研究課題/領域番号 |
20K00194
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
小林 頼子 目白大学, メディア学部, 客員研究員 (10337636)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 17世紀オランダ風俗画 / ongelijcke gelijckheyt / Fransiscus Junius / Pictura Veterum / 美術市場 / 類似と相違 / 現代の人物画 / ヘーラルト・テル・ボルフ / 模倣 / 借用 / 相互参照 / テル・ボルフ / modern / 17世紀オランダ画論 |
研究開始時の研究の概要 |
17世紀オランダ風俗画家ヘーラルト・テル・ボルフは修業中に父から「modernであれ」という訓戒を受け取った。本研究の狙いは、テル・ボルフ及び彼に影響を受けた17世紀後半のオランダ風俗画家の様式変化、主題選択を、この「modern」なる言葉を軸に再記述・再解釈することにある。具体的には、1. テル・ボルフの父が息子に与えた「modernであれ」なる訓戒の真意 2. その訓戒のテル・ボルフによる理解と、彼のその後の様式展開、主題転換 3. それが17世紀半ば以降のオランダ風俗画家の様式展開、主題選択に及ぼした影響 4. 当時の画論書中の用語「modern」との意味の異同等を分析・整理する。
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研究実績の概要 |
2021年度は、2020年度に引き続き、17世紀オランダで制作された風俗画相互の類似と相違を、美術市場という観点から掘り下げた。己の画家としてのアイデンティティを守りつつも、需要者・受容者である美術愛好家の立場から見た好みや流行を捉え、作品化することは、絵画供給の側に立つ画家たちの必須の課題であり、そうした状況こそが類似作品の制作を促したのではないかと考えたからである。往時のオランダの美術市場は、画家の数、その制作数ともにきわめて大きく、画家相互の競い合いが熾烈を極めていたのである。 一方で、風俗画家たちが取り上げる構図、テーマの類似の程度は、単なる参照として見過ごすことができないほどで、ときには、文字通りの模倣に近い作品も制作され、市場を賑わした。こうしたことを往時の人々ははたしてどのように捉えていたのか。当然出てくるこの種の疑問に答えるべく、17世紀の美術理論家たちの言説――なかんずく、Karel van Mander (1648-1606)の Het schilder-boeck (1604)、Fransiscus Junius(1591-1677)のPictura Veterum (1637、オランダ語訳1641)、Gerard de Lairesse (1641-1711)のGroot schilderboek (1707)――を参照することとした。彼らと彼らの著書は17世紀オランダの画家や美術愛好家に大きな影響を及ぼしていたからだ。調査・考察の結果、とりわけJuniusが言及するところの een ongelijcke gelijckheyt (似ていないが似ている)という自己撞着的な概念に、そうした類似のよって来たる考え方があると結論した。その成果は、『フェルメールとそのライバルたち―ー絵画市場と画家の戦略』(KADOKAWA)にまとめ、2021年11月に刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の上記の実績では、17世紀オランダ風俗画を、Gerard ter Borch (1617-1781)が父から受けた訓戒――ordonantsij van modarn (現代的な作品・構図)を描くようにという勧め。本科学研究費課題の核心でありタイトルの一部でもある――から議論を進めた。風俗画から現代の人物画へという、この用語の変換は、往時の風俗画家たちの立ち位置を理解する上で、きわめて重要な意味を持つ。なぜなら、相互に類似する作品を制作しつつも、風俗画家たちが、17世紀第4・四半世紀以降に勃興してくる古典主義を取り入れ、風俗画の低い位置づけから脱出を試みていく道筋を理解する上で、大いに役に立つからだ。それは、受容者である絵画愛好家の求めに応える画家の姿を捉える際にも、格好のキーワードとなった。 そうしたGerard ter Borchの父の訓戒を中心に据えて書いた『フェルメールとそのライバルたち』(実績欄で挙げた拙著)では、その結果、17世紀におけるオランダ風俗画の展開をきわめて首尾一貫した形で記述することが可能になった。分断していた第3・四半世紀までの風俗画の展開と第4・四半世紀以降の展開をつなぐ接着剤の役目をも果たしたからだ。 本進捗状況を「おおむね」とした理由は、コロナ禍のもとで、海外調査に出ることがむずかしく、根本かつ重要史料であるGerard ter Borchの父の訓戒が書かれた手紙(Lugt Collection, Paris)をオリジナルでなお実見・確認できていないからである。複写物としては他の研究者の刊行物ですでに確認している。しかし、現物確認が基本となる史料はなお未見である。他にも、現物確認を要するオリジナル史料が幾つかある。コロナの感染状況が改善し、実見できる機会を待っている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
本科学研究費課題に応募した際の計画調書中の「本研究をどのように進めるか」に記した項目に従って以下に推進方策を記す。 ①文献調査:海外からの購入が中心となる関連文献の購入については、このところの国際情勢を反映し、送達に予想以上の時間を要するようになったため、早めの注文を心がける。また、古文献がデヂタル化され、ネット上で手に入るケースも多くなったので、検索の精度を上げ、それらネット上の資源の一層の活用をはかりたい。Getty Instituteが公開している美術関連資源も、これまでさほど使用してこなかったが、今後は大いに参照し、調査の能率を上げたい。 ②海外美術館踏査による研究:今後のコロナ感染の状況次第になるが、パリのLugt collectionには、渡航解禁となり次第、調査に出たいと考えている。また、ほとんどが海外美術館に所蔵されている第4・四半世紀のオランダ風俗画家の作品を、前年度の研究から研究上の重要性が明らかになったのを受けて、集中的に熟覧していきたい。 ③国内外の研究者のネットワークづくり 国内:2021年度中に、国内で17・18世紀オランダ美術研究会を立ち上げ、第一回会合をリモートで実施した。2022年度は、本科学研究費課題に関して発表を行うとともに、他学の、同じ分野を研究する者と相互交流をはかり、さまざまな視点の共有・気付かなかった観点の学習・今後の共同研究の可能性を探る。 国外:これもコロナの感染状況次第となるが、上記研究会に、関連分野で活躍する海外の研究者をリモートで招聘し、相互の交流を図るとともに、相互啓発の機会をつくり、彼我の研究のタイムラグを縮めるべく努めたい。
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