研究課題/領域番号 |
20K00478
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
井上 櫻子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (10422908)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 18世紀フランス文学 / 18世紀フランス思想 / フランス文学 / フランス思想 / 道徳論 / 『百科全書』 / 哲学 / 美学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ジャン=フランソワ・ド・サン=ランベールの思想体系と詩的創造の関連性を、彼が『百科全書』に寄稿した項目の典拠研究を軸として明らかにするものである。このような作業を通して、「18世紀は哲学の時代であり、詩的精神は死滅した」という従来のフランス18世紀の捉え方に修正を迫ると同時に、これまで編集長ディドロの功績にのみ光を当てられる傾向にあった『百科全書』研究に疑義を挟み、文学史・思想史上忘れ去られた複数の執筆者の協力によって完成された大事典の創作工房の内実を明らかにすることを目指したい。
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研究実績の概要 |
2023年度前半は、サン=ランベールが『百科全書』に寄稿した項目「立法者」の典拠研究に本格的に着手すべく、まず、本項目とモンテスキューの『法の精神』およびルソーの『社会契約論』との比較検討を進めた。また、大学の夏季休暇中に2週間パリに滞在し、フランス国立図書館にて項目「立法者」の典拠に関する資料調査を行った。さらに、2024年9月9日に慶應義塾大学三田キャンパスにて、王寺賢太著『消え去る立法者』合評会を開催し、18世紀における立法者のイメージについて登壇者と意見交換を行なった。なお、この合評会には、著者王寺賢太氏のほか、筑波大学准教授飯田賢穂氏、大阪公立大学教授前川真行氏、慶應義塾大学准教授川村文重氏(原稿代読による)そして本研究課題研究代表者が登壇した。 2023年度後半は、サン=ランベールの執筆項目「立法者」の典拠研究を進めるかたわら、18世紀後半から19世紀初頭にかけて活躍した劇作家ジャン=ニコラ・ブイイの制作したオペラ=コミック台本『レオノール』に注目し、作家の生涯について調査を進めるほか、『レオノール』とこれをもとにしたベートーヴェンのオペラ『フィデリオ』を比較検討した。そして、ベートーヴェンがフランス革命期のフランス・オペラから何を継承しているのか明らかにすることを試みた。この成果は、『慶應義塾大学日吉紀要 フランス語フランス文学』への投稿論文の形でまとめている。 なお、『百科全書』の項目「立法者」についての研究調査結果は、2024年度中に論文としてまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、サン=ランベールが『百科全書』に寄稿した項目「立法者」の典拠研究を単独で進める一方で、合評会の開催を通して、18世紀における「立法者」のイメージについて意見交換できたのは、当初予定していなかった成果である(この合評会の開催にあたっては、おもに旅費の拠出のため本科研費を使用している)。コロナ禍中は、オンライン形式で学会や研究会が開催されることが少なくなかったが、対面形式で行われた本合評会では、モンテスキュー、ルソー、ディドロの政治思想を中心的テーマとして登壇者、参加者間で活発な議論が展開された。その結果、研究代表者は、同時代の思想家たちの中でのサン=ランベールの位置をより明確に捉えられるようになったと思われる。 また、2023年度は、本務校の刊行する紀要への投稿論文の形で、ジャン=ニコラ・ブイイというこれまであまり注目を集めてこなかった台本作家の作品をベートーヴェンのオペラ『フィデリオ』と比較検討することにより、この作曲家が18世紀のフランス演劇から何を受け継いだかを明らかにした。ブイイ研究は、当初研究計画に予定されていたものではないが、ここから、歴史の流れの中で忘れ去られてしまった作家に注目することによって、これまで多くの研究がなされてきた「傑作」についても新たな視点から捉え直すことが可能であるという、これまでサン=ランベール研究を通して繰り返し主張してきた自説の妥当性を再確認することができたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度前半は、2023年度に着手した『百科全書』の項目「立法者」の典拠研究を進め、まずは本務校の刊行する紀要への投稿論文の形で成果を発信する。研究代表者は既に、サン=ランベールが『百科全書』に寄稿した項目「作法」や「名誉」の分析を通して、サン=ランベールが『法の精神』を精読し、さらにはモンテスキューの政治思想を乗り越えようとしている様子を確認している。この成果を活かしつつ、モンテスキューの読者、サン=ランベールという観点から、これらの項目と項目「立法者」の関連性を探ることとする。さらに、ルソーの『社会契約論』との比較検討から、項目「立法者」の執筆年代を割り出すことを試みたい。また、典拠研究の精度を高めるべく、夏季休暇中に2週間ほどパリに滞在し、フランス国立図書館で資料調査を行うこととする。 2024年度後半は、項目「奢侈」の分析に着手することにする。この項目については、サン=ランベールの詩集『四季』との関連から、既に短い論考を執筆しているが、2024年度はこれをさらに深化させ、特にヴォルテールやエルヴェシウスの奢侈論からサン=ランベールがどのような影響を受けているかを確認していきたい。 なお、一連の研究を進める上で、フランスの『百科全書』電子批評版プロジェクトチームメンバーと密に連絡を取りつつ、必要な助言を受けるとともに、研究成果を当該プロジェクトチームの主宰するセミナーで発表することも考えている。
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