研究課題/領域番号 |
20K00142
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 立命館アジア太平洋大学 |
研究代表者 |
田原 洋樹 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 教授 (60331138)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | ベトナム / ポピュラー音楽 / ボレロ / 母語継承 / 在外ベトナム人 |
研究開始時の研究の概要 |
ベトナム音楽『ボレロ』を研究の中心にして、ベトナム人の集合的記憶と現在を切り結ぶ紐帯としての役割と、国内外のベトナム人に共感性や精神的な統一感を醸して言語的アイデンティティを高揚させるオラリティとしての本質に迫ることを主目的とした。 『ボレロ』を核として、ベトナム社会とベトナム人の精神的在り方を見つめながら、言語動態の研究にひとつの切り口として音楽を示すことができれば、新しい研究視座を提供することに繋がるだろうと考えている。
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研究実績の概要 |
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がようやく収まり始めたとはいえ、過去2年間と同様に本年度もベトナムおよびアメリカへの渡航ができなかった。人間の自由な往来が世界的規模で断絶していたので、本研究の主眼のひとつでもあったベトナム人ボレロ歌手の来日招聘も次年度に繰り越しとなっている。 他方で、遠隔開催が主流となった国際学会や研究会、さらに研究仲間やインフォーマントとの意見交換は利便性が向上したので、従来よりも成果が上がるようになった。アメリカ・カリフォルニア州では、2021年夏にベトナム系子女に対する継承語教育に従事する言語教育関係者や移民第一世代および第二世代たち約400人が参加する学会が開催された。主催者の招待に応じて、「ベトナム語とはどういう言語なのか」のタイトルで、母語および文化の継承に関する基調講演を行った。この学会は今回が3回目で、基調講演に毎回招聘されているが、聴衆のなかに本国在住のベトナム人教師が増えていることを強く感じる。講演者には政治的スタンスが異なる者が多い中に、母語継承や文化の伝え合いに対する責任感や使命を持ちつつ学会参加する教師が増えたのは率直に喜びたい。そして、そのような学会で、外国人としてベトナム語を語ることができるのは研究者にとって僥倖というべきだろう。 また、2022年12月には、ベトナム語辞書や語学書の編集経験を生かした研究発表を行った。教授頻度が低く、市場流通も限定的なベトナム語での編集経験を、ベトナム語関係者のみならず、近隣地域の言語を専門とする研究者に共有できたことはよかった。 新年度から日本政府は新たな出入国方針を打ち出し始めた。2023年度上半期に日越間の往来が可能になる。そこで、23年夏にボレロ歌手の来日招聘と研究発表を実施できるように、事務的な手続きを開始したところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画にあったベトナム人ボレロ歌手の招聘がコロナ禍の出入国制限によって延期したままになっていることが、遅れの主たる理由である。ただし、研究最終年度の2023年度での実現に目途が立っている。 一方、コロナ禍で急速に普及した遠隔会議のシステムを活用して、ベトナムやアメリカ在住の音楽関係者にインタビューを行った。歌手はベトナム国内のステージに戻りはじめ、合わせて新作はYouTubeなどで公開するのが一般的になった。音楽産業自体の在り方も大きく変容したことを感じた。 また、海外での調査出張ができなくなった分、1975年以前に旧ベトナム共和国で行なわれていたベトナム語の実態、創作や出版の様子などを丹念に文献調査する時間が取れたのはよかった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス禍を乗り切った今、歌手や音楽家、そして音楽産業に従事する人たちに幅広く会って未曽有の危機に直面して、どう乗り切ったのか、音楽、就中ボレロはどのような役割を果たしたのかについて語り合ってみたい。というのは、本研究課題の着眼として、「人間が裸一貫の移動で持ち運べるものとしての母語、音楽」が基礎にあることによる。また、歌手や音楽家の中にもコロナウイルス感染で命を落とす人が多かった中で、ベトナム人作家が寄せた「言葉は残せる、音楽も残る」という一文は、助成最終年度の研究活動の支えとなるだろう。 2023年6月下旬には、ボレロ歌手ら2組3人を招聘して歌唱の場を提供するとともに、ボレロについてのインタビューを実施する予定である。 すでに50万人を超えた在日ベトナム人社会で、ベトナムのポピュラー音楽は精神的潤いや癒しとしての意味をいっそう強く持っている。これは、本研究の先にある課題の一端になるだろう。いずれにしても、在外ベトナム人、在日ベトナム人の日常生活に対する研究には社会的な関心が高まっているので、研究協力者や在日ベトナム人社会と緊密に連携しながら研究を進めていきたい。
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