研究課題/領域番号 |
20K00134
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 桐朋学園大学 |
研究代表者 |
藤村 晶子 (藤村晶子) 桐朋学園大学, 音楽学部, 非常勤講師 (90773713)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 音楽学 / 美学および芸術論 / 20世紀音楽 / ヴァイマル共和国の文化 / ドイツ文化史 / メディア / ナチズム / 亡命 / 美学および芸術論関連 / ヴァイマル共和国 / パウル・ヒンデミット |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ヴァイマル共和国期の新音楽における「室内楽」をラジオメディアとの関連で分析検討する。新音楽の旗手であったパウル・ヒンデミットは「ドナウエッシンゲン現代室内楽音楽祭」(1921-30年)に創設時から関わり、多くの芸術家と協働しながら「共和国の新しい音楽」を模索した。そのなかでラジオの社会的機能が注視され、草創期のラジオ音楽は新しい室内楽として期待されていく。音楽家たちと放送人はどのように連携しながら、ラジオなる公共空間をめざしたのか。「室内楽」に凝集した時代の問題意識をさぐり、これが1930年代ナチズム台頭期にいかに変容するのかを考察する。
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研究実績の概要 |
本研究はヴァイマル共和国期の「室内楽Kammermusik」をラジオとの関連において検証し、室内楽に集約された時代の問題意識を省察することを主目的とする。共和国期の「室内楽」は小編成アンサンブルを意味するだけでなく、ラジオなど新しいメディアと関わりつつ旧来のクラシックを越えようとする標語でもあった。2022年度もコロナ禍の影響でドイツでの新しい資料調査は断念せざるを得ない状況が続いたため、手元の資料とオンラインで作業を進め、論考の深化に努めた。2019年までのベルリン調査で入手したラジオ・プログラムのデータベース化、ラジオ言説の検証、さらにドイツラジオ局から委嘱初演された楽曲の調査を進めている。 2022年度研究実績として下記を挙げる。 (1)研究発表(FD活動)。「ヒンデミットの〈扱いにくさ〉に関する一考察」(桐朋学園大学、音楽学合同ゼミ、2022年12月21日)。パウル・ヒンデミットは共和国期のラジオに深く関わり、「ラジオ音楽」の創始にも大きく貢献した。今回はヒンデミットがアメリカ亡命に至る1934年から1938年までの四年間に焦点を当て、オペラ《画家マティス》初演(1934年)と戦後ドイツ初演(1947年)をめぐる諸問題を検討した。とくに交響曲《画家マティス》はヒンデミット指揮のラジオ上演が評判となり、ナチス体制下にも楽譜出版は続行されたことが近年判明している。戦後ドイツに帰国しなかったヒンデミットだが、ラジオ出演と出版によって本国での受容は継続していたという「捩れ」をどう捉えるか。今後も検討を続けたい。 (2) 大学講義では「世界大戦と音楽」シリーズの音楽史各論にて、2022年度は「20世紀のJ.S.バッハ}をテーマに、1920年代のバッハ復興の経緯、ラジオ上演と録音の問題に触れ、ラジオメディアが果たした役割について考察した(桐朋学園大学、音楽史各論Ⅹ)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度もドイツへの渡航が叶わず、現地調査は実施できない状態が続いた。1920~1930年代のラジオ雑誌Funk, Funk-Stunde, Der Deutsche Rundfunkの記事は、現在一部のオンライン検索が可能だが、プログラム再構成のためには、できるかぎり欠損なく数年分の記事を網羅する必要がある。過去のベルリン調査で入手したデータは1920年から1926年までのものが中心のため、本年は現地調査を実行し、不足しているデータを補いたい。 2022年度は講義と研究発表によって「共和国期ラジオ」の意義を、いわば外縁から問題化した形となった。講義では20世紀前半の音楽家たちのJ.S.バッハへのアプローチ(作品と音楽語法への影響の現れ)を1920年代のバロック復興の動きとともにとりあげた。1920年代は、バッハを始めとする過去の作品受容に録音という新たな側面が加わる画期的な時代である。とくにラジオ、レコードなど再生・複製メディアの誕生は現代音楽のみならず、バロックなど古楽の「新しい聴取」も拓いたことは看過されるべきでないだろう。現にフランクフルト・ラジオ(SWR)では、一つの番組内に現代作品とバロック音楽を交互に組み、双方を比較、並置する視点もあった。 なお当初の研究計画では、(1)ラジオ放送をプログラムと作品の両面から資料的に調査、(2) 放送目的で制作された作品の分析、(3) 「ラジオと現代音楽」をめぐる言説の考察、の三点から検証作業を進める予定だった。(1)は現地調査を実施できていないものの、「放送の魔法」シナリオ訳出(2021年)や《画家マティス》ラジオ放送の調査(2022年)で問題を具体化できたことは有意義だったと捉えている。今後、不十分なデータを補足し、総合的検証を進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はドイツ現地調査を実行し、データ蒐集を行う予定である。主要雑誌Funk, Funk-Stunde, Der Deutsche Rundfunk、の三誌を中心に、フランクフルトとベルリンで調査を行う。調査予定の主な資料所は右記。Deutsches Rundfunkarchiv Frankfurt am Main、 Paul-Hindemith-Institut Frankfurt am Main、Staatsbibliothek zu Berlin. 引き続き、研究テーマは以下の三方向で進めていく。 (1) ラジオ誌Funk(ベルリン発行)のデータによる、ラジオプログラムの再構成。 (2) ラジオ言説の分析。フランクフルト・ラジオ局(SWR)ディレクター、ハンス・フレッシュとエルンスト・シェーンのラジオ観、とくに現代音楽とメディアの意義をどのように捉えていたのかを1920年代から1930年代まで、十年の射程でたどり分析する。 (3) ヒンデミットとラジオ制作者の「室内楽」考察。 ラジオと室内楽をめぐる問題を音楽家ヒンデミットとラジオ制作者、双方の観点からデータを交えて考察し、論文と書籍執筆を準備する。
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