研究課題/領域番号 |
20K00473
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高木 信宏 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (20243868)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | スタンダール / 『パルムの僧院』 / 修正過程の考察 / 著者自家用本の研究 / 生成論 / 手沢本 / 外国文学 / フランス文学 / 近代小説 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、19世紀フランスの作家スタンダールの長編小説『パルムの僧院』(1839年刊)を対象として、その手沢本に記された備忘や加除の修正の考察を行う。スタンダールは同小説の改訂版の出版を目指して、各頁に白紙を綴じ込んだ手沢本2セットと、白紙綴じ込み無しのもの1セットを用いて、それぞれに夥しい数の書き込みを残しているが、先行研究においてそれらの総合的な比較・照合による考究が充分になされているとは言い難い。本研究では各々の手沢本の作製と使用について考証し、修正の性質による分類と記入時期に照らした傾向の把握を試み、スタンダールの創造的な営為の特徴を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本年度(令和5年度)は、『パルムの僧院』著者自家用本のうち、シャペール本を対象にして研究をおこなった。シャペール本については、1921年にパリのシャンピオン書店よりファクシミリ版が少部数の限定私家版で出版されたが,同刊本は古書での入手も図書館等での閲覧も共にきわめて困難である。また、1966年にヴィクトル・デル・リットがファクシミリ版の複製本を公刊したものの,これは複製の複製であって、画像の解像度は芳しくなく、とりわけ鉛筆での書き込みはほぼ解読不可能であった。 こうした現状を打開するために、シャペール本を所蔵するアメリカ合衆国のモルガン図書館&博物館から入手した高解像度の画像をもとに、先行研究に照らし合わせながら、著者スタンダールによる自筆の書き込みを考察し、すべての書き込みの転写をおこなった。さらにこれらの転写データを、モルガン図書館&博物館の許可を得、九州大学(研究代表者所属機関)の附属図書館と協働し、同館のデジタル・アーカイブス「九大コレクション」上で公開した。 なお、翻刻したテキストの点検にあたっては厳密を期するために、フランス国立科学センター(CNRS)附属・近代テクスト草稿研究所(ITEM)客員研究員であるフランシーヌ・グージョン氏を九州大学人文科学研究院に招聘し、共同ですべての書き込みに再度目を通し、意見交換をおこったことを付記しておく。 以上の成果により、シャペール本の高解像度の画像と書き込みの転写とを国内外の研究者の利用に供することができたばかりでなく、本研究の射程をデジタル・ヒューマニティーズ(人文情報学)の領域へと広げ、国際的な研究のネットワークや大学図書館とのコラボレーションを構築するなど、従来の実証研究の枠組みを超えて研究を展開する基盤が得られたことも、本年度において特筆に値する研究実績であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は『パルムの僧院』著者自家用本のうち、シャペール本にのこされたスタンダールの書き込みを考察・転写し、先行研究に照らしつつ、よりいっそう厳密なそのデータを構築するという当初の計画を完遂することができた。さらに、この成果を、文部科学省「デジタルとかけるダブルメジャー大学院教育構築事業~Xプログラム~」の採択事業である「ウェル・ビーイングの実現に貢献する高度人文情報人材養成プログラム:人文学Xデータサイエンスによる〈人文情報学〉大学院の設置」の一環として、九州大学人文科学研究院と同附属図書館との協働により、後者のデジタル・アーカイブスである「九大コレクション」上で令和6年3月27日に公開した。これによって国内外の研究者に本プロジェクトによる知見を広く提供し、さらに本研究を人文情報学へと展開させる基礎ができたことが、当初の計画以上に研究とその成果の公開とが進展していると考える根拠である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度における推進方策としては、フランス国立図書館から入手した『パルムの僧院』のもうひとつの著者自家用本であるロワイエ本の複製画像に関する研究を完遂するべく、スタンダールの自筆の書き込みの解読と転写、先行研究との照合などの作業を継続する。ロワイエ本の転写データを、さらにシャペール本とランゲー=アザール本の書き込みと照らし合わせつつ分析し、スタンダールによる修正過程の全容を解明する研究を完遂する予定である。これらの作業と併行しながら本年度内にフランスに渡航して、パリ市立歴史図書館が所蔵するランゲー=アザール本の閲覧・調査を実施し、マテリアルな側面からも著者自家用本の考察を試みる予定である。さらには各自家用本に残された書き込みの記述内容の考察にも着手し、テーマ論的な観点から表現の修正にかんする分析をおこないたい。以上の方策による研究成果については、学術論文等にまとめて公表する予定である。
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