研究課題/領域番号 |
20K00349
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
伊海 孝充 法政大学, 文学部, 教授 (30409354)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 能楽 / 謡本 / 書誌学 / 出版史 / 出版 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、謡本出版における書肆が果たした役割について考察し、江戸時代に謡本出版が爆発的に広がった文化的背景を追究していく。従来の謡本研究はその本が製作された時代の大夫やその弟子の活動に注目し研究されることが多かったが、謡本出版発展期には素人たち重要な役割を果たしたと考えられる。そこで本研究では寛永期から明暦期に刊行された謡本群に注目する。この時代は、低品質にも関わらず、謡の秘伝をも刻した詳細な内容を有している謡本が、複数の書肆から刊行された。こうした謡本の成立過程を分析することで、謡本制作における素人の活動の重要性を明らかにしていく。
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研究実績の概要 |
2023年度は、江戸時代初期に刊行された代表的な観世流謡本整版本の一つ「寛永中本」の詞章系統の再考を行なった。 寛永中本は、従来の研究では本文が玉屋謡本系統、節付が元和卯月本系統と把握されてきた。しかし、これまでの私の研究によって、整版玉屋謡本系統という系統の存在自体に疑問が生じた。今年度の研究では、寛永中本の詞章の特質を詳細に分析することによって、江戸初期観世流謡本の詞章系統の捉え方を再考することを試みた。 まず、本文については、従来言われていたように光悦謡本と元和卯月本の間には大きな断絶がないこと、光悦謡本と元和卯月本の「中間的」といえる特徴をもつ謡本は玉屋謡本以外にも複数存在し、それらを「玉屋謡本系」と括ることができないこと、謡本ごとに本文系統を説明することは不可能であり、所収曲によって個性があることを指摘した。さらに、本文の異同はワキの台詞に集中していることなども明らかになった。 次に、節付については、先行研究が指摘するように、元和卯月本系統と思える曲が確かに多い。しかし、元和卯月本の節付をそのまま写したわけではない、という点が重要であった。どの曲においても光悦謡本と同じ節付が混在し、曲によってはむしろ光悦謡本に近い節付をもっていた。また、どういった箇所が光悦謡本・元和卯月本に近いかなど、傾向があるわけでもなく、曲ごとに節付の特徴が異なるのである。さらに本文の系統と節付の系統が重なり合うわけでもないことが明らかになった。 このように謡本ごとの詞章系統を分析すると、寛永中本のような謡本が制作されたとき、版本の中に明確な底本が存在しないということが重要である。謡本は謡の稽古をするための本である。謡本写本は、その所持者の稽古の痕跡が残されている。それは版本でも同じであり、写本としての謡本の特徴を継承しているという、謡本研究における新視点を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の影響で、研究がだいぶ遅れていたが、今年度はその遅れをだいぶ取り戻すことができ、本研究の中心的な課題であった寛永中本の分析は、ほぼ終了した。ただし、書肆の関係という難題が残された。また、寛永中本と同時代に刊行された謡本の研究を2024年度に継続して行なう。
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今後の研究の推進方策 |
大きく分けて2つの研究を進めていく。 一つは、謡本刊行に関わった書肆の研究である。書肆自体の資料が不足しているので、謡本以外の刊行物を分析し、書肆と謡本の関係を考察していく。 もう一つは、観世身愛の節付を写したと謳う謡本の研究である。寛永中本の研究はほぼ終了したので、寛永卯月本・黒雪正本・寛永十年三月刊五番綴青表紙小本を中心に分析する。
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