研究課題/領域番号 |
20K00322
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
服部 訓和 日本大学, 商学部, 准教授 (40612784)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 川端康成 / サイデンステッカー / 冷戦文化 / Alfred A. Knopf / ハロルド・シュトラウス / 翻訳 / 寺山修司 / 日本PENクラブ / ノーベル賞 / 文化自由会議 / Knopf / 三島由紀夫 / 大江健三郎 / Grove Press / 冷戦 / ノーベル文学賞 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究はノーベル文学賞とその候補作を焦点とした総合的研究である。川端康成と大江健三郎という2人の受賞者、候補者だったとされる三島由紀夫、安部公房等の作品はいずれも1960年代後半までに集中的に翻訳されている。①なぜこの時期に日本の近代文学が集中的に翻訳・出版されたのか、②それが翻訳されることで高度成長期の日本文学の表現や思想的な枠組みにどのような影響をもたらしたのかといった問題を、米国の出版社の資料群(Alfred A. Knopf, Inc. Records、Grove Press Records)の調査(自筆資料等を含む)と、詳細な作品分析を通して多角的に考察する。
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研究実績の概要 |
エドワード・サイデンステッカーによる川端康成作品の英訳プロセスについて、総合的な検討を行った。知られるように川端のサイデンステッカー訳は、翻訳時に解釈を方向付ける省略がなされていること、その掲載誌に文化冷戦に関わる資金提供が行われていたことなどから、一種のオリエンタリズムとして批判的に論じられることが多かった。ただし、その翻訳の具体的な経緯については、資料が日米に散在していることもあって、必ずしも精確に把握されてはいなかった。そこで本研究課題のなかで調査したテキサス大学オースティン校所蔵のAlfred A. Knopf, Inc. Records (Manuscript Collection MS-00062)[Harry Ransom Center, The University of Texas at Austin.]を中心に、日本近代文学館所蔵川端康成書簡、シカゴ大学所蔵International Association for Cultural Freedom. Records[Hanna Holborn Gray Special Collections Research Center, University of Chicago Library. ]等をもあわせて参照し、その英訳をめぐる力学を実証的に検証した。結論のみ記せば、①サイデンステッカーらが川端作品に見た日本像は冷戦文化のコンテクストと照応しているものの、②川端作品を直接的な政治的意図でもって改変した事実は認められないことが明らかとなった、また、③川端自身は敗戦後の日本を国際社会に復帰させ日本文学を世界に開いていくことを目指しており、④川端文学の世界化という現象はむしろ世界的な芸術観の転回やジャポニズムの展開のなかで再検討できると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍による渡航制限によって海外での資料調査を行えない事態が続いていたが、令和四年度末にAlfred A. Knopf, Inc. Records (Manuscript Collection MS-00062)[Harry Ransom Center, The University of Texas at Austin.]を訪問調査することができ、その成果のうち川端に関するものを中心とした学会報告を行うことができた。さらに令和五年度にはコロラド大学ボルダー校ノーリン図書館にてEdward G. Seidensticker papers[University of Colorado Boulder Libraries, Special Collection, Archives and Preservation Department]を調査を行った。コロラドはエドワード・サイデンステッカーの出身地であり、その自筆日記を中心とした資料群である。Alfred A. Knopf, Inc. Recordsに所蔵されている資料はあくまでKnopf社の編集者ハロルド・シュトラウスとのやりとりを中心としたものであるため、同資料のみではサイデンステッカーの営為の全体は必ずしも明らかでなかった。そこで上記資料を調査したところ、自筆日記に加え、『New Directions』の編集者あったジェームス・ラフリンとの書簡も調査することができた。ラフリンはフォード財団の資金提供によって日本文化を紹介する雑誌『Perspective Japan』を編集・刊行しており、サイデンステッカーに川端「伊豆の踊子」の翻訳のみならず日本側での交渉や編集を含むエージェントに近い役割も果たしていた詳細も明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
訪問しての調査を計画していた資料としてシラキュース大学所蔵のGrove Press Records[Special Collections Research Center, Syracuse University Libraries]があり、ここまで実施してきた調査結果から浮上してきた資料としてIntercultural Publications mss., 1952-1956[Lilly Library, Indiana University, Bloomington)]がある。前者はバーニー・ロセットが大江健三郎作品等の日本文学作品を翻訳刊行したGrove Pressの資料であり、後者はジェームス・ラフリンが川端「伊豆の踊子」を掲載した雑誌『Perspective Japan』を刊行した出版社である。Intercultural Publicationsは冷戦文化を主導した雑誌のひとつとしても知られており、川端に限らない日本および日本文化への眼差しの歴史性を検討するうえでも重要な資料であると考える。今後はこれらの資料を調査したいと計画しているが、コロナ禍以来の渡航費の急騰と円安の急進によって渡米しての調査を実施するには困難が予想される。その場合は遠隔での複写依頼によって可能な限りの調査を行う予定であるが、どのような方法で具体的にどの資料を調査するかについては検討中である。一方で、すでに調査・収集した資料は必ずしも川端およびサイデンステッカーに関連する資料のみではなく、1950年代から1960年代を中心とした日本文学の世界化に関する多様な資料が収集できている。川端・サイデンステッカーに関する検討を論文化していくとともに、これらの資料も同時進行的に分析し、その成果を順次アウトプットしていく予定である。
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