研究課題/領域番号 |
20K00421
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松田 隆美 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (50190476)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 中世英文学 / 聖書 / biblical paraphrase / 15世紀 |
研究開始時の研究の概要 |
中世イギリスでは、聖書そのものの英訳が禁じられた一方で、その内容を語り直した「聖書パラフレーズ」が中世後期に数多く作られた。特に15世紀に英語で作成された韻文の「聖書パラフレーズ」は、単に聖書の出来事を語り直すだけではなく、ナラティブに教訓的解釈を織り交ぜることで、一般信徒にとって必要な基本教理と信仰の姿勢を教える総括的な教化文学へと変容している。本研究は、教化という新たな機能をもった「聖書パラフレーズ」の特徴を、基本教理の織り込み、作品の意図された読者層、視覚的なナラティブ構造という3つの視点から明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は、15世紀に英語で作成された韻文の「聖書パラフレーズ」(biblical paraphrase)を対象として、このジャンルが一般信徒にとっての総括的な教化文学 として活用されていることを内容と写本の文脈の両方から具体的に明らかにするものである。研究の3年目にあたる本年は、Edmund of Abingdonが13世紀後半に著したSpeculum ecclesieを主たる対象として研究を継続した。Speculum ecclesieは、元来修道士を対象として基本的なカテキズムと戒律を教える教化文学だが、読者を在俗聖職者、一般信徒と変えつつ、アングロ・ノルマン語および中英語のヴァージョンが制作された。聖書からの引用やパラフレーズに注目しつつ、これらの複数ヴァージョンを詳細に比較し、想定される読者に対応する内容の変化を具体的に跡づけた。そこには、読者層の広がりあるいは変化に相俟って、観想のための手引きを、現世をより良く生きるためのガイドへと作り替えてゆく意図が読み取れる。本作品は、13世紀後半から15世紀末にかけて3言語で流通し、比較的多くの写本で現存しているにもかかわらず、これまで十分に研究されてこなかったが、比較研究によりヴァージョン間の違いが具体的に明らかとなった。 さらに、昨年度に、15世紀に制作された聖書ナラティブを対象として、「聖書パラフレーズ」の伝統が中世末期まで、多様性を保ちつつ継続したという文学史的展開を指摘したが、その伝統が初期近代のイングランドにおける出版物にも引き継がれていることをカトリック文化圏(特にイタリア)からの翻訳テクストの分析を通じて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Speculum ecclesieの諸版について比較研究を行い、そのなかでのカテキズムの扱われ方を読者層の変化に関連づけて論じることができ、その成果を日本英文学会全国大会で発表した。さらに、本作品を中英語聖書パラフレーズの文学史のなかに位置づけるとともに、「聖書パラフレーズ」の伝統が初期近代においても、多様なジャンルの作品中に継承されていることを具体例によって検証した。また、国内で、国内外の中世英語宗教文学の専門家数名による、対面の研究会を開催することができた。その意味で、当初の研究目的を果たすことができたが、一方で、コロナ禍による制約故に、海外図書館等における資料調査を次年度に延期することになった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、研究の最終年度として、現地調査による検証と成果の公刊を中心に据える。本研究の目的の一つに、聖書パラフレーズに基づいたナラティブ・エピソードやモチーフにかんして、中英語作品中の用例を分析することに加えて、教会美術や彩色写本における用例を収集する点がある。テキストとイメージの両方を比較検討することで、一般信徒のあいだでのナラティブやモチーフのポピュラリティを知ることが可能となるため、ヨーロッパ出張により現地調査を行う。また、中英語の聖書パラフレーズ文学およびその中世文学における受容に関して、英語の論考を刊行する予定である。
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