはコールリッジの宗教論から影響を受けているように、ロマン主義との親和性が高い。また、アメリカ文化・思想史家のジャクソン・リアーズが指摘したロマン主義に影響を受けた反近代主義(アンチ・モダニズム)の傾向も、アングロ・カトリシズムに見て取れる。リアーズによれば、このロマン主義的な反近代主義は、欧州においてはファシズムと結びついていったが、アメリカ合衆国では資本主義的で個人主義的な活性的生に回収されていったという。今後の研究においては、このリアーズの見解に基づきながらも、アングロ・カトリシズムの共同体主義に注目することで、資本主義的で個人主義的な活性的生とは異なるアメリカ合衆国におけるロマン主義の展開を浮かび上がらせていきたい。これまでアメリカ思想史においては、リベラリズムや共和主義などと比べ、ロマン主義が正面から取り上げられることはなかった。ロマン主義を宗教との関連からアメリカ思想史の文脈に埋め込み検討することで、リベラル/保守、世俗/宗教、進歩主義/伝統主義の二分法を超えた公共善と共同体主義の動態を明らかにしていきたい。
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