研究課題/領域番号 |
20K00483
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高塚 浩由樹 日本大学, 国際関係学部, 准教授 (90297771)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | カミュ / 手帖 / 日記 / 創作ノート / 草稿研究 / 生成研究 / 自伝的小説 / アルベール・カミュ |
研究開始時の研究の概要 |
日記と創作ノートを兼ねるカミュの『手帖』は、事故死した作家が遺した「客観的資料」と見なされてきた。だが、出版された『手帖』には、作家が生前に加えた修正が数多く含まれており、この事実は今日でも看過され続けている。 本研究は次の3つの柱からなる。①『手帖』の自筆稿の復元を完成し、『手帖』を「真の客観的資料」として蘇らせる。②『手帖』の修正が、遺作となった自伝的小説『最初の人間』の執筆を期して行われたことを実証する。③「不条理の作家」という言葉で片付けられがちなカミュを、作家による「自己探究」と「自己創造」が自伝的作品の執筆を通じて行われてきた「フランス自伝文学」の伝統に属する作家として捉え直す。
|
研究実績の概要 |
日記と創作ノートを兼ねるカミュの『手帖』は、事故死した作家が遺した客観的資料として、研究者が必ず参照すべき重要資料とされてきた。だが、カミュは生前に『手帖』に修正を加えており、しかもこの事実は、作家の死去から60年以上が経過した今日でも、なお看過され続けている。本研究の目的は、修正前の『手帖』の自筆稿の復元を図るとともに、『手帖』の修正が、修正当時に執筆を期していた作品(特に自伝的小説『最初の人間』)の構想を進捗させるための作業であったことを実証し、さらには、従来「不条理の作家」とみなされ続けてきたカミュを、フランスの「自伝文学」の伝統の中に捉え直すことにある。 2020年度と2021年度に、それぞれ2回ずつ渡仏して、カミュの『手帖』の自筆稿とタイプ原稿を調査するつもりであったが、コロナ禍で一度も渡仏できず、フランスでの原稿の調査は全く進められなかった。そのために生じた研究の大きな遅れを取り戻すべく、2022年度は、8~9月と2~3月に2度渡仏して、いずれも約2週間かけて『手帖』とその関連書類の調査を行った。 特に、8~9月の調査の際に発見した、『手帖』第1巻と第2巻の出版(1962・64年)を準備した当時の、カミュの友人たちとカミュの妻フランシーヌによる『手帖』の原稿をめぐる詳細なメモは、これまで髙塚が行ってきた『手帖』の原稿の吟味だけでは把握できなかった新たな情報を豊富に含む資料であった。2~3月の調査では、『手帖』の自筆稿と2つのタイプ原稿の異同に関する詳細な情報をフランシーヌが書き残したノートブックを特に重点的にチェックして、カミュが『手帖』のタイプ原稿に修正を加えた時期や、現在では『手帖』の原稿から失われているが、1964年頃にはまだ残っていた、カミュが後から『手帖』の原稿に挿入していたメモの存在等に関する、極めて貴重な情報を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
カミュの遺族からの許可を得て、エクサンプロヴァンス市立図書館で『手帖』の原稿を精査することは、本研究の進捗にとって不可欠の作業である。進捗が予定よりもやや遅れている最大の原因は、3週間程度の渡仏を年に2回行って、『手帖』の原稿の調査を行うというのが当初の計画であったにもかかわらず、2020年度と2021年度に、コロナ禍で一度も渡仏できずに終わったことにある。 幸い、2022年度は2度の渡仏を行って、『手帖』の第2~5ノートの自筆稿とタイプ原稿を調査し、研究の遅れをやや取り戻すことができた。また、『手帖』第1・2巻の出版に際してカミュの友人たちが残していた、『手帖』の原稿やカミュ本人によるその修正に関する証言や、出版する『手帖』のテクストを確定するまでのプロセスをめぐる、フランシーヌ・カミュによる詳細なメモを発見したことは、研究の進捗に大きく貢献するものとなった。 しかしながら、9冊のノートから成る『手帖』のうち、第1ノートおよび第6~9ノートの原稿に関しては、2022年度の渡仏では、時間不足のために精査するまでに至らなかった。また、カミュによる『手帖』の修正作業が、自伝的小説『最初の人間』を執筆するための準備作業であったという仮説を実証するための、『最初の人間』の創作手帖や草稿の研究も、当初の計画よりも遅れ気味である。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度は、4年にわたる本研究の最終年度であり、2度の渡仏を行って、以下の研究を行う所存である。 1.9冊のノートから構成される『手帖』のうち、事後的な修正が加えられているのは第1~7ノートである。その中で、2022年度に精査するに至らなかった第1ノートと第6・7ノートに特に注目し、自筆稿と、修正の加えられたタイプ原稿との比較を行う。 2.『手帖』のタイプ原稿の作成とカミュ本人による修正が行われた1954年の時点で、まだ構想の段階にあった短編小説集『追放と王国』と自伝的小説『最初の人間』に関して、「後から修正を加えられた『手帖』のメモが、小説の構想の進捗および執筆にどのように活かされたのか」を、①『追放と王国』の草稿と決定稿、②『最初の人間』の3つの創作手帖(特に、「『最初の人間』のための材料」というタイトルが付けられていたファイル)のメモ、③『最初の人間』の遺稿を調査することによって、明らかにする。 3.カミュは、「日記」と「創作ノート」を兼ねた彼の『手帖』に後から修正を加え、『手帖』のメモを修正しながら小説の構想を進捗させていった。この意味では、カミュによる『手帖』の記述の事後的な修正は、たとえば自分の「日記」の出版に際して、不都合な記述を削除したり改変したりした作家たちの事例とは異質の作業と言える。カミュの『手帖』の原稿を調査することと並行して、「作家と日記の修正」あるいは「作家と創作ノート」というテーマを扱った文献や、「日記と自伝的小説の関連」を論じた文献を読み進めることにより、カミュにおける「自伝的テクストの事後的な修正作業」が持っていた特異性を浮き彫りにする。
|