研究課題/領域番号 |
20K00321
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
藏中 しのぶ 大東文化大学, 外国語学部, 教授 (40215041)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 唐大和上東征伝 / 禅 / 維摩経 / 戒 / 七仏通戒偈 / 南総里見八犬伝 / 曲亭馬琴 / 葛飾北斎 / 伝 / 賛 / 肖像 / 禅宗史伝 / 旃陀羅 / 正法眼蔵 / 碑文 / 題画 / 大安寺 / 淡海三船 / 文心雕龍 / 馬琴 / 八犬伝 / 資財帳 / 正倉院 / 墓誌 |
研究開始時の研究の概要 |
日本の伝は墓誌・官人薨卒伝に始まる。天平宝字四年(760)渡来僧道セン・菩提僊那の遷化を機に、中国の「碑文」体の伝が「賛」「序」の形式で成立する。本研究は渡来僧が住し、唐の長安西明寺の学問を継承した漢詩文生成の場、平城京の寺院ネットワーク《大安寺文化圏》を軸として《伝・讃と肖像の文学史》を構築する。共時的には天平文化、通時的には先蹤期の近江朝、継承期の嵯峨朝で古代を三期区分し、さらに平安朝漢詩文の《讃の系譜》を《伝・賛と肖像》《題画詩》によって再検討する。イタリア・フランスとの共同研究で『唐大和上東征伝』と金石文の注釈を英訳し、中近世を視野にいれた《伝・賛と肖像の文化史》を国内外に発信する。
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研究実績の概要 |
【1】大安寺の『南天竺婆羅門僧正碑并序』『大安寺碑文』、空海撰『故僧正勤操大徳影讃并序』の《賛》と同様、唐招提寺の鑑真伝、淡海三船撰『唐大和上東征伝』巻末詩群も《賛》の性格を持つ。これら《賛》は中国の碑文体の《伝》であり、《肖像》に対する《賛》として、高僧の日常の禅行・戒行を述べ、中国高僧伝「論」、玄奘伝『大唐大慈恩寺三蔵法師伝』「行状」に通じる《伝》の要約となっている。高僧の《伝》《賛》の背後には、東大寺・唐招提寺盧舎那仏の依拠経典『梵網経』の戒のほかに、唐代初期禅、特禅の『維摩経』受容が想定される。 【2】禅の高僧・仏菩薩の賛の出典は、初期禅宗史伝に遡る。これらから大安寺の道センを含めて【1】の古代の禅の質を再検討する。 【3】葛飾北斎画『百人一首姥がゑとき』は、馬琴と密接な交流のある北斎の「百人一首絵」である。その月―円―真如の表象は、連作の続きものとして構成される。これは『八犬伝』の富士山図―『維摩経』「不二法門」の意匠と同じ手法とみられ、その実態と意味を解明する。 【4】曲亭馬琴の古典理解を古代に活用する。『八犬伝』は戒の根本「七仏通戒偈」と『維摩経』「不二法門」を引く。その解釈は古代仏教の禅・戒の具体的な理解に大きく益する。『八犬伝』は仏教的には戒と禅を二つの柱とし、記紀神話を鏤め、勅撰集「序」や中世説話集を踏まえた狂言綺語観にもとづき、仇討ちと「一言の咎」によって言葉と人間のの不確かさ、危うさをテーマとするのではないか。 【5】「原文による宮澤賢治多読ライブラリー」:前年度の国際シンポジウム「日本文学と日本語教育が出逢うときⅡ」の成果を踏まえ、日本文学研究・国語教育を日本語教育に活用するため、カンボジア王立プノンペン大学と共同で発足し、鈴木貞美・山崎佳代子・浦和男・吉田慶子氏の指導を得て、国語教科書の本文・作品研究、日本語教材作成・朗読指導の研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【1】大安寺の『南天竺婆羅門僧正碑并序』『大安寺碑文』、空海撰『故僧正勤操大徳影讃并序』の《賛》と同様、鑑真伝の淡海三船撰『唐大和上東征伝』巻末詩群も《賛》の性格を持つ。