研究課題/領域番号 |
20K00547
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
荻野 千砂子 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (40331897)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 琉球語 / 尊敬語 / 使役 / 授受動詞 / てもらう / 謙譲語 / 南琉球語 / 宮良方言 / 記述文法 / 謙譲語α / 黒島方言 / 喜界島方言 / 自敬 / 呼称 / 親族名称 / 敬語 / 一人称寄り視点 / 指示詞 |
研究開始時の研究の概要 |
研究実施の内容としては、以下の調査を順次行うこととする。①南琉球語と北琉球語の地域ごとの謙譲語αについての包括的記述、具体的には「差し上げる」「申しあげる」等に相当する語で主語と補語の両方を高く位置づけるかの調査、②一人称寄り視点がない言語での敬語体系の特徴の記述、具体的には相対的上下関係の有無の調査、③「~なさる」に相当する、敬語の補助動詞の拡張機能の調査、④古典語での二方面敬語と謙譲語との比較研究、⑤相対的遠近で使用できる指示詞の包括的な記述、⑥授与動詞の本動詞と補助動詞の関連に関する調査研究である。これらの調査と並行しながら、消滅の危機に瀕している南琉球語の文法記述を行う。
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研究実績の概要 |
今年度の業績は5点である。1点目は、尊敬語の使役形の解釈である。現代語では、「*先生をいらっしゃらせる」は非文法的とされる。しかし、南琉球語では、「*いらっしゃらせる」で、下位者が上位者の行動を「補佐する/促す」のような意味になる。これが、平安時代の『源氏物語』に見られる、「従者の惟光が、主人の光源氏をオハシマス(*いらっしゃらせる)」の再解釈として有効であることを論じた。 2点目は、宮良方言のsikeehuN(お連れする、ご案内する、ご招待する:謙譲語)の意味と機能を明らかにした。sikeehuNは補語(主語ではないもう一つの文の成分)を高める機能を持つが、同時に主語も高める機能が確認できた。これにより、以前、新たに定義した謙譲語αにsikeehuNも該当すると結論づけた。 3点目は、古典語授受動詞の「~てもらう」の発達と、「~ていただく」成立の契機を考察した。古典語(近世)でも琉球語全般でも「~てくれ」で依頼ができる。しかし、「~てもらう」は古典語と北琉球語にはあるが、南琉球語にない。どのように、古典語で「~てもらう」が発達したのかを再検討し、今後、琉球語との関連を明らかにする足がかりとした。 4点目は、南琉球語の使役に関する研究に新たに取り組んだ。そもそも、南琉球語の使役接辞は、強変化動詞(五段活用動詞に相当する)に-as-(~セルに相当)と-asimir-(~シムに相当)の二形式があるが、この詳細な違いも未詳であるため、相違点について調査を行い、口頭発表をした。 5点目は、授受動詞「とらす」に関する研究に取り組んだ。本動詞と補助動詞で体系が異なることに着目して、口頭発表を行った。だが、分からない点も多々有るため、今後も調査を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、南琉球語の使役形の研究は順調に進んでいる。特に、黒島方言での強変化動詞に使役接辞-as-と-asimir-が後接する場合に、両者の意味の違いが分かってきた。それと同時に、-asimir-は、-as-と同じレベルの使役接辞ではなく、もともと2つの形態素だったのではないかという仮説も立てている。しかし、敬語との関係において、特に補助動詞の場合は、調査途中である。また、宮良方言や川平方言など、他の南琉球語でも同様の意味の違いが出るのか、調査途中である。 また、北琉球語の授受動詞「とらす」の研究も順調である。喜界島方言では、集落によって、補助動詞「てとらす」の用法に違いがあることが分かってきた。使用条件として、人称により許容に差が見られる。しかし、本動詞の方には、人称による許容の差が見られない。補助動詞に、なぜ人称制約のような許容の差が見られるのか、検討中である。また、喜界島方言だけでなく、北琉球語の与論方言についても、同様に本動詞と補助動詞で使用の人称に差があるか、調査をする必要があると考えている。 また、包括的な敬語研究も進んでいる。今年度は自然物へ使用できる敬語について、明らかにした。また、宮良方言では明らかにしていた、授受動詞タボールン(賜る)の使用状況について、川平方言や船浮方言など、他の地域での使用状況も調査した。だが、聞き手尊敬の用法については、あまり研究が進まなかった。また、昨年度、黒島方言のujasu(「差し上げる」相当語)の論文執筆を行おうとしたが、尊敬の補助動詞用法が単純ではないと判断し、論文化を見送った。話し手より下位者が主語なのに、尊敬語の補助動詞が後接できる現象が見られるが、この仕組みが明らかにできていない。そのため、今後も調査と研究を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
1点目として、南琉球語の使役形式を明らかにし、尊敬の補助動詞との関係を明らかにすることを目的とする。これは、一番、意味の違いがはっきりと出てくる黒島方言を中心に調査を行い、使役の-as-と-asimir-の違いを記述することとする。また、尊敬の補助動詞の場合も、使役形式で、どのような意味が生じるのかを確認する。その後、黒島方言で得られた知見を基に、宮良方言や川平方言で調査を行う。 2点目は、敬語の補助動詞用法について、調査を行うことにする。その上で、黒島方言のujasu(「差し上げる」相当語)の論文執筆を行うこととする。 3点目に、北琉球語の授受動詞「とらす」の用法を明らかにする。まず、喜界島方言で、補助動詞用法を確認したあと、本動詞の授与動詞の用法を調査する。次に、与論方言での調査も開始する。 4点目は、指示副詞に関する調査をまとめる。この調査も、昨年度少しずつ行った。南琉球語宮良方言の指示代名詞は、ku系、u系、ka系の三系統だが、指示副詞は、a系、ka系の二系統である。共通語は、「こう、そう、ああ」の三系統であるため、これまで指示副詞の文法が分からなかった。昨年度の調査で、距離が無関係で使用できることが分かってきた。しかし、何が使用の差となっているのか、まだ不明である。今年度は、使用が想定できる場面をいくつも設定し、使用条件を確認することにする。
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