研究課題/領域番号 |
20K00592
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 岩手県立大学宮古短期大学部 |
研究代表者 |
田中 宣広 岩手県立大学宮古短期大学部, その他部局等, 教授 (60289725)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2021年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2020年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
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キーワード | 東北地方北部域諸方言 / のぼりアクセント核 / 北奥式アクセント / 太平洋沿岸部地域 / 重起伏調 / 低平調 / 言語島 / 南奥特殊アクセント / 2音節名詞第Ⅳ・第Ⅴ類末尾母音狭広 / 尾高調 / 東北地方北部地域方言 / アクセント区画 / 太平洋沿岸部アクセント |
研究開始時の研究の概要 |
◇青森,秋田,岩手3県の東北地方北部域諸方言:①青森県津軽地方,②秋田県~岩手県中北内陸部,③青森県から岩手県の太平洋沿岸部,④岩手県南部から宮城県北部,の方言アクセント4区域各々,区域相互接触地帯の実態から,地理的境界線を考察する。 ◇従前,太平洋沿岸部アクセントは海沿いのみで,岩手県南部から宮城県北部のアクセントの岩手県部分は県の南端に限定されていたが,両区域が従前よりも広く,太平洋沿岸部のアクセントでは相当内陸部まで,岩手県南部から宮城県北部のアクセントの岩手県部分は県南端だけでなく,より北側まで認められる。 ◇4区域『接触地帯』のアクセントの実態も併せて調査分析を進め,境界線確定を目指す。
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研究実績の概要 |
当研究の目的としている,岩手県から北側(青森,秋田,岩手3県)の東北地方北部域諸方言のアクセントの地理的境界線を確定のため,当年度:第3年度に は,各区域 から数地点ずつ,言語実態調査し,それらの結果を整理しつつ分析を進め,近接地点同士の実態について比較して考察することができた。 第3年度に実態調査できた地点は以下の計7地点である。【1】「北奥式アクセント」の太平洋沿岸部体系=岩手県太平洋沿岸部アクセント区域(6地点):岩手県久慈市大川目地区・岩手県宮古市鍬ヶ崎地区・岩手県下閉伊郡山田町大沢地区・岩手県下閉伊郡山田町北浜町地区・岩手県下閉伊郡山田町八幡町地区・岩手県上閉伊郡大槌町小槌地区・【2】「北奥式アクセント」の太平洋沿岸部の言語島体系(1地点):岩手県宮古市田老新田地区,であった。このなか,特筆される成果は以下のものである。[1] 山田町大沢地区は,宮古市津軽石と山田町中心部との中間地点であり,アクセント体系は山田町中心部(北浜町・八幡町)のものと同様であるものの,語的なアクセント型所属で相違する部分のあることが確認されたこと/[2] 「北奥式アクセント」の太平洋沿岸部の言語島体系(1地点):岩手県宮古市田老新田地区は,先に調査済みの宮古市田老川向方言と同様,太平洋沿岸の地域でありながら,対変容沿岸部のアクセント体系の特徴:重起伏調が観察されず,低平調基調のアクセントとなっており,「言語島」の状況にあることを確認したこと。また,これらの成果の現状について,論稿「東北地方北部地域アクセントにおける重起伏調の各種変異について」を成し,さらに,調査方法について「パソコンモニター活用による言語調査の一方法」を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している,と判断した理由は以下のとおりである。 (1)調査の進捗:前年度に示した今年度の計画,すなわち,資料整理と分析を進めるとともに,その内容を論稿に発表する計画・第3年度中の分析主題である「重起伏調における2箇所の高音部の出現の変異状況」および「宮古市田老地区方言の『言語島』の状況」の2件について相当の結果を認めたものである。すなわち,当初計画案では,第3年度について言語実態調査と資料の整理を進め,成果をまとめあげる予定であったもので,「研究実績の概要」での説明の7地点の調査をすることができ,成果を2論稿にまとめ,1編についてはすでに公刊となった。諸事情から臨地調査には厳しい状況であったなか話者の方々のご協力により調査を完遂でき,部分的ではあるが,成果の発表に至ったものである。 (2)比較の成果:調査結果については,近接地点同士,すなわち,アクセントが同体系かもしくは関連する複数地点での比較考察を実施したところ,事前では,語レベルでのアクセントも,ほぼ同様と予測していたものが,相当の相違を認めるに至ったことである。この比較にあっては,過去の調査地点での結果とも比較している。とくに,岩手県下閉伊郡山田町内での比較成果は新規性を認めるものである。 (3)「言語島」の確認:昨年度の研究により,それまで断片的な理解が得られていたのみであった宮古市田老地区方言のアクセントの実態を明確化し,その「言語島」性質について議論の俎上に上せることがてきたのに加え,本年度はさらに調査を進め,同地点の「言語島」性質についてほぼ確認と言えるまで進めているのは,研究計画時の予測を上回る成果を得ているものの一つである。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画の3年度を終え,さらに言語実態調査を進める必要を認めたので,研究期間を延長し,これまでの調査結果分析と併行して言語実態調査を進め,成果の総合を成し遂げる予定である。 第4年度の調査予定地点は7地点。【1】「北奥式アクセント」の各地区>基本体系=岩手県中北内陸部アクセント区域(2地点):遠野市青笹町・釜石市,【2】「北奥式アクセント」の太平洋沿岸部体系(2地点):岩手県久慈市宇部町宇部・山田町船越田の浜,【3】「南奥特殊アクセント」の岩手県気仙郡地域(2地点)・住田町上有住地区・大船渡市大船渡盛地区,【4】太平洋沿岸部「言語島」の状況の確認:宮古市田老地区について実態を確認する。これら地点の調査により,「北奥式アクセント」の太平洋沿岸部地帯全域の資料が揃い,隣接関連地区の実態と関連させた実態の資料整理と分析を進めるとともに,研究成果の発表を続け,全体を総合する予定である。 さらに,岩手県宮古市田老地区の「言語島」性の理由についても,同地区の歴史と合わせて考察する。現在の仮説は以下のとおり。同地区は,明治29年(1896年)の明治三陸大津波で被害を受け,その後,地区外から多数が流入。宮古市東日本大震災記録編集委員会編(2014)『東日本大震災_宮古市の記録_第1巻(津波史編)概要版』では,明治三陸大津波時(明治29年:1896年)の田老地区人口は3,747人,死亡者2,655人,生存者183人,の人口激減があり,のち,田老地区外出身者の移入が続き,昭和三陸大津波時(昭和8年:1933年)同地区人口1,798人、死亡者471人,行方不明者292人と被害のあと,再び人口が増え,東日本大震災時人口は4,000人を超えていた。明治三陸大津波後の183人から4,000人超と,95%以上が地区外流入者を祖とする住民と解され,これにより周囲と相違する方言体系が形成されたと考える。
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