研究課題/領域番号 |
20K00475
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
井上 暁子 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (20599469)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | シレジア・イメージ / トランジット性 / ロマン主義 / 神話化 / 翻訳 / 引揚げ / 多言語 / 紀行文学 / ドイツ=ポーランド国境地帯 / 境界 / 移動 / 流動性 / 移民 / ディアスポラ / ポストモダニズム / 国境地帯 / 地域 / 間テクスト性 / シレジア / 流通 / 多言語性 / アイデンティティ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、民族、文化、言語の交錯する地域であるシレジアを、モノ、人、イメージの行き交う空間とみなし、国別・言語別アプローチでは捉えることができないシレジア文学のトランジット性を、移動、ネットワーク、国際的流通によって開かれるシレジア文学のあり方、流動的アイデンティティという様々なレベルで論じる。さらに、それらの相互関係を検証し、従来の「中心/辺境」という二項対立の枠組みを超えた、現代シレジア文学研究への足がかりとする。
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研究実績の概要 |
2022年8月、「神話化されたシレジア・イメージの流通と変容」というテーマに関して、ワルシャワやベルリンの図書館で資料収集を行い、現地の研究者、翻訳家、作家と交流した。3年ぶりの渡航だった。 本研究の中心課題は「移動者を含む、シレジア内外からの視線により、多様な言語で複眼的に描かれたシレジアの地域像を明らかにすること」であるが、単発的に書かれた紀行エッセイが伝えるのは雑多なイメージの集積であり、シレジア・イメージの神話化のプロセスや、神話化されたイメージを受容した人々の存在が見えにくい。何より「シレジアのトランジット性」とは何か、という問い(それは単に、人の往来が激しかったということを意味しない)に対する答えが見えない。そうした問題を抱えながら調査を進めたところ、ポーランドが列強諸国に分割統治されていた19世紀、オーストリア=ハンガリー帝国治下、ロシア帝国治下で、ロマン主義的な興味・関心に応えるかたちでのシレジア表象が行われていたことが分かった。ロマン派詩人・画家のシレジア旅行がもたらしたシレジアの神話化の例として論じたい、と考えている。 渡航中、第二次世界大戦後シレジアから追放されたドイツ系住民の孫世代にあたる作家のポーランド語訳者に会い、現在ドイツ語圏におけるシレジア文学の創作およびポーランド語圏での受容について話したが、期待した成果は得られなかった。今日のドイツ語圏におけるシレジア文学は、もはや「追放体験」や「郷土愛」に還元されるものではないが、教養旅行と結びついた名所案内の性格が強いことが分かった。もっともこれは「場所の記憶」に対する関心の高さをうかがわせるものであり、ポーランド語圏のシレジア文学と比較することで、「地詩学」的な研究に発展しうると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3年ぶりの渡航の収穫は大きかったが、逆に、コロナ禍で渡航できなかった期間の空白を痛感させられた。シレジア関連の論文や著作はネット上に公開されることも少ないので、この3年間は手元の資料や作品を読むことに費やしていたが、思いがけず視野が偏っていたと感じた。 その一方で、シレジア同様、トランジット空間であるバルト海沿岸都市のグダンスクを舞台にしたパヴェウ・ヒュレに会い、短編集『冷たい海の物語』を翻訳し始めたことは有意義だった。グダンスクとシレジアでは全く異なるようだが、「地域のトランジット性」を文学はどう描きうるか、という点において重要な指針を与えてくれる作品であり、本研究へ還元される部分も大いにある。
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今後の研究の推進方策 |
2023年夏には資料収集のため渡航する予定である。また、本研究テーマに関する成果の一部を論文として今年度中に発表する。今年度中に、上記の短編集の翻訳を完成させる。
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