研究課題/領域番号 |
20K00532
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02050:文学一般関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中川 成美 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 上席研究員 (70198034)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 日本文学 / 世界文学 / プロレタリア文学 / 近代性 / 戦争と災禍 / 情動理論 / 社会主義文化運動 / マルキシズム文学 / 植民地問題 / ジェンダー・クイア理論 / 近代性(Modernity) / 旅する日本語 / 植民地主義 / ジェンダー理論 / 近代性(Modernity) / ジェンダー / クィア理論 / 危機の文学 / ジェンダーとクィア理論 |
研究開始時の研究の概要 |
2000年代前後に焦点化された文学研究の課題として、世界文学という概念がある。世界のグローバル化に伴って、それぞれ一国の文化状況だけによらない文学の存立を主張するこの概念を、日本文学というものに反映しながら、文学、および文学研究の基本的な意味の追求を行いたいというのが、本研究の主たる目的である。具体的には日本文学と各国語文学との比較研究を主軸としながら、相互を貫く思考の源泉を(1)近代性(2)戦争と災害(3)ジェンダーとクィア理論(4)植民地問題の4つの観点から、再分析を行い、文学の政治的、社会的、文化的「意味」を問いたい。そのうえで、世界文学と日本文学を通底し、逆に断絶する諸相を考察する。
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研究実績の概要 |
本研究は、日本文学を近年大きく進捗する世界文学理論から考察しようとするものである。主要な柱として1)近代性 2)戦争と災害 3)植民地問題 4)ジェンダー・クイア理論を立てたが、本年度はあらたに5)プロレタリア文学(社会主義文化運動)を立て、研究を推進した。日本におけるプロレタリア文学・文化運動は1920年代から30年代至る所謂「戦間期」に隆興した新しい文学・文化運動であったが、日本における研究に於いては専らその政治性と文学の関係について論じられてきた。本研究では、それを新たに世界文学理論の枠組みの中から再考しようとするものである。それは本研究の主要な概念である1)との関係からもより精緻な分析が必要と思われ、本年はその研究に専心した。 プロレタリア文学は日本にあって、それと同時期に隆盛したモダニズム文学との相関において語られることが多かったが、本研究では20世紀、特に第一次世界大戦後の世界文学との関連から考えていった。国家、そして国民が一体となって闘う総力戦は、この時期の近代重工業の発達によって可能となったが、それは一方に未曽有の規模拡大と大量の人間殺戮を導いた。突然に下達される参戦、戦争協力の命令は、国民国家の要諦として全国民の身体的、心的投企を呼び起こすが、そうした状況がそれまでとはまったく異質の死生観や人生観を構築していった。文学の質的変化がここに起こった。 第一次世界大戦と第二次世界大戦との戦間期に次々と惹起した文学運動、未来派やダダイズム、超現実主義などは既成概念の社会的・質的変換を証するものであり、アナーキズム、マルキシズムなどの社会主義文学・文化の勃興は、世界の枠組みを転倒させるものとして大きな影響を世界に与えた。それらは同時にまた紛争や戦争の要因ともなって、人々の生活意識を変化させたのである。本年はこうした枠組みから日本プロレタリア文学を中心に研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は当初計画していた海外での資料調査、シンポジウム開催などが、体調不良によって実施が不可能となった。最終年度のも関わらず当初の計画から遅れ気味となり、一年延長を申請、許可された。 本年は国内での活動を主に推進したが、もっとも力を入れたのは日本近代文学館で2023年9月16日から11月25日まで開催した「プロレタリア文化運動の光芒」展覧会の準備、開催である。当該展覧会の編集委員として2022年7月2日に第1回の編集委員の会合をもってから2023年7月まで15回の対面による展覧会企画・実施、講演会企画などの委員会をもち、9月からの開催時からはマスコミ発表、展示監修、講演会補助などで業務に当たった。なお、編集委員は林淑美氏、村田和裕氏、内藤由直氏である。 同展は近年においてほとんど開催されることのなかったプロレタリア文化運動に焦点をあてたもの、幸いなことに新聞やネットなどの媒体でも多く取り上げられ好評のうちに終えることができた。同展の特徴としてあげられるのは、所謂プロレタリア文学研究ではなく、この1920年代を中心に展開したこの文学運動を広く世界の文化運動の枠組みから構築した点にあり、第一次大戦後に勃興した大きな文化転換を背景とする一連の動態について考察したことにある。 また2023年6月9日から11日まで調布市せんがわ劇場で開催された「死者たちの夏2023」の実行委員として参加、ジェノサイドをめぐる文学朗読と音楽会の実施に協力した。なお、2024年3月29日、30日にパリ・イナルコで開催された「震災後文学、13年後」(La littrature de la catastrophe, 13 ans apres)には当初出席。参加する予定であったが体調が思わしくなく、WEB参加することを余儀なくされた。東日本大震災の日本文学を考えようとするものである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は主に「死者たちの夏2023」と日本近代文学館での「プロレタリア文化運動の光芒」展の企画、実施に集中して活動した。この二つは研究成果をアウトプットするためのものであり、一定の評価が得られた。つまり、文学を通じて形象化される人間の意志の在り方を可視化して、広く観客に提供しようとするものである。学会やシンポジウムに集中する研究成果の発信とはまったく違った形態であったが、慣れないながら非常に充実した経験であった。こうした形式では直に反応が獲得できることが大きな成果であった。 一方、本年度に計画していた韓国における資料調査や、パリで開催された「震災後文学、13年後」に病気にて赴けなかったことは残念であった。韓国においては戦間期の植民地問題と「朝鮮プロレタリア文化運動」の調査、および研究者との打ち合わせをする予定であったが、急な体調不良によって実施がかなわなかった。またLGBT文学について台湾の研究者と情報交換、および資料調査する予定もあったが、これもできなかった。いくつかの枠組みの中でジェンダー・クイア文学の項目が遅れているのだが、次年度の最終年度には世界文学との関連から日本文学における当該事項を考えていきたいと考えている。 次年度の計画として、日本文学研究において非常にユニークな視点を投じた評論家・勝本清一郎を中心とする調査・研究を実施したい。勝本は日本文学史家として著名であるが、大正期には「三田文学」を中心に劇作や舞踏劇を発表し、やがてプロレタリア文学評論家として盛名を馳せ、ベルリンに留学してヨーロッパを駆け巡った。多彩な恋愛とともに日本文学史に足跡を残す人物であるが、1930年代に既に日本文学を世界文学から考察しようとする視点を発表している。本年度は彼に視点を当てて、ヨーロッパで調査、資料収集を実施したいと考えている。
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