研究課題/領域番号 |
20K00197
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
坂上 桂子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90386566)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | ニューヨーク / パリ / 印象派 / 都市 / 新印象派 |
研究開始時の研究の概要 |
19世紀後半パリの大改造により出現した新しい都市は、画家たちの大きな着想源となり、印象派や新印象派の画家たちはパリを主題とした作品を数多く生み出した。 20世紀初頭、同様にアメリカでは、建物の高層化など都市開発が急速に発展するなかで、ニューヨークを主題にした一連の絵画が創造されたが、その担い手の多くは19世紀パリで印象派や新印象派を学んできた画家たちであった。本研究では、パリからニューヨークの表象へと、彼らの関心がいかに引き継がれ、展開されたのかを見ていく。その際アメリカにおける新印象主義の受容という美術史的視点に加え、同時に、災害や環境など、現代都市が抱える社会的関心とも結びつけて考察する。
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研究実績の概要 |
本課題は、19世紀後半にフランスで展開したパリの表象に関わるテーマや様式が、20世紀のアメリカで、どのようにニューヨークの表象のなかに吸収され、発展していったかを探求することにあり、前年度までは、代表的画家たちについてそれぞれ研究を進めてきた。今年度は最終年度を迎えるにあたり、個別の画家の研究と同時に、これまでの研究成果のまとめとして、全体的な流れや特徴を把握することを目的とした。 アメリカにおける20世紀初期の美術の特徴として、印象派、あるいは新印象派の受容を前提として、これまでもっぱら印象派を起点に考察を展開してきたが、むしろアメリカの場合、「リアリズム」の傾向が強く、印象派よりもマネ、ドガ、ドーミエといったリアリズムの影響が大きく、その流れのなかで、さらに20世紀中期以降への展開までもが展望できることがわかってきた。というのもアメリカにおいては、欧州の伝統への尊重と敬意と同時に、アメリカ独自のアイデンティティーの創出への拘りと信念とが、多かれ少なかれどの画家においても葛藤としてどこかにあり、それらがしばしば絵画におけるテーマおよび様式に反映しているように考えられるからである。 アメリカの画家たちの都市表象は、世紀転換期における産業化・都市化といった社会的背景のなかで、フランスにおけるリアリズムの主流に見られたようなメッセージ性、とりわけ否定的要素は慎重に排除され、むしろ異なる意味での現実を伝えている。たとえば、ハッサム、ヘンライ、スローン等の作品に見出されるのは、より婉曲的かつ楽観的なイメージといえる。そこでは、美術マーケットも強く意識されており、受容にかかわる問題も大きい。 フランスにおいて印象派やリアリズムとして生み出された流れが、アメリカにおける独自の展開へといかに続くかを、ここでは、多様な角度から考察してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3年の期間にて課題全体をまとめる予定であったが、コロナ禍もあって、現地調査ができなかった状況が当初あった。とはいえ同時に、新印象派の受容がアメリカにおいては当初予想したほど、必ずしも多く見出せないことがわかりはじめた。新印象派の代表的画家ジョルジュ・スーラの代表作がアメリカの美術館にフランスよりもむしろ早くから積極的に収蔵されていることが物語るように、批評家は新印象派を高く評価し、コレクターや美術館は、購入を積極的に勧めた事実はある。そのため、この意味での受容は確かに重要で、影響は無視できないものの、他方で画家たちの作品レベルにおいては、点描という明確な様式への関心についてはさほど顕著には表れておらず、その影響関係は表面的にはなかなか見えにくいのである。 こうした背景には、アメリカにおける印象派から新印象派の受容、あるいはパリからニューヨークの都市表象への展開は、アメリカ特有のアイデンティティーの創造という要素が加わることによって、とかく問題が絡み合い、複雑化しているという状況があると考えられる。そのため、単純な受容の流れとして両者の影響関係を捉えるのは難しいことが判明し、本課題では、考察の対象とする作品やアーティストの幅を、当初予定したよりも大きく広げることにしたのだった。 以上の変更にともない、複数の研究者の協力を得る必要が生じ、以降、より総合的な研究を進めるようになったため、当初予定したように、今年度をもって研究成果をまとめるには至らかなかった。とはいえ、研究協力者たちの研究もかなり進展してきており、相互の情報共有もでき、成果はうまくまとまってきたものと思われる。次年度はこれらをうまく取り入れ、全体の流れを展望すべくひとつの研究へとしていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、最終年度となるため、これまでの研究成果として、1,印象派および新印象派についての都市表象について代表者がまとめるものと平行して、さらには、2,研究協力者が進める各研究ついてまとめ、全体を統合することで19世紀から20世紀へのパリからニューヨークへの都市表象、都市とアーティストの問題を総合的見地から捉えた研究成果とすることを目指す。 研究協力者の研究は、吉村真(ピエール・ボナール)、森万由子(モーリス・ドニ)、由良茉委(マリー・ローランサン)、玉井貴子(ジョージア・オキーフ)、誉田あゆみ(岡田謙三)、桝田倫広(河原温)で構成される(カッコ内は研究課題)。それぞれの研究に基づく発表と議論を昨年度に続いて研究会にて重ね、情報を共有しつつ、研究を進める。また同時に、論文として各自が担当部分を執筆していく。最終的にはこれらを総合し、本研究課題の成果として、出版社から一冊の著作を刊行する予定にある。 研究会では研究協力者の研究について、全員で情報および意見交換をよくすることで、内容がそれぞれ断片的なものにならいように調整を試みる。全体として統一的流れを持ち、本課題から逸脱せずにテーマがクローズアップされるものとするように心がける。 なお研究協力者が展開する各論のテーマとしては、いわゆる都市表象に限らず、都市での生活、アーティスト自身の都市体験など、都市と美術に関わる課題をより本質的な部分にまで掘り下げた問題も扱われる。すなわち、パリとニューヨークに関わる具体的都市表象の特徴の研究や比較に限らず、都市での交友関係や、社会背景と芸術創造との関わりなども考察対象とする。以上により、19世紀末から20世紀にかけての流れのなかで、都市の近代・現代とその生活が、美術作品を通して浮かび上がるものと考える。
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