研究課題/領域番号 |
20K00526
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02050:文学一般関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
大田垣 裕子 兵庫県立大学, 看護学部, 名誉教授 (20290330)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 環境美学 / 環境批評 / 牧歌 / 農民詩人 / 牛飼い / ロマン主義 / 天才賛美 / 階級 / ブリストル・サークル / 不可秤量物質 / ジェンダー |
研究開始時の研究の概要 |
地球規模の環境問題が深刻化するに伴い、その解決の糸口を文学作品の中に見出そうとする環境文学批評も盛んに行われるようになってきた。本研究ではロマン主義運動が顕著であったイギリス、ドイツ、フランスとその運動を受け継いだ日本における牧歌、特にミルクメ イドや牛飼いが登場する作品についてこれまで看過されてきた農業労働者たちの環境美意識にも焦点をあて、その言説を調査・比較する。そこにみられるロマン主義的環境美学の継承とその独自性を社会階層差・ジェンダー差・地域差から考究することで、環境美学の位相を明らかにする。
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研究実績の概要 |
令和5年度は、前年度にドイツ・ロマン派国際学会にて研究発表したドイツの牛飼い、アンナ・ルイーザ・カルシュ (1722~1791)とイギリスのミルクメイド、アン・ヤーズリー (1753~1806)に関する考察内容について、さらに議論の精緻化を図り、論文としてまとめ、The Studien zur Englischen Romantik: Romantic Ecologies(招待有)に発表した。「風景」が生み出されたのは自然科学が著しく進展した近代であるといわれるが、自然と分断された人間は、自然美を愛でるようになった。当時の風景は、遠近法に則ったピクチャレスク画法で描かれるのが主流であったが、その中・上流階級に特有の環境美学は、観るものと観られるものの間に距離感を感じさせない農を生業とする労働者の風景描写とどのように異なるのかに焦点をあて、主として階級、ジェンダーの視座から論考を深めた。 宮沢賢治 (1896-1933) はベートーベンの格好を真似て歩く写真を残している。ベートーベンは歩行行為を好んだドイツ・ロマン主義時代の芸術家の代表とみなされるが、彼が歩きながら作曲したように賢治も歩きながら浮かんできた心象を手帳に書き留め、作品に再構築していったことが知られている。牛や牛飼いが登場する彼の作品を吟味し、動物を含めた環境への美的感受性等を考究し、‘Another Romantic Environmental Aesthetics: Kenji Miyazawa’s Cow Song and Cowherd Story’ として国際学会 ‘ERCC Inventing the Human’ (メルボルン大学、ハイブリッド開催)で研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和5年度は、研究実績の概要欄で挙げている作家、アンナ・カルシュ、アン・ヤーズリー、宮沢賢治について、文献収集・整理・分析を行った。階層、ジェンダー、地域が異なる作家が提示する人間と環境との関係性を明らかにすることが、私たちと環境の関係性を相対化し、今後の方向性の考察につながることを国際学会の論集および国際学会での口頭研究発表で示すことができた。しかし、令和2年度から4年度にかけてのコロナ感染拡大の影響のため、海外調査計画が未実施となっている。予定していた作品舞台となった現地調査や現地でしか入手できない当該地域の情報入手ができていないため、全体としてはやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、前年度に取り組んだ宮沢賢治の作品中にみられる牛の表象について考察をさらに深め、その成果を論文として発表する予定である。宮沢賢治(1896~1933)は中産階級の大正・昭和作家であるが、自ら農業に携わった経験があり、かつ、農業労働の観察者でもあった。研究実績の概要欄でも述べたように、彼はヨーロッパ・ロマン主義芸術の影響を受けている。彼の作品には当時、優良品種として推奨されていたスコットランド原産のエーシャ牛が登場する「牛」という詩、化石の牛「ボス」が登場する『銀河鉄道の夜』や牛飼いが物語る『オツベルと象』という童話などがある。これらの牛の表象には、賢治の環境感受性や世界観、近代工業化に対するスタンスが込められていると考える。時代背景調査を進めて作品解釈を深めていくことで、そこに描かれる動植物のみならず、石などの無機物も含めた環境と人間の関係の在り方を検分する。 また、令和4年度は、ミルクメイド詩人、アン・ヤーズリー(1753~1806)を含むロマン派の詩人・科学者たちのイギリス・ブリストルにおける知的交流に焦点を当て、主として彼らの自然描写の中に埋め込まれた当時の科学知識との響き合いを検討することで、彼らの環境美学を比較・検討すると同時に、社会・経済構造が大変革したロマン主義時代にいかに最先端の知を踏まえながら課題に対処していったのかを追究し、その成果を日本英文学会第94回大会シンポジア「サイエンスと詩の弁明」において発表した。今年度は、同じブリストルにおける知的交流サークルのメンバーであった中産階級の詩人ウィリアム・ワーズワスと化学者であり詩人でもあったハンフリー・デイヴィーの交流に着目し、詩と科学のコンタクト・ゾーンを考察しながら、その環境美学を吟味し、論考にまとめる。その際、必要となる資料・情報収集のための実地調査をイギリスにおいて行う予定である。
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