研究課題/領域番号 |
20K00292
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
西本 寮子 県立広島大学, 地域創生学部, 教授 (70198521)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | とりかへばや / 有明の別れ / 中世王朝物語 / 源氏物語の享受 / 藤原隆信 / 無名草子 / 高倉院 / 平氏文化圏 / 在明の別 / 平家文化圏 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、中世王朝物語のうち『とりかへばや』『在明の別』など、始発期に成立した物語に焦点を合わせ、その表現の特徴を整理して成立過程を見直すとともに、『源氏物語』の古典化と注釈の誕生によって変化したと推測される物語享受の様相の変化を辿り、背景としての平家文化圏のありようを重ね合わせる。これにより、時代の変革期にあって、前代から続く文化を継承し、新たな物語を生みだす水準の高さを持ったのはどのような文化圏であったのか、その実態の解明を試みる。始発期の中世王朝物語は、どのような文化圏で成立したのかという課題に、可能な限りこたえようするものである。
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研究実績の概要 |
『今とりかへばや』および『有明の別れ』が成立した時代ー概ね12世紀中葉以後『無名草子』成立までーを、中世王朝物語の始発期とみなし、物語の創作と享受の場としての摂関家周辺を中心に、当該時期の時代の状況の調査と考察を続けている。この時期は、天変地異が続き、平氏の台頭と滅亡があるなど、時代の転換期であり、権力掌握者もめまぐるしく変わった。この時期に成立したふたつの物語は、『源氏物語』から続くつくり物語の様相を色濃く反映する一方で、九条家や建春門院ら女院たちの動向が見え隠れするという特徴を持つ。本研究では、『今とりかへばや』と『有明の別れ』が、前代から続く伝統的な考え方と新しい時代のふたつの時代の状況を併せ持つ点に注目し、物語を取り巻く時代の様相を明らかにすることを主たる目的としている。 時代の状況を知る手がかりとして、歴史研究や文学研究、とりわけ飛躍的に進んだ平氏の時代の研究を概観、整理した上で、『玉葉』と周辺資料を読み直すことを続けている。この間に公表した「『無名草子』の老尼が見た時--中世王朝物語始発期の一断面ー」(『中世王朝物語の新展望』、2022年、花鳥社刊)では、『玉葉』から窺われる、兼実の父祖の供養、高倉院にみられる建春門院の供養のあり方に注目したところである。 建春門院の動向を注視し、相次ぐ女院の死に時代を不安視する兼実の心境や、控えめながらも姫君の養育と成長に心を砕く記述が窺える殊に注目すると、将来への野望が垣間見える。藤原清輔を師と仰いで和歌の修練を密かに続けていること、清輔の死を深く嘆きながらも俊成に接近する姿も印象的である。姫君の成長と、自身の和歌の修練を丹念に書き留める姿勢の先にすけて見える次代を担う者としての兼実の思いを、わずかずつではあるが、掬い取れている。物語の創作と享受の場の一端の解明が可能であると考え、研究を続けているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍に加え、2021~2022年度に身近なところでおきた諸事情に起因する慌ただしさが原因で研究の進展が遅れたことによる影響が現在にまで及んでおり、それが最も大きな研究遅滞の原因である。2022年度末から徐々に事態が好転したことから、遅れを取り戻すべく、諸資料の整理と読解をすすめているところである。 幸い、申請者が研究のよりどころとしている組織のひとつである中世王朝物語研究会をはじめとする複数の私的な研究会が再び活動を活発化させ、若い研究者による中世王朝物語研究が盛んになったことは大きな追い風となっている。オンラインと対面をうまく組み合わせる研究会において、始発期の成立と見られる物語についての、若い研究者による報告は刺激的かつ手堅いものであり、大いに啓発された。また、古記録を中心とする資料を読み進める中で、新興勢力である平氏の動向や清盛に対する見方がわかり、来たるべき新しい時代の中心で活躍する人々の日々の動向と、和歌を中心とする学びの実態がわずかながら浮かび上がってきたことは成果のひとつといえる。 引き続き、中世王朝物語の始発期の時代様相を浮かび上がらせるべく資料を読み進め、得られた成果を公表できるようにしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
幸いなことに1年間の研究期間延長が認められた。今後の本研究課題についての研究、作業の進めかたについては、次のように考えている。 まず、①12世紀後半から13世紀初頭の時代状況を探るための記録類の読解をすすめることについては、引き続き丁寧に行うこととする。そして、物語の創作と享受を支える場としての摂関家や女院・后の周辺の文化的環境の変化に関わる情報を得ることに努める。従来、目的に従って読まれてきた資料類を、先入観を持たずに読み進めることで見えてくる時代状況や環境の変化を、可能な限り把握する。次に、②学会や研究会に積極的に参加し、歴史研究、文学研究に関わらず、新たな研究成果をいち早く入手することに努める。さらに、③資料読解の成果と、研究の進展によって明らかになった12世紀後半から13世紀初頭、則ち、申請者が中世王朝物語の始発期と仮に名付けた時代の様相を整理し、4年間にわたって行ってきた研究のまとめとしたい。
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