研究課題/領域番号 |
20K00519
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02050:文学一般関連
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
友田 義行 甲南大学, 文学部, 准教授 (40516803)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 日本近代文学 / 映画 / 映像 / アヴァンギャルド(前衛) / アダプテーション / 戦後文学 / 加速主義 / 万博 / 日本近現代文学 / 芸術 / フィルム・アーカイブ / アヴァンギャルド / 草月 / フィルムアーカイブ |
研究開始時の研究の概要 |
戦後日本の前衛芸術運動が文学・映画・戯曲等のジャンルを横断しながらどのような実践を生み出したか、その実態と意義を解明することを目的とする。前衛芸術運動資料のアーカイブがある草月会での調査と、アダプテーション理論等を用いた作品分析を研究方法とする。具体的対象として、前衛芸術運動の中核であった〈草月アートセンター〉に関わる芸術家に照準し、安部公房・花田清輝ら文学者や、勅使河原宏・松本俊夫ら映像作家に注目して、彼らの協働がどのような表現を生み出し、思想・社会・科学を表象したか追究する。本研究により、前衛芸術の基礎的研究が一層充実し、日本近代文学や映像学、比較文学や表象文化の研究発展が期待される。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、戦後日本のアヴァンギャルド(前衛)芸術運動において、文学・映画・戯曲等のジャンルを横断した実践がどのように結実したか、その実態と意義を解明することにある。具体的には、まず文学者安部公房と、映画監督勅使河原宏が創作の中軸を担った重要な言語/映像テクストを分析する。 2022年度は、草月会館での資料調査および聞き取り調査を進め、特に1970年代以降の資料調査に注力した。台本や企画書のほか、勅使河原宏が撮影した写真の調査も行い、『ホゼー・トレス』『フィルム・モザイク』『爆走』『アントニー・ガウディー』『動く彫刻』などの映像作品を理解するための情報を得ることができた。 また、『1日240時間』の台本と草稿および関連資料を調査し、安部公房と勅使河原宏の作品における時間表象について考察に取り組んだ。本作は1970年の大阪万博で上映された作品だが、テクノロジーの進化による時間の拡張がもたらす様々な問題を描き出している。現代思想でも注目されている「加速主義」へのいち早い批判を含んだ作品として、その意義を再評価することができた。一方で、同じ時間表象の問題を考える上で有益と考えた安部公房『時の崖』については、新たな資料を発見することはできなかった。 このほか、一般財団法人草月会およびIMAGICA Lab.の協力を得て、勅使河原監督の主要作品『砂の女』『他人の顔』『1日240時間』『白い朝』のフィルム素材調査を行い、詳細なショット分析に必要な様々な情報が得られた。また、これらの勅使河原作品にはモノクロフィルムとカラーフィルムの混在が見られるといった学説(仮説)が公表されていたが、そのような事実はないことが確認できた。調査と同時にフィルム延命の処置も実施することで、映画文化の継承に貢献した。 研究成果は国内外の出版物および国内の研究会・文化イベント等で積極的に発信を続けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では主な資料調査を草月会館資料室(東京)で行う予定だったが、2021度まではコロナ禍に伴う蔓延防止等重点措置の発令により所属機関からも出張の延期や中止が要請され、計画していた調査を行うことが困難であった。2022年度はようやく出張が可能となり、草月会館での資料調査と分析を進めることができた。 研究計画に記載した作品の中で、安部公房『時の崖』に関しては新たな資料を発見することはできなかったが、一方で『1日240時間』関連の資料を精査することができ、安部と勅使河原の作品における時間表象の問題については予定通り研究に取り組むことができた。 また、草月会およびIMAGICA Lab.の協力を得て、勅使河原宏監督のいくつかの作品についてフィルム素材調査を行えたことは大きな成果であった。特に、一般的にモノクロ作品と認識されている勅使河原作品にカラーフィルムが混用されているという学説(仮説)を、明確に否定できたことは、今後の研究において無用の混乱が生じることを防げた意味でも収穫であった。調査だけでなく、フィルム素材の延命処置も実施することで、フィルム文化の継承に貢献できた。 研究成果は、おもちゃ映画ミュージアム(京都)や善光寺平前衛派エキシビション(長野)、MOBIO(大阪)、川端康成記念館(大阪)などでの学術イベントで精力的に発信した。また、エディンバラ大学の出版局から刊行される論集にも2本の英語論文を寄稿し、本研究課題の進展によって明らかになった事実と考察を、国内外に広く発信できる見込みである(2023年度出版予定)。 以上の経緯から、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度・2021年度は、コロナ禍に伴う出張抑制と、勅使河原宏没後20年を記念した出版・上映イベントへの対応により、当初の研究計画(スケジュール)に若干の変更が生じたが、研究内容についてはほぼ計画通り進めてきた。2022年度は草月会での資料調査を進めたほか、IMAGICA Lab.でのフィルム素材調査も実施でき、研究計画書以上の取り組みが実現できた。 今後も基本的には研究計画書に沿って進める予定である。特に、安部公房・勅使河原宏作品の時間表象および前衛概念の考察について調査・考察に取り組み、『1日240時間』および上映の背景となった日本万国博覧会(大阪万博)を軸にした学術イベントを実施する計画である。 研究成果の公表については、学会誌・大学紀要等への論文投稿によって行うほか、他領域の研究者と合同で文学・映画・音楽・美術の横断的エキシビションを開催したり、所属研究期間および地域の文化施設などでの上映・口頭発表での発信に努める計画である。 本研究課題は2023年度が最終となるが、これまでの調査で、草月会館資料室でも所蔵されていない勅使河原宏関連資料が数多く確認された。2024年度以降はそうしたノンフィルム資料の博捜により力を入れ、勅使河原宏関連資料のリストを作成・公表することも視野に入れたい。これによって、戦後日本のアヴァンギャルド芸術運動における、文学・映画・戯曲等のジャンルを横断した実践研究の基盤を構築したいと考えている。
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