研究課題/領域番号 |
20K00485
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
寺尾 隆吉 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (80434405)
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研究分担者 |
大西 亮 法政大学, 国際文化学部, 教授 (80328913)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ラテンアメリカ現代小説 / アルゼンチン / 出版社 / アルゼンチン文学 / 幻想文学 / 出版活動 / 作品受容 |
研究開始時の研究の概要 |
20世紀に世界屈指の文学大国となったアルゼンチンにおいて、作家と出版社が文学作品の制作及び刊行・普及にあたってどのような協力体制を築き上げていったのか考察する。具体的には、1938年から1976年の期間に注目し、この間に、アルゼンチンの二大文学出版社、ロサダ社とスダメリカナ社が刊行した小説作品10作(ホルヘ・ルイス・ボルヘス『エル・アレフ』、フリオ・コルタサル『動物寓話集』、アドルフォ・ビオイ・カサーレス『モレルの発明』など)を直接の対象として、その創作過程、刊行・普及過程において、作家と出版社がどのような役割を果たしたのか、その相関関係を検証する。
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研究実績の概要 |
2020年度、2021年度はコロナ禍により海外渡航ができず、現地での聞き込み調査と資料収集ができなかったため、先行研究の把握と、入手可能な文芸雑誌の分析を中心に研究を進めたが、それだけでも20世紀アルゼンチン出版業界の現状は十分に把握することができた。2022年度はこれを土台に、出版社の戦略と文学作品の創作・受容との関係性を具体的に検証し、6月の日本ラテンアメリカ学会で成果の一部を報告することができた。 20世紀前半のアルゼンチン出版業界は、知的財産権の侵害と紙一重の形で出版されていく外国文学の翻訳作品によって利益を確保する一方で、マセドニオ・フェルナンデスやホルヘ・ルイス・ボルヘス等、そうした不遜な出版活動を創作活動という名目のもとに正当化する自国の作家たちの作品を積極的に手掛けていた。本研究の対象となるスダメリカナ社とロサダ社もその例外ではなく、しばしば文芸雑誌『スール』と連携しながら、翻訳作品と自国作家の作品をそれぞれに独自の仕方で組み合わせることで、出版社としてのステータスを築いていった。 出版業界のこうした「不遜な」体質とアルゼンチン人作家の「不遜な」創作を結集したのが、ボルヘスの名作「ドン・キホーテの作者ピエール・メナール」であり、この作品は当時のアルゼンチンの出版界で横行していた知的所有権の侵害を見事に正当化していた。同様のことは、アドルフォ・ビオイ・カサーレスら多くの作家に指摘可能であり、出版業と創作の関連性をめぐる研究が、文学研究に重要な視座を提供する可能性を秘めていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍で海外渡航ができず、現地での調査や資料収集はできなかった。2023年3月にようやくアルゼンチンで現地調査を行うことができたが、これを整理して研究成果に結びつけるためには、もう少し時間が必要となる。 ただ、アルゼンチンやウルグアイでは、文芸雑誌のPDF公開化がこの数年で急速に進行し、出版業界の内幕を探る資料がかなりの程度まで入手可能になった。スダメリカナ社と密接な関係を築いていた文芸雑誌『スール』や、アルゼンチン出版界の情報を多く掲載する文芸雑誌『フィクション』などは、インターネット上から全号ダウンロードが可能になっており、こうした雑誌の解析が研究を進めるための重要な手段となった。おかげで、2022年6月のラテンアメリカ学会では、「20世紀のラテンアメリカにおける創作と出版戦略―アルゼンチン、ウルグアイ、メキシコの事例」というタイトルでパネルを主催し、本研究の成果の一部をようやく初めて公開することができた。このパネルでは、寺尾隆吉が「出版黎明期のアルゼンチンとホルヘ・ルイス・ボルヘスの創作活動」、大西亮が「文芸雑誌『スール』とラテンアメリカ文学」というテーマでそれぞれ発表し、出版業と創作活動の関連をそれぞれの角度から論じた。 現地調査を踏まえた研究も少しずつ進行中であり、これまでの成果とあわせて、現在二人個別に学術論文の執筆を開始している。2023年度中には両方とも公開できる予定。
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今後の研究の推進方策 |
当面は、コロナ禍で制約を強いられながらも、様々な工夫によって進めてきた研究の成果を論文としてまとめることに精を出し、すでに2023年から進行する新たな研究計画「ラテンアメリカ小説の世界展開とスダメリカナ社の出版戦略(1959年~1976年)」(すでに科研費基盤研究(C)採択済み)への接続を目指すことになる。現在のところ、寺尾隆吉は「出版黎明期のアルゼンチンとホルヘ・ルイス・ボルヘスの創作―「『ドン・キホーテ』の作者ピエール・メナール」の背景」、大西亮は「文芸誌『スール』とラテンアメリカ文学」というタイトルで、それぞれ学術論文を作成中であり、現在準備中の研究論文集『コスモポリタン・ラテンアメリカニズムの興隆―出版社、文芸雑誌、文学関係者による国際的文学ネットワークの形成」(仮題)に収録される予定である。 新たな研究計画は、この三年間に積み上げてきた研究成果を現地調査によって補強しつつ、視野をラテンアメリカ全体に広げて、スダメリカナ社によるラテンアメリカ文学の世界展開を具体的に分析する。20世紀アルゼンチン出版業界の概況や、三大出版社(ロサダ、エメセー、スダメリカナ)の盛衰と特徴についてはすでに把握できているので、現地調査で出版社の内部情報を収集したうえで、フリオ・コルタサルの『石蹴り遊び』(1963)やガブリエル・ガルシア・マルケスの『百年の孤独』(1967)といった世界的名作を例に、出版業と創作、作品の受容の関係を具体的に探っていく。
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