研究課題/領域番号 |
20K00169
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
|
研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
天野 知香 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (20282890)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
|
キーワード | 両大戦間フランス / 女性芸術家 / サフィック・モダニズム / クイア / ロメイン ・ブルックス / マリー・ローランサン / 20世紀 / 両大戦間 / モダニズム / ジェンダー / セクシュアリティ / 他者表象 / フランス / 20世紀 / コロニアリズム / 「他者」表象 / 室内 / ロマーヌ・ブルックス / エドゥアール・ヴュイヤール / 女性パトロン / 20世紀フランス / 女性収集家 / 女性肖像 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は両大戦間のフランス美術を巡って、制作、注文、収集、受容の多面的な領域における女性の関与とそのネットワークによって、この時代の美術がどのように特徴付けられ、変化したのかを複数の具体的な事例を通して明らかにし、それによって美術史の語りを捉えなおそうとするものである。第一次大戦後の女性の社会進出については指摘されてきたが、美術における女性の活動については、従来、主流の美術の流れに対する付随的な状況として捉えられてきた。本研究は女性芸術家と女性収集家の関係を含め、美術の領域に女性たちが関与することによって、主流の美術状況がどのように変化したかを実証的に明らかにし、理論構築を行う。
|
研究実績の概要 |
本年度はコロナの期間延期していた海外調査を実施し、2023年4月29日から5月6日にかけてパリ、フランス国立図書館、INHA、およびポンピドー・センター内カンディンスキー図書館において、資料調査を実施したほか、この時期パリの各主要美術館で行われた女性芸術家に関する展覧会を周り、作品調査を通して20世紀から現代に至る女性芸術家による他者表象やインターセクショナルなアイデンティティ、およびモダニズムとの関係をめぐる多様な事例を考察する機会を得た(ピカソ美術館:フェイス・リンゴールド展、ケ・ブランリー美術館:アンヌ・アイズナー展、モンマルトル美術館:女性におけるシュルレアリスム展、ポンピドー・センター:ジュルメーヌ・リシェ展、パレ・ド・トーキョー:ミリアム・カーン展、MEP:ザネリ・ムホリ展など)。さらに8月6日から13日にかけてロンドンおよびパリで女性芸術家の作品調査を行い、特にパリ、ポンピドー・センターでは芸術におけるLGBTQI+をテーマにした資料展示を通してジェンダーと多様なセクシュアリティの問題を検討する機会を得た。 これまでの調査や考察を踏まえ、美術史の学問領域におけるジェンダーの視点からの研究の意義に関して『ジェンダー事典』(丸善出版、2024年1月31日出版)に「美術史」の項目執筆を行ったほか、2024年3月24日には、両大戦間フランスの女性芸術家における多様なセクシュアリティのあり方を踏まえ、当時の状況を巡って、新たに「クイア」の視点からロメイン ・ブルックスやおよびマリー・ローランサンの作品を中心に考察を展開し、「クイアと美術」のシンポジウムにおいて口頭発表「「サフィック・モダニズム」と両大戦間フランスの女性芸術家」を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度の前半は海外調査も順調に行われ、作品調査や資料収集を充実させたことに加え、こうした調査を通じて研究を支える理論的な視点を深めることができた。これまでジェンダーの視点から両大戦間の女性芸術家の制作や活動を同時代の文脈で実証的に跡付けることで、その作品を分析するとともに、これまで語られてきたモダニズムの主流の動向との差異やモダニズムの時代における彼女たちの活動の意味を中心に考察を進め、さらに女性芸術家間や女性パトロンとの交流をはじめとする女性たちのコミュニティの重要性に焦点を当てて研究を進めてきたが、本年度の研究を通じて、女性芸術家の問題をインターセクショナリティの視点で捉える重要性を改めて認識するとともに、両大戦間の女性芸術家の多様なセクシュアリティのあり方に注目し、クイアの視点からいわゆる「サフィック・モダニズム」を新たに考察する意義を見いだすことができた。 年度の後半はアメリカの調査を加えてこうした視点をさらに具体的に深めることを計画していたが、私的事情により海外調査が不可能となり、その状況が今日まで続いている点は本研究の進捗に影響を与える事態と言わなければならない。とはいえこれまでの調査を踏まえ、さらに理論的な展開を加えることによって、得られた知見を口頭発表としてまとめることができ、今後論考としてまとめるための見通しをつけることができた点は、着実な成果と見做すことができると考える。以上のことから、概ね順調に研究は進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度を迎え、これまでの研究の一部を論文として発表し、さらに研究を著書としてまとめるべく執筆に取り組む。現在私的事情により長期に海外に出ることが非常に難しい状況であり、今後のさらなる調査が困難な状況にある。こうした状況がいつまで継続するかの見通しは現時点ではつかず、その点が研究を進めるにあたっての課題だが、すでに調査先とは連絡を取り合っており、こちらの状況も伝え、調査の具体的な見通しは確認しあっているため、海外渡航が可能になった時点で調査を実行し、本年度予定されていた調査や資料収集を行い、それが不可能である場合には、これまで収集した調査資料に加えて、資料送付依頼等により資料を補い、これまでの成果を踏まえた考察を深めることで、研究領域に理論的な寄与をもたらす研究をまとめることは可能と考える。特に両大戦間の女性芸術家を巡って、インターセクショナルやクイアの視点といったこれまであまり重視していなかった理論的視点の意義を改めて認識することができた点は今年度において大きな収穫であり、この視点を生かして、「サフィック・モダニズム」をめぐる分析を深め、これまでの調査を踏まえて研究をまとめて行きたい。
|