研究課題/領域番号 |
20K00626
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02070:日本語学関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
長谷川 千秋 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (40362074)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | かなの成立 / 真仮名 / 万葉仮名 / 平仮名 / 墨書土器 / 神歌抄 / 神楽歌 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、A・B・Cの三つの問いについて、「真仮名」から「かな」の空白期と資料的制約を理論で補強し、理論の正当性を資料で補強することにより、「かな」の成立理由を説明しようとするものである。上代の真仮名の機能には、漢字の補助としての仮借的用法と日本語を記すための仮名的表記法が併存していた。上代においては『万葉集』と歌木簡、中古においては漢文訓読と和歌のように、一部の知識人において二重の文字生活が行われていたと考えられる。これに、上代特殊仮名遣い、濁音の音価といった音韻変化も加わり、使用する文字への意識の変化があったことが「かな」の成立に関わることが考えられる。本研究ではその具体を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は、平安時代において万葉仮名と通称される「真仮名」に代わり「かな」が必要とされる場面はどこか、漢字の用法と線引きが可能な「真仮名」であるにも拘わらず、視覚的に異なる「かたち」が必要とされた理由を明らかにすることともに、「かな」が「真仮名」と異なる「かたち」を獲得していく過程を明らかにすることを目的としている。本年度も、「かな」が「真仮名」と異なる「かたち」を獲得する過程を明らかにすることに主眼をおき、宮中神楽の古写本である東京国立博物館蔵『神歌抄』を研究対象とした。その結果、『神歌抄』の書写年代は不明であったが、仮名字体の特徴、およびア行のエとヤ行のエの区別等音韻変化に関わる表記上の特徴から、10世紀半ば頃の書写であると推定できた。『神歌抄』は誤写が多くあり、表記史上の位置づけが難しいが、鍋島家本『東歌神楽歌』や陽明文庫本『神楽和琴秘譜』(伝藤原道長筆)等の神楽歌古写本と比較した結果、『神歌抄』は鍋島家本等に比して神楽として系統性のない未整理な内容を持つことを明らかにできた。『神歌抄』に特徴的な3つの表記様態、本文が真仮名、非連綿の「かな」、連綿の「かな」の3つの様態に分けられる点についても、歌の節回しを書き留めるのか、歌意を書き留めるのかの二つの指向が働いたためであり、表記面でも一貫性に欠けるともいえる。歌の節回しを書き留める際に、非連綿の「かな」で書くことは、9、10世紀の連綿体の特徴(文字の最終字画と次の文字の第一画を連綿で繋げるため、連綿は右から左の斜線となるが、これは「かな」一字ごとの独立性が高いことを示している)に連続する、「かな」が真仮名のように音節を書く文字から語を書く文字へと転換する過渡期の現象であるといえ、鍋島家本等が真仮名で表記することと異なる特徴を持つことが明らかにできた。加えて、契沖の仮名遣に関する著作から近世の真仮名観の一端を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究では、3つの課題のうち最も着手しやすい課題である「「かな」が「真仮名」と異なる「かたち」を獲得する過程」に関わり、日本語史や表記史研究においてほぼ手つかずの資料の、東京国立博物館蔵『神歌抄』を題材とした。『神歌抄』は、真仮名による表記、連綿しない「かな」表記、連綿のある「かな」表記の、3つのパターンに表記様式が分かれており、連綿しない「かな」が特徴的である。本年度は、『神歌抄』と鍋島家本『東 歌神楽歌』や陽明文庫本『神楽和琴秘譜』の比較を行うことにより、『神歌抄』の連綿しない「かな」の意味を明らかにすることができた。しかし、他の2つの課題(「かな」が必要とされる場面、「かな」が成立する必然性)について十分に検討ができていない。この点から上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
学部執行部としての業務に追われたため、十分な研究時間や県外への文献調査の時間を確保できなかった。本年度末で執行部の任がとけたため、研究を着実に遂行していきたい。すでに収集した資料や公開されているアーカイブ資料の活用も行いながら、必要な資料を購入することで、研究を進めていきたい。
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