研究課題/領域番号 |
20K00140
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
八尾 里絵子 甲南女子大学, 文学部, 准教授 (10285413)
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研究分担者 |
北市 記子 大阪経済大学, 人間科学部, 教授 (90412296)
門屋 博 相模女子大学, 学芸学部, 教授 (80510635)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 山口勝弘 / 創造的アート・アーカイブ / アンビルト / 藝術文化雜誌『紫明』 / モバイルアート / 展覧会 / 想像力のワークショップ / アート・アーカイブ / 創造的アーカイブ / アート手法 / イマジナリウム / 藝術文化誌『紫明』 / オンライン展覧会 |
研究開始時の研究の概要 |
かつてメディアアートの先駆者・山口勝弘は「アーカイブは生きている」と語っており、常に、創作にまつわる様々な資料が、新たな創造の種となることを強く意識していた。山口の逝去後、遺族から託された様々な資料を精査してゆく中で、これまで見過ごされてきた「アンビルト」案の存在を発見した。本研究では、現代のメディア状況を予見した山口の「イマジナリウム」の思想を手掛りとし、デジタルメディアの機能を応用した「創造的アーカイブ」を開発し、山口が様々に書き残した刺激的な発想を可視化してゆく。
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研究実績の概要 |
本研究は「アーカイブに「創造性」が可能か、あるいは必要か? 」を問いとして、故人となった芸術家の構想を、死後どのように可視化すべきかについて調査してきた。調査の源泉には、世界的に活躍したメディアアーティスト山口勝弘(1928-2018)の最晩年の所持品すなわち多量の資料群があり、ご家族の意向に沿うかたちで預かり受けてきた。その大多数をデジタル化したが、アーカイブについてアーキビストの手法に準ずるというより、資料そのモノの背景を適切に捉え適正な状態を保ちながらも、創造性をもって社会と共有する方法を思案するのが本研究の特徴である。これまでの成果は、論文発表やオンライン展覧会という形式で発信してきたが、今期は、我々自身が直接的に社会と接点を持つ機会を企て、調査の成果を可視化することが山口の構想に迫ることとなるとの仮説をたてた。その実践方法は展覧会「山口勝弘が描く 藝術文化雜誌『紫明』表紙の世界」としてある程度の成果を得ることができたといえる。展覧会は導線といったストーリー性を重視し、次の5項目を提示することで本研究題目にある「アンビルト作品の可視化」を示唆するようにした。 ①アーカイブ資料を体験的に鑑賞できるデジタルコンテンツ ②表紙の原画を含むオリジナルドローイング ③未完の作品構想などの関連資料 ④ 藝術文化雜誌『紫明』全號を閲覧できる読書スペース ⑤ワークショップの記録
また、展覧会の準備段階で改めて山口の資料の保管について検討することとなったが、今後は円滑な資料の活用までもを考慮したフローが必要である。現段階では資料の保管と管理において、コンテナボックスやQRコードとクラウドストレージを活用し、比較的円滑な管理を行っている。しかしながら、プラスチック製のコンテナボックスは移動にあまり適しておらず、耐久年数を考慮しながら新たな手法を導き出す必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの活動の多くはコロナ禍もありオンラインでの資料調査とリスト作成が大半で、成果もオンライン展覧会を実施するに留まっていた。しかし実空間での展示が理想的と常々考えており、今期ようやく展覧会の開催が可能となった。展覧会形式にこだわる理由は、作品を含むアーカイブ資料を、縁のある場所で、縁のある人々と、未来に向けて提示したいと考えたからである。その主張が作業全体の流れを通してひとつの物語を描き出し、新たなアーカイブの創造となるのである。
展覧会「山口勝弘が描く 藝術文化雜誌『紫明』表紙の世界」は、2023年11月3-5日の3日間、丹波篠山市のアートスペース電燈舎で開催された。この場所は、『紫明』編集部がある篠山能楽資料館の2階で現在ギャラリーとなっているが、1997年、藝術文化雜誌『紫明』の発刊に向けて錚々たるメンバーが集結し、新しい雑誌への想いを一つにした大切な場所である。その空間を、4つに区分けしつつもシームレスに物語性のある導線を計画した。まず、山口のアーカイブ資料から始まり、『紫明』表紙のために描いた原画、資料の新たな見せ方としての映像空間、雑誌『紫明』そのものを手にとって読める読書スペースといった流れである。それに加え関連イベントとして、展覧会の初日にワークショップを開催した。講師として招聘した写真家の齋藤さだむ氏は、かつて筑波大学で技官を務め、山口との親交も深く、一般公募したワークショップ参加者も誰かと繋がりがあり、和やかで温かい場作りができた。この状態は、2016年に山口がイマジナリウムについて書き残した「人間の集まりによる想像力のワークショップ」の実践ともいえよう。ワークショップに向けて、1975年の山口の作品『リベールリベール』をモチーフに、『紫明』サイズの「鏡の本」を10点再制作した。 これらの行程を経て、社会への普及という側面からも来期への期待がもてる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策は、展開と保管である。まず、今期実施した展覧会の初日に開催したワークショップでは体験的に得たことも多く、これらのノウハウを本研究発展の試策としたい。また、本研究期間中に借用している資料については安定的な保管場所が未だ定まっておらず、資料の保存や保管、活用の検討については継続的な対策が必要である。 ●展開:モバイルアートに向けて オンラインや実空間での展覧会を行ってきたことで、芸術資料の活用には史実だけではなく創造性が必要であることが理解できた。創造性とは資料に手を加えるのではなく、資料を提示するプロセスにストーリー性を持つことともいえよう。そして今後、今まで以上に容易に多方面へ巡回できるような軽やかさが、これからのアーカイブ資料との関わりに必要であると考えている。以後、モバイルアートをキーワードに移動式で体験型の資料の活用法を試してゆく。 ●保管:資料の円滑な運用 資料の外部保管は今期で終了し、今後は組織内の研究室で一時保管し、保管と活用は両輪といった認識で今後も調査を継続することにした。資料の調査において収集や分析といった作業は、発見などもありポジティブな活動といえるが、資料の処分は一向に進まないのが現状である。資料の所有者にその提案を伝えることすらままならいが、この点は今後注視すべき点だと考えている。現在、美術館などの施設においても作品や資料の保管にはもはや限界があり、特に資料においては本研究のような小さな課題であっても、「後世に」「何を」「どのように」残すかは非常に重要なテーマだといえる。今後もデジタルとアーカイブと運用についてを相互に組み合わせ実践してゆく。
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