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3言語使用の社会における中世英文学

研究課題

研究課題/領域番号 20K00428
研究種目

基盤研究(C)

配分区分基金
応募区分一般
審査区分 小区分02030:英文学および英語圏文学関連
研究機関関西大学

研究代表者

和田 葉子  関西大学, 外国語学部, 教授 (00123547)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2025-03-31
研究課題ステータス 交付 (2023年度)
配分額 *注記
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
キーワードMiddle English / trilingual manuscripts / Old French / Latin / MS Harley 913 / MS Harley 2253 / macaronic verse / Middle Dutch / trilingual / French / manuscripts / Ireland
研究開始時の研究の概要

英語、ラテン語、フランス語の3言語が使用されていた社会において生み出された中英語の作品を正しく理解するために、一つの写本の中に複数の言語で書かれている作品が収められている場合、あるいは一つの作品の中に複数の言語が使用されている場合、または、一つの作品が複数の言語に翻訳されている場合について、それぞれ、すべての使用言語を含めた全体のコンテキストの中で、中英語の作品を考察する。複数の言語に通じていた中世の作家たちはどの言語で書くのかを、どのように決めたのだろうか。一つの言語による作品だけに注目していてはテキストを十分に理解することはできない。編纂されたテキストではなく、写本に立ち帰り考察を行う。

研究実績の概要

1066年、ノルマン人がイギリスを征服し、その結果、フランス語を母語とする人々がアングロ・サクソン人に取って代ってイギリスを支配した。そのため、宮廷をはじめ、行政、法律、軍事に関わる場では英語ではなく、フランス語が使われるようになった。ラテン語は、教会の権威のある言葉であり、知識人が学問を論じるための言語でもあったので、中世のイギリスでは庶民が話していた英語に加えて、フランス語とラテン語の3か国語が使用されていた。
そのような状況だったので、一つの写本の中に複数の言語による作品が収録されていることはよくあった。こうした作品群は、様々な言語によって書かれた作品から成っていても、同じ社会的、文化的コンテキストの下で、一つの目的をもって、ある読者(層)のために筆写されていたと考えられる。そうした写本の成立の詳細を知るためには、作品を個々に扱ったり、言語ごとに別々に研究するのではなく、複数の言語で書かれた作品群を一つの全体として研究すべきである。しかし、現状では、例えば、中世英文学においては、その写本に収録されている中英語の作品のみを集め、英文学というくくりの中で研究が行われている。本研究では、三言語の文学作品を一つの総体として観察することによって、写本の書かれた当時の状況が明らかになり、個々の作品の意味を深く理解出来ることを証明した。
さらに、異なる言語による作品が混在していても、作品の並べ方に大きな意味があること、そして、どの言語で書くのかという選択が、民族的な社会背景を反映していることもわかった。また、ラテン語の古典文学を元にした、英語やフランス語によるパロディの作品も多く、中世イギリスに生きた作家たちが、三か国語に堪能で、自由自在にそれぞれの言語を駆使して知的な諷刺作品を書いていたことも明らかになった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

コロナ蔓延のピークも過ぎ、今年度は海外での研究調査を予定していたが、変形性股関節症の治療のための手術を行い、渡航できなかったのは非常に残念であった。しかし、有難いことに、ロンドンの大英図書館所蔵の写本Harley 913は、すべてのフォリオの画像がデジタル化され、その鮮明なイメージをインターネット上で公開しているため、テキストへの書き込みなど、詳細にわたる研究が出来た。また、今年度も引き続き、メールやズームを利用して、アメリカ、イギリス、スペインの中世研究者と最新の情報を交換した。
具体的な成果としては、写本Harley 913に収められている中英語で書かれた詩『コケインの国』で使われているrussinという語がフランス語(正確にはノルマン・フレンチ)であることを明らかにした。これまで、この語はすべての学者によって、写本が筆写されたアイルランドの言語に由来すると考えられていた。その研究成果は国際的なジャーナルであるPoeticaにまもなく掲載されることが決まっている。また、14世紀に、イギリス中西部で筆写された大英図書館所蔵の写本Harley 2253に収録されている堕落した当時の修道会を諷刺した『ゆるき良き修道会』についても興味深い事実がわかった。すなわち、この作品はフランス語(ノルマン・フレンチ)で書かれており、一見、当時存在するすべての修道会を等しく批判しているように思われるのだが、実際には、修道会の中で唯一イギリス発祥のギルバート会を名指しで諷刺した詩であることがわかった。すなわち、フランス語話者であったイギリスの支配者階級が、アングロ・サクソン人の設立した修道会を嘲笑しているのである。フランス語で書くことにより、これら二つの民族の対立が際立ち、より皮肉が効いた作品に仕上がっている。

