研究課題/領域番号 |
20K00430
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
谷川 冬二 甲南女子大学, 国際学部, 教授 (50163621)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | W. B. イェイツ / シェイマス・ヒーニー / アングロ・アイリッシュ / アイルランド文芸復興 / アイルランド語 / 民衆詩 / 俳諧の連歌 / 解釈共同体 / ケルト / drawing room / サロン / シガーソン / イェイツ / アメリカ南北戦争 / モダニズム / 文化的多様性 / Foras feasa ar Eirinn / Sean-Ghall / Nua-Ghall / バラッド / 南北戦争 / cigar box fiddle |
研究開始時の研究の概要 |
アイルランド文芸復興という時代、および"drawing room"という私邸の一角に焦点を当て、英語の文献とアイルランド語のを行き来しながら、多様なアイルランドが融合していくさまを、詩人・作家の仕事の一部とみなして、探究する。"Drawing room"を取り上げるのは、そこが公と私の中間域で、詩人たちが新たなアイルランド像を実験的に唱道する場であり得たと思うから。18世紀から現代に至るまで利用され続けているこの空間が果たしてきた文化社会的機能は看過できない。
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研究実績の概要 |
2022年に俳諧の連歌から生まれた川柳に心惹かれたシェイマス・ヒーニーについて、アイルランド共和国リメリック大学において対面で、また、大韓民国東国大学主催のオンライン学会で口頭発表を行ったが、これらは、小林一茶の同じく俳諧に関心を抱いたW. B. イェイツとの比較を念頭に置いてのものだった。ともに我が国の俳諧が扱うテーマの広さ、野卑下品もあえてする精神に反応したものと思われ、それは西欧世界の純文学の伝統に対する彼らの感覚を揺るがすに充分な経験であったろう。アイルランドの事情に即してさらに言えば、人としての根源とユーモラスに向き合う流儀を知ることでもあり、少数派ながら多くが支配的地位に立つアングロ・アイリッシュと多数派でありながら従属的地位に留め置かれたアイリッシュとの境界を無意味とする何かにつながるものであろう。 2023年夏にエジプト・アラブ共和国エジプト・イギリス大学における発表で、2000年代初頭に北アイルランドの碩学から指摘があったにもかかわらず、アングロ・アイリッシュの文化的貢献がいまだ創作テクストの分析をベースにしては十分に測られていないことを指摘して、同席者の賛同を得た。秋には立命館大学のシンポジウムで、アングロ・アイリッシュ文学に対する批判的論調を作ったとされるダニエル・コーカリーが実はイェイツに非常に近いJ. M. シングを激賞している事実を指摘した。 両年の仕事を重ね、あらためて振り返ると、アングロ・アイリッシュとアイリッシュ、両者の距離が言われてきたほどには離れていなかったこと、離れているとしてきたのは、むしろ解釈する側、いわゆる解釈共同体の文化であることが見えてくる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界を覆った新型コロナ禍により、およそ2年の間勤務校において予想外の危機的状況に対応することを迫られた。その一方で、対面で口頭発表する機会が失われた。が、研究計画が大きく崩れたわけではなかった。 コロナ禍のさなかは少々不安だったが、2年の間に資料収集と整理に集中し、それをまとめ公にする機会のみが2年ずれて進行しているのが現況である、と今は言える。 2022年のリメリック大学における発表以降は、機会をとらえてアングロ・アイリッシュの文化的貢献をめぐる議論に関わるさまざまな文章をまとめ得ている。
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今後の研究の推進方策 |
1970年代に始まった京都のイェイツ研究会での活動をおよそ45年続けてきた。イェイツ作品の精読をひたすら繰り返すこの研究会で、一次資料を読み解く力を絶えず鍛えている。それはこれからも同様であり、私のすべての研究活動の基礎を成すものである。 今夏あたり、アルスター・スコッチに関する論考が共著の形で公になる予定である。学術論文というより一般読者向けの体裁ではあるが、実体は、アメリカ合衆国の戦場で19世紀半ばごろ以降アイルランド系移民を統合して新たな「アイルランド系アメリカ人という氏族」が生まれたのではないか、という試論である。確かなことは、戦い慣れた彼らの一部が刺激となってアイルランドの共和主義者の間で武闘派が急伸長したこと、彼らの動きをイェイツたちアイルランド文芸復興の中心的担い手が読み切れなかったことである。 武闘派の勢力がアイルランド自由国の成立以降、戦間期を経てアイルランドにおいて文学を受容し評価する共同体の中で最強のものを構成した、というのが、昨秋の立命館大学での発表以後の段階での見立てである。 したがって、今後は彼らとその後裔が作るこの解釈共同体の性格と発展と限界に焦点を当てて考察を重ねるとともに、イェイツらが主導したアイルランド文芸復興に象徴されるアングロ・アイリッシュの創作テキストの解析を進めたい。前者はこれまでに書き溜めた論考の再編集である程度の水準に達する見込みがあるので、後者により多くの力を注ぎたい。すでに、今夏、学習院大学で開かれる国際アイルランド文学協会の東京大会で、イェイツ初期の作品「アシーンの放浪」について発表できることになっている。さらに、早い機会に、彼の民衆詩への関心と実作とを掘り下げたい。これが、すでに発表した彼とヒーニーとの関係性をいっそう詳らかにすることを期している。
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