研究課題/領域番号 |
20K00338
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
杉山 欣也 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (90547077)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | オスカール・ナカザト / ニホンジン / ブラジル日系文学 / 郷愁 / saudade / 日本人移民 / 越境 / 西田季子 / 椰子樹 / コロニア詩文学 / 短歌 / 汽水域の文学 / 小説 / 日本語文学 / 移民 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、ブラジル日系文学の現在を、小説と短歌を題材に調査・考察し、現地化に伴う変容過程と作者たちの心性を、同人誌活動に着目して解明する。1908年の日本移民到着以来続くブラジルの日本語文学は1980年代以降、衰退過程にある。一方、日本語のできない世代がポルトガル語でその文学を継承するといった現地適応が進行している。その調査考察は消失前に行われるべき急務であり、また文化的・言語的越境に伴う変容過程を分析する好機でもある。本研究ではとくに雑誌『ブラジル日系文学』『椰子樹』に着目し、テクストを分析する一方、インタビューやイベント観察を通じて実態解明を図る。
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研究実績の概要 |
2022年度はコロナ禍の中、7月8日にブラジル人作家オスカール・ナカザト氏を金沢に招き、「ブラジルの日本移民とアイデンティティの問題 saudade」と題する講演会を開催したことが大きな成果として掲げられる。これはコロナ禍以降初の著名作家講演ということで金沢大学の学生、教員、また一般市民を含む聴衆で海上教室が満席となり、またzoomによる同時配信によって全国の聴衆がこれを聞いた。これに先立ち、杉山も7月6日、金沢大学図書館を会場に「ブラジルの「ニホンジン」」と題して講演を行ったほか、同図書館において「ブラジルの「ニホンジン」」展示を行い、『石川県移民名簿』など本研究において収集した貴重資料を展示した。さらに北國新聞9月11日読書欄にオスカール・ナカザト『ニホンジン』(水声社)の書評を発表した。
その前後に金沢大学における比較文学研究者たちと連続オンライン研究会「越境と郷愁」を、この会を含めて都合3回開催したことにより、ブラジル日系文学における重要な概念「saudade(郷愁)」という主題が、ウクライナ、朝鮮半島、フランス、ドイツなどにも認められ、それぞれ固有の文学的主題として確立されていることから、ブラジル日本移民の「saudade(郷愁)」が世界的な普遍性とブラジル日本移民ならではの固有性とに彩られていることを参加者とともに確認した。
2023年3月設立の金沢大学人間社会研究域グローバル文化・社会研究センターに「越境文化研究部門」が設立され、杉山がセンター長に就任したことは、これまでの活動が認められた証である。また『増補改訂デジタル版 日本近代文学大事典』において新たに「日本人移民・植民者の文学(南米)」が立項され、杉山が執筆したこと(秋公開)はブラジル日系文学研究の発展に本課題が寄与したことを物語る。さらにブラジル日系文学をテーマにした博士論文1、卒論1で主査を担当した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響や体調不良もあり、ブラジルへの出張調査ができなかったこと、長論文を発表できなかったことが悔やまれる。その一方で、『ニホンジン』邦訳刊行に伴い研究対象でもある作家オスカール・ナカザト氏来日の機会を捉えて講演会と杉山自身の講演、展示を開催したことや、正常化した国会図書館などを活用して次の研究論文の準備に着手できたことは喜ばしい成果である。また『増補改訂デジタル版 日本近代文学大事典』の執筆や金沢大学人間社会研究域グローバル文化・社会研究センターの設立など、次の大掛かりな研究の足場を固めることができたことにより、研究の進捗状況としては前記の反省点は相殺されたと考えている。そのため(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
まずは本年度中に、国会図書館や日伯協会(神戸)の資料を活用しつつ、ブラジル日本移民歌人である細江仙子と岩波菊治に関する論文を発表したい。細江仙子はブラジルで移民の医療に当たった父親の関係からブラジルと日本両方で歌人として名をなした人で、従来は細川周平『日系ブラジル移民文学 日本語の長い旅』(2012年)においてブラジル移民歌人たちに与えた影響の側面が論じられている。しかしブラジル移住という体験は細江自身の短歌についても大きな変化をもたらしたことは明白であり、これを論じたい。また岩波菊治についても前掲書などでそのブラジル移民に与えたアララギ調の影響などが論じられているが、これも岩波自身の移民体験の問題として捉え直す必要がある。また、移民作家・中田みいちよに代表されるブラジル日系文学における「女性」「準二世」という新たな主題も芽生えており、これに対してなんらかの論述をしたい。
次に金沢大学人間社会研究域グローバル文化・社会研究センター・越境文化研究部門において越境と郷愁に関する共同研究に着手する。ドイツ、フランス、アメリカ、朝鮮半島などの移民文学に通暁した仲間たちに、このたびスペイン語圏の文学を研究する人を募集することとなった。ここを比較文学研究の大きな拠点として発展させつつ、従来の研究会活動を行うことによって、大きな研究発展の芽を育てたい。
最後に、コロナ禍以降さらに衰退が進んだと伝えられる日本語によるブラジル日系文学の現状を、ブラジル実地調査によって確認したい。これは本研究のオリジナリティである現在系の文学現象を論じる上で欠かせない調査であるが、コロナ禍により停滞していた側面である。あるいはコロナ禍がもたらした変容と言えるかもしれない現在の状況をつぶさに観察し、その姿を記述して言葉に留めたいと考えている。
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