研究課題/領域番号 |
20K00133
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 東京音楽大学 |
研究代表者 |
藤田 茂 東京音楽大学, 音楽学部, 教授 (30466974)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | メシアン / デュティユー / ブーレーズ / 現代音楽 / 創作過程 / 音楽形式 / 草稿 / 言説 / 20世紀音楽 / 言説研究 / 草稿研究 / フランス音楽 / 音楽と文学 / フォルム(形式) / 草稿(スケッチ)研究 |
研究開始時の研究の概要 |
現代音楽の作り手たちは、新しい音楽言語から新しい音楽のフォルムが直接に演繹できると信じたが、本当のところ両者には別々の想像力が働いていたのではなかったか。本研究は、特にメシアン、デュティユー、ブーレーズを対象に、1) 言説の調査から、彼らがいかなる詩的イメージで音楽のフォルムを語ろうとしたかを調べ、2) 作品の草稿と決定稿の比較検討から、彼らが実際にどのように音楽のフォルムを造形していったかを再構成することで、この問いに答える。このように音楽言語と音楽のフォルムの二重性という視点に立てば、18世紀以降の音楽を展望しつつ、より広い歴史的コンテキストのなかで現代音楽を再考することも可能になる。
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研究実績の概要 |
2021年度(令和3年度)は、言説研究を徹底させることによって、デュティユーの「根源的な形式的想像力」が、変遷していく彼自身の時間意識と密接に結びついていることを発見した。2022年度(令和4年度)は、この発見を、本研究が対象としているメシアンとブーレーズ にも拡大して検証すために、それぞれの室内楽作品の分析的考察にとくに力を入れた。 中心的な分析対象としたのは、メシアンの《時の終わりのための四重奏曲》、ブーレーズ のフルートとピアノのための《ソナチネ》と《ル・マルトー・サン・メートル》、デュティユーの弦楽四重奏曲《こうして夜は》であった。これらの分析においては、音楽的事象の布置関係を解析するのではなく、作曲家の関連する言説、また、作曲家の草稿から得られる情報を総動員して、それがいかにして生成してきたのかを推察するよう努めた。 メシアンについては、これまでの研究で得られていた知見を更新するには至らなかったが、ブーレーズ については、《ソナチネ》における中心音とその機能関係を取り出すことにより、その出発点にある時間意識が、伝統的な形式と親和性の高いものであることを確認することができた(ブーレーズの発展変化は、その無限の複雑化であると捉えることができる)。デュティユーについては、彼が「記憶」を作曲のコンセプトに落とし込んでいく過程を追跡することにより、彼の時間意識が「共時的なもの」に次第に向いてゆき、結果、もはやどのような図式にも還元できない「心像」と化していくことを発見することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度(令和3年度)に言説の調査範囲を拡大したことにより、2022年度(令和4年度)は、とくにデュティユーについては、これまでまったく整理されてこなかったかなりの量の言説を、新聞データベースならびに視聴覚データベースを活用することによって、収集することができた。また、それを時間軸に沿って整理することで、彼の形式的思索の隠された発展変化を浮かび上がらせることができた。 しかし、同時に、メシアンについては、同じ方法で結果を得ることが困難であることも分かった。メシアンの場合、音楽的思索の形成期は1930年代にあったわけだが、その頃のメシアンの言葉については、記録に乏しいからである。(それゆえ、メシアンの形成期の思考は、メシアン自身の回顧的発言によってしか、知ることができない。)また、ブーレーズ については、同じ音楽的思索の形成期が1945年以降に来るために、逆に、記録されている言説の量は膨大であり、それらを整理するためには、独立した研究計画を立案する必要があることも分かった。 よって、本研究の遂行においては、絶対的な研究量の乏しいデュティユーの形式的想像力を、可能な限りの資料を駆使して浮かび上がらせることに主眼を置き、メシアン、デュティユーについては、その補完という位置づけにすることを決断した。 研究開始当初の計画からすれば、その遂行はやや遅れているとしなければならないが、研究遂行の過程で生じた方向転換から、当初想定していなかった成果が得られているため、今回は「順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
メシアン、デュティユー、ブーレーズの形式的想像力を、同じレベルで論じていくことは、扱うべきデータ量の膨大さから困難であると判断した。 しかし、デュティユーについては、予想以上の成果が得られたため、今後は、デュティユーの形式的想像力の解明を中心に据えつつ、その過程で洗練されていく研究手法を、メシアン、ブーレーズの形式的想像力の解明へと適用していくことにする。 ブーレーズについては、当初は、《ル・マルトー・サン・メートル》以降の、より成熟した時期の作品にもとづいて、彼の形式的想像力を検討する必要があると考えていたが、2022年度(令和4年度)に、最初期の作品であるフルートとピアノのための《ソナチネ》を検証した結果、むしろ、彼の形成期を検討することが重要であるという気づきが得られた。また、メシアンについては、当初の研究計画から対象作品を変更する考えは、現時点ではないが、2023年度末(令和5年度末)に計画している草稿の現地調査の結果を待って、彼の形式的想像力を取り出すのに最適な条件をどう設定するかを最終判断する予定である。
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