今後の研究の推進方策

今年度は変形股関節症のため手術を行ったので、海外での研究調査が出来なかった。しかし、今のところ、術後、比較的順調に回復している。したがって、様子を見ながら、来年度は夏季休暇、または2月後半から3月の間に、イギリスの大英図書館(ロンドン)、ケンブリッジ大学図書館、アイルランド共和国のアイルランド国立図書館(ダブリン)及び同じくアイルランド共和国のウォーターフォード市立図書館において写本の調査を行うとともに、日本では入手が困難な資料の収集をする計画である。現地では、同じ専門分野の研究者と最新情報の交換する。特にケンブリッジにはイギリス国内だけでなく、欧米各地から学者が研究に訪れるので、有益な議論が出来る機会を提供してくれる。また、来年度の秋には、ハーバード大学の中世研究者であるジェームズ・シンプソン教授を、私の本務校である関西大学に招へいすることが決まっており、共同研究をするので、この機会も大いに役立てたい。
今後の研究対象としては、大英図書館所蔵の写本Harley 913の収録作品と関係の深い作品を含む、3言語で書かれた作品を収録する Harley 2253等の写本、及びAncrene Wisse(隠遁修道女の手引き)の中英語と、その古フランス語およびラテン語の翻訳ヴァージョンを収録した17の写本を扱う。最終年度には研究の総括として成果を単行本にして出版する計画である。

報告書

(4件)
  • 2023 実施状況報告書
  • 2022 実施状況報告書
  • 2021 実施状況報告書
  • 2020 実施状況報告書
  • 研究成果

    (14件)

すべて 2024 2023 2022 2021 2020

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件) 図書 (3件)

  • [雑誌論文] “Russin in The Land of Cokaygne of London, British Library, Harley 913: an etymology reconsidered”2024

    • 著者名/発表者名
      Yoko Wada
    • 雑誌名

      Poetica

      巻: 99 & 100

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [雑誌論文] Three Lands of Cokaygne: in Middle English, French and Dutch2022

    • 著者名/発表者名
      Yoko Wada
    • 雑誌名

      Studies in Medieval English Language and Literature

      巻: 37 ページ: 1-25

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [雑誌論文] A riddle in Latin about an incestuous Irish family in London, British Library, MS Harley 9132021

    • 著者名/発表者名
      Yoko Wada
    • 雑誌名

      関西大学東西学術研究所紀要

      巻: 54 ページ: 60-67

    • NAID

      120007037573

    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [雑誌論文] A riddle in Latin about an incestuous Irish family in London, British Library, MS Harley 9132021

    • 著者名/発表者名
      Yoko Wada
    • 雑誌名

      Bulletin of Kansai University Institute of Oriental and Occidental Studies

      巻: 54

    • NAID

      120007037573

    • 関連する報告書
      2020 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [学会発表] 「フランスはイギリスが大嫌い?中世フランス語の諷刺詩 『良き快楽の修道会』で名指しされたイギリス・センプリンガム村の大修道院」2024

    • 著者名/発表者名
      和田葉子
    • 学会等名
      関西大学東西学術研究所研究例会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] そうだ、壁作ろう!―中世のアイルランドの町ニューロスに見る共同体の絆2023

    • 著者名/発表者名
      和田葉子
    • 学会等名
      関西大学東西学術研究所研究例会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] 中英語詩に描かれた老齢の苦悩 “Elde”, “Heye Louerd, thou here my bone”, “Herkne to my ron”2022

    • 著者名/発表者名
      和田葉子
    • 学会等名
      日本英文学会全国大会第94回
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] モテ男の行く末は―中英語詩 “Herkne to my ron” (私の歌を聴いておくれ)に見る老人の嘆き2022

    • 著者名/発表者名
      和田葉子
    • 学会等名
      関西大学東西学術研究所例会
    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
  • [学会発表] Three Lands of Cokaygne: Middle English, French and Dutch (会長就任講演)2021

    • 著者名/発表者名
      Yoko Wada
    • 学会等名
      日本中世英語英文学会第37回全国大会
    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
  • [学会発表] 二つのコケインの国:中世フランスと中世アイルランドと2021

    • 著者名/発表者名
      和田葉子
    • 学会等名
      関西大学東西学術研究所例会
    • 関連する報告書
      2020 実施状況報告書
  • [学会発表] The Middle English poem Land of Cokaygne as a satire of Paradise2020

    • 著者名/発表者名
      Yoko Wada
    • 学会等名
      日本英文学会第92回全国大会(シンポジウム第5部門)
    • 関連する報告書
      2020 実施状況報告書
  • [図書] Through the Lens of Faith: Eastern and Western Perspectives2023

    • 著者名/発表者名
      和田葉子 他
    • 総ページ数
      180
    • 出版者
      関西大学出版部
    • ISBN
      9784910433356
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [図書] Essays on the Occasion of the 70th Anniversary of the Institute of Oriental and Occidental Studies, Kansai University2022

    • 著者名/発表者名
      和田葉子 他
    • 総ページ数
      479
    • 出版者
      関西大学出版部
    • ISBN
      9784910433288
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [図書] Essays on the Occasion of the 70th Anniversary of the Institute of Oriental and Occidental Studies, Kansai2022

    • 著者名/発表者名
      The Institute of Oriental and Occidental Studies, Kansai University
    • 総ページ数
      576
    • 出版者
      Kansai University Press
    • ISBN
      9784910433288
    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書

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公開日: 2020-04-28   更新日: 2024-12-25  

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