これらの《賛》は中国の碑文体の《伝》であり、《肖像》に対する《賛》として、高僧の日常の禅行・戒行を述べ、中国高僧伝「論」、玄奘伝『大唐大慈恩寺三蔵法師伝』「行状」に通じる《伝》の要約となっている。高僧の《伝》《賛》の背後には、東大寺・唐招提寺盧舎那仏の依拠経典『梵網経』の戒のほかに、唐代初期禅、特禅の『維摩経』受容が想定される。 【2】禅の高僧・仏菩薩の賛の出典は、初期禅宗史伝に遡る。これらから大安寺の道センを含めて、【1】の古代の禅の質を再検討する。 【3】葛飾北斎画『百人一首姥がゑとき』は、馬琴と密接な交流のある北斎の「百人一首絵」である。その月―円―真如の表象は、連作の続きものとして構成される。これは『八犬伝』の富士山図―『維摩経』「不二法門」の意匠と同じ手法とみられ、その実態と意味を解明する。 【4】曲亭馬琴の古典理解を古代に活用する。『八犬伝』は戒の根本「七仏通戒偈」と『維摩経』「不二法門」を引く。その解釈は古代仏教の禅・戒の具体的な理解に大きく益する。『八犬伝』は仏教的には戒と禅を二つの柱とし、記紀神話を鏤め、勅撰集「序」や中世説話集を踏まえた狂言綺語観にもとづき、仇討ちと「一言の咎」によって言葉と人間の不確かさ、危うさをテーマとするのではないか。 【5】「原文による宮澤賢治多読ライブラリー」:前年度の国際シンポジウム「日本文学と日本語教育が出逢うときⅡ」の成果を踏まえ、日本文学研究・国語教育を日本語教育に活用するため、カンボジア王立プノンペン大学と共同で発足し、鈴木貞美・山崎佳代子・浦和男・吉田慶子氏の指導を得て、国語教科書の本文・作品研究、日本語教材作成・朗読指導の研究を行った。
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今後の研究の推進方策 |
【1】「平安朝以降の讃の文学」の先蹤として、古代の《伝・賛と肖像》を位置づける。戒律経典『梵網経』の影響には、《伝・賛と肖像》をもたらした大安寺・唐招提寺の渡来僧たちの関与が想定される。日常の戒と禅の実践行という観点から、古代の伝記叙述と初期禅宗史伝・『維摩経』を再検討する。 【2】仏菩薩・高僧の《伝・賛と肖像》は、日中の禅を介して、変化菩薩等に古典キャラクター化し、富裕町人層が担った諸芸能の場を通して広く普及し、新たな《賛》を生みだす。江戸中期には『訓蒙図彙』元禄版本や『和漢三才図会』等に大幅な増補がなされ、一応の定着を見る。そこで、【3】ジョルジュ・レスコヴィッチ・コレクションの摺物等の漢詩・和歌・狂歌・俳諧の賛と古典キャラクターについて、パリと共同研究を進める。同氏所蔵の葛飾北斎画『百人一首姥がゑとき』の絵の解読を進める。 【4】『八犬伝』の《伝・賛と肖像》の読みを深め、①『維摩経』「不二法門」と富士山の意匠、「冤」字の連環をさらにたどり、②記紀神話、③勅撰集「序」、③中世説話集『宝物集』『沙石集』等を踏まえた狂言綺語観を大胆にアレンジして、言葉の不確かさ、危うさを真の主題としていることを論証する。 【5】翻訳の方法と日本文学研究・国語教育研究を、海外の日本語教育に活用するため、「原文による宮澤賢治レベル別ライブラリー」刊行をめざして、カンボジア王立プノンペン大学との共同プロジェクトを進める。古典キャラクターを活用し、日本古典や伝統文化を海外の日本語教育でどう教えるかというテーマで、国際シンポジウムを開催する。 『水門ー言葉と歴史ー』31号の編集が遅れたので、編集要員を増員して早急に刊行する。上記の成果を踏まえ、「伝・賛と肖像の生成と出典・翻訳翻案のクロスメディア―」(『水門―言葉と歴史―』第32号小特集)として勉誠社から刊行の予定である。
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