研究課題/領域番号 |
20K00187
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
尾崎 彰宏 東北大学, 文学研究科, 名誉教授 (80160844)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | フェルメール / ヤポンセ・ロック(日本の着物) / カスパー・ネッチェル / 異国趣味 / 中国磁器 / オランダ / レンブラント / ムガルのミニアチュール / ハイヘンス / 平面性 / シセラを殺害するヤエル / 東洋 / ネーデルラント / アジア / 有田焼き / グローバリズム / 白と黒 / 和紙 / オランダ美術 / ネーデルラント美術 / 東洋貿易 / メランコリー / ファッション性 / 「白」と「黒」 |
研究開始時の研究の概要 |
17世紀のオランダ美術において〈アジア〉のインパクトがあらわれている思われるレンブラントとフェルメールを中心に、両者が〈アジア〉のインパクトとかかわり、創造的な作品を生み出していったプロセスを具体的に解明する。たとえば、「白」を際立たせ鑑賞者の心を揺さぶるフェルメール、「黒」のグラデーションによって、やはり同様に鑑賞者の「魂」を揺さぶる表現法を確立したレンブラントに〈アジア〉のマテリアルは不可欠であった。本研究は、〈アジア〉のマテリアルが、オランダ美術のファッション性(本質より属性を重視)する美的価値の転換に寄与したことを、新たに歴史的に位置づけようとするものである。
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研究実績の概要 |
フェルメールの絵画には、「アジア」を感じさせる事物は中国磁器だけではもちろんない。なかでも「ヤポンセ・ロックン」とよばれる着物を改良したガウンやアジア風の笠も絵画に描かれている。《地理学者》(フランクフルト、シュテーデル美術館 )や《天文学者》(パリ、ルーヴル美術館 )で二人の学者が着用している上着は、ヤポンセ・ロックとよばれる日本の着物を改良したものを思わせる。さらに《赤い帽子の女》(ワシントン、ナショナル・ギャラリー )で女がまとうガウンも日本の着物を思わせる。こうした着物は、オランダ使節が江戸城参府の折に、将軍から下城の返礼として二、三〇領の時服が使節に贈られたものだ。この数はかなりのもので一六九二年には一二三両の礼服を拝領されたという(ブルーキンク=ペーゼ)。こうしたものがオランダでは人気を博し、日本との交易品にも加えられるようになった。オランダでは日本の着物をガウンとして着用していたようで、フェルメールばかりでなく、カスパー・ネッチェルの《クリスティアン・ハイヘンスの肖像》(ハーグ、市立美術館)とかフランス・ファン・ミーリス《手紙を書く女性》にも見ることができる。また《フルートを持つ女》(ワシントン、ナショナル・ギャラリー)に見られる笠は《中国服を着たヨーロッパ人》(個人蔵)の被る笠を連想させる。 陶磁器の白地にも敏感に反応したオランダ人の感性は、「ヤポンセ・ロック」や日本の漆を用いたタンスを解体して壁に用いたり、東洋からやって来た珍品に敏感に反応し、それを自分たちの生活の中に積極的に取りいれていった。「異国趣味」を積極的に取りいれたオランダ人の美意識が、ヨーロッパの守旧的な国家のなかにあって唯一の市民国家としての輝きを与えたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(理由)これまでコロナ禍と一時的な体調不良で、計画していた海外調査ができていなかったが、ようやく今年度オランダの研究機関で実施することができた。しかし、海外調査には、予定したよりも3年間のブランクがあり、事前の準備などの再調整が必要になり、研究の進捗に遅れが出た。計画見直し、最善の方法で実施するため、研究実施の期間の再延長を申請した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
(研究の推進方策) ・昨年度末に遅れていたオランダでの調査を終えたことから、その資料を加味してオランダと東洋の問題をフェルメールとレンブラントに焦点をあてて研究をまとめる。 ・日本の着物(ヤポンセ・ロック)や中国の磁器は、装飾性や光を反射する輝きによって魅力的で新しい趣味をオランダに与えた。そこで生まれたセンスは、オランダにおいて流行したヴァニタスの心性と重なりあうものがある。当初「ヴァニタス」は、奢侈な事物を虚飾として、人生の虚しさへ繋がるものとした。しかしここで展開する「ヴァニタス」は、センスに繋がるもので常に留まらない動きの感覚である。それは心地よさであり美である。オランダ人は「ヴァニタス」がもつ、この世界に対するネガティブな視点から、世界を肯定する見方へと転換させた。感性の転換を起こさせる要素として、中国磁器など東洋の事物の魅力が一役買った。こうした点を中心に新たな静物画論を「ヴァニタウス」というテーマを軸に展開する。
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