現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、長年懸案だった問題(上記「概要」における問題(i))に加えて、新たな課題(同問題(ii))にも取り組むことができたので、課題研究はおおむね順調に進展しているといえる。 本研究課題は、言語間の差異は語彙範疇ではなく機能範疇の差異に還元できるという、いわゆるChomsky-Borer Conjectureに基づき、日韓語の違いを両言語の機能範疇の違いから解明することにある。また、文法化については、理論的立場を超えて、語彙範疇から機能範疇へ(例:授受の本動詞が補助動詞に)、または機能範疇から別の機能範疇(例:使役・受動形式が新たな機能を獲得)へという方向性が認められている(Roberts & Roussou 2003, Haspelmath 2004, Traugott 2010)。 前年度までに、(a)韓国語で使役形と受動形が形態的に同形でありうるのはなぜか、(b)韓国語の使役接辞{-i, -hi, -li, -ki, -wu, -kwu, -chwu}のうち母音が/i/の前4者のみが受動も表しうるのか、(c)韓国語にも受動文は存在するが、「太郎は花子に泣かれた」のような除外型受動(Washio 1993)が存在しないのはなぜか、(d)韓国語にもモラウに当たる本動詞は存在するのに「太郎は花子に働いてもらった」のような受益の補助動詞の用法が未発達(Shibatani 1994)なのはなぜか、という問に答えてきた(Aoyagi 2007, 2010, 2019, 2021)。 これに加えて、今年度は上記(i)、(ii)の課題に取り組んだ。 これら一連の研究で明らかになったことは、現代韓国語ソウル方言においては、外項を導入するVoiceより高い位置に現れる機能範疇が著しく制限されており、その文法化の程度は日本語より琉球語に似ているという興味深い事実である。
|