研究課題/領域番号 |
20K00387
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
尾崎 俊介 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (30242887)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 自己啓発本出版史 / マインドフルネス / エピクロス / マルクス・アウレリウス / 心霊現象研究協会 / エリザベス・キューブラー=ロス / レイモンド・ムーディ / ロバート・モンロー / イアン・スティーヴンソン / トランス・パーソナル心理学 / ホール・アース・カタログ / ヒッピー・ムーヴメント / ベビー・ブーマー / スチュアート・ブランド / カウンター・カルチャー / LSD / アレクサンダー・テクニーク / ボディー・ワーク / 自己啓発本 / 自己啓発思想 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、アメリカの一般大衆の間で広く読まれている自己啓発本について、それがどのような経緯で誕生し、どのような発展・多様化を遂げて今日に至っているかを明らかにするものである。自己啓発本を出世欲・金銭欲といった低レベルな欲望を刺激するハウツー本として捉えるのではなく、より良い生を生きたいと願う普遍的な人間の願望に根差す文学ジャンルとして捉え直し、その存在意義を改めて問うことを試みる。
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研究実績の概要 |
本年度は、過去2年間におこなってきた研究成果のとりまとめを行うことに重点を置き、その結果、自己啓発本出版史である『14歳からの自己啓発』(トランスビュー、2023年3月20日、350頁)を刊行することができた。 本書は9章から構成される。第1章ではベンジャミン・フランクリンの『自伝』を契機として18世紀末のアメリカで「自助努力系自己啓発本」が誕生した経緯を解説し、続く第2章では19世紀後半の好景気を背景に、自助努力系自己啓発本の流行があったことを説明した。第3章では自助努力系自己啓発本とはまったく種別の異なる「引き寄せ系自己啓発本」が誕生した経緯説明とその代表作の紹介、第4章では引き寄せ系自己啓発本の具体的な内容について解説した。 第5章では20世紀半ばのアメリカで流行した「人間関係系自己啓発本」の誕生経緯を説明すると同時に、その代表的なライターとしてデール・カーネギーについて紹介し、第6章では20世紀半ばに女性向け自己啓発本が生まれた経緯を、また第7章ではいわゆる「ACIM系自己啓発本」について説明した。第8章では20世紀後半のアメリカにおける「死後生」言説と自己啓発本の関係について解説し、最後の第9章では21世紀に入って隆盛を見た「マインドフルネス系自己啓発本」について説明した。 以上、本書は自己啓発本の誕生から、21世紀のマインドフルネスの隆盛に至るまで、200年に亘る自己啓発本の歴史を扱った他に類を見ないものであり、この文学ジャンルを研究する後続の研究者にとって、なくてはならない画期的な参考書になったと思っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、当初アメリカ合衆国において文献調査を行う予定であったが、コロナ禍の状況に鑑み、当初の予定を変更して、研究成果のアウトプットを先行的に行うこととした。 そのため、当初予定していた研究計画とは異なるものとはなったものの、既に収集してあった各種資料の読解と分析に時間をかけることが出来た。またその結果として、アメリカの自己啓発本出版史にまつわる文学史の執筆を進めることが可能となり、実際に『14歳からの自己啓発』という本を商業出版として、トランスビューから上梓することとなった。 また上記研究実績に加え、アメリカの著名な自己啓発本である『ダイヤモンドを探せ』(角川文庫)の解説や、『現代ビジネス』(講談社)への記事提供(「『引き寄せ系自己啓発本』は、なぜ激しく賛否両論を引き起こすのか? 『引き寄せ系』の歴史を振り返って見えたこと」)など、自己啓発本にまつわる一般向けの紹介文の執筆も随時行った。 このように、書籍の執筆・出版や、様々な媒体への関連記事の執筆を行うことが出来たことを鑑み、本年度の研究計画は「おおむね順調に進展している」と判断してよいと思われる。 なお、上記のような理由により、本年度に予定していた研究費の使用は差し控えることとし、2023年度に全額を繰り越して、有意義に使用する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はアメリカにおける自己啓発本の出版史を明らかにすることを目的としたものであるが、これまでのところ「自己啓発本として読む『ホール・アース・カタログ』」と「スポーツと自己啓発、自己啓発としてのスポーツ」、それに「『死をめぐる自己啓発本』出版史」という3本の論文を発表してきた。本研究以前に公開している「アメリカにおける「自己啓発本」の系譜」「アメリカにおける「精神療法文学」の系譜」「アメリカにおける「女性向け自己啓発本」の変遷」「アメリカ自己啓発本出版史における3つの「カーネギー伝説」」「コピペされ、拡散されるエマソン」という5本の論考を加えると、既に8本の論文が揃ったことになる。 この流れを受け、2023年度は、1970年代のベビー・ブーマー世代の自己改革欲を刺激した「エサレン研究所」について、また近年の自己啓発思想の一つの潮流でもあるハワイの自己啓発思想「ホ・オポノポノ」の調査と分析を進める予定である。 カリフォルニア州ビッグ・サーにあるエサレン研究所は、1960年代から1970年代にかけてのアメリカで流行した「ヒューマン・ポテンシャル運動」の牙城であるが、「人間の潜在能力にはもっと大きな可能性がある」と主張するこの運動が、近年の自己啓発思想の在り方に与えた影響は大きい。一方、ハワイ起源の「ホ・オポノポノ」は、近年日本でも人気のある自己啓発思想であり、この2つの特異な自己啓発思想の成立・発展過程を調査・分析することにより、ここ数十年のアメリカ自己啓発思想の多様な在り様を浮かび上がらせることができるのではないかと期待している。 そして「エサレン研究所」及び「ホ・オポノポノ」についての論考の完成によって、予定していたすべての論考が揃うことになるので、これらの論考を最終的には一冊の研究書の体裁にまとめ、できれば年度内の出版を目指したいと考えている。
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