研究課題/領域番号 |
20K00627
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02070:日本語学関連
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
佐藤 貴裕 岐阜大学, 教育学部, 教授 (00196247)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 節用集 / 辞書史 / 国語史 / 近世語 / 近代語 / 出版史 / 近世 / 古辞書 / 言語生活史 / 教育史 / 語彙史 / 資料研究 / 日本語学 / 辞書 / 日本語史 |
研究開始時の研究の概要 |
室町時代に誕生した節用集は、江戸時代には営利出版業の商品として差別化を受け、多様な日用教養記事を付録されていった。このため、単なる辞書から、近世・近代の日本(人)を形成したメディアへとして変容したため、人文史学の諸分野から注目されつつある。しかし、近世的版権(板株)への顧慮のない論考もまま見られる。一方、日本語史研究では、節用集をはじめとする江戸時代の通俗辞書については理解・知見の蓄積が十分とはいえない状況がある。そこで、節用集に関する諸情報を的確に発信するツールを提供する必要があると考え、基礎的情報の収集・蓄積・発信を企図するにいたった。
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研究実績の概要 |
2022年度では、いまだコロナ禍の打ち続くおりであり、資料収集・実物調査の柱の一つである公共の図書館・文書館・資料館などでの調査が効率的に行うことができなかったため研究計画遂行上の情報のインプットが大幅に制約を受けることとなった。このため、これまでの調査・研究の成果を論文の形で発表することに重点を置くこととした。これは、最終年度である次年度において中心的に取り組むべき成果公表を一部前倒しすることによって本研究計画の健全な遂行を企図することとしたものである。 また、節用集史を概観する過程で「その終焉期である大正・昭和初期において、いかなる辞書群が台頭し、節用集に取って代わったかを明らかにする」との課題のあることに思い至り、実用辞典(各語を歴史的仮名遣ではなく発音準拠の五十音順に配列し、簡易な語釈と対訳外国語・ペン字書体を併示したもの)に注目するという新たな展望も開けた。 具体的な成果物としては、言語生活史と節用集の関わりの闡明を企図したもの1点、節用集付録たる日用教養記事の研究として地図類について検討を加えたもの2点、昭和戦前期の日本における節用集認識を検討したもの2点、節用集にとってかわるかのように昭和初頭に勃興した実用辞典(詳細は後述)の様相記述1点、昭和期での実用辞典刊行目録(約200点掲載)1点を公にすることができた。 なお、資料収集の手段である購入状況としては、古書即売会などは集会の制限が緩和されたことや、野外での開催も可能であることから、幾分かは実行することができた。また、インターネットを介しての資料購入もコロナ禍の制約を受けつつも一定量を確保したが、実際の購入量については、近世節用集では低調だったが、これに代わって実用辞典の購入が新たな資料収集の対象となり、一定の成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コロナ禍の影響により、公共図書館等での調査は大幅に縮小さぜるをえず、研究資料のインプットの低減を余儀なくされた。が、年度初頭でのコロナ禍の影響はある程度、把握できていたため、最終年度に予定していた研究成果の公表を一部前倒しするとともに、新規展望の可能性を追究することとした結果、次の5つの点から計画を建て直し、実行した。 【1】これまで言及されることが稀であった、近世節用集所掲の日用教養付録類への調査・検討を準備しつつ、その一部をアウトプットすることを企図し、地図史学との関わりのある日本図のありようを検討した。【2】節用集史の終焉を見定めるという新たな視点からの検討の可能性を模索した。これとは表裏の関係になるが、節用集を継いだもの、あるいは節用集を真の終焉に導いたものを特定するとの検討の準備として、昭和期目録・勃興期概観をおこない、公刊した。【3】節用集の刊行がなされなくなった、昭和戦後以降にもいまだ散見される節用集への言及(回顧・文化史的記載・参考的利用など)も、広義の節用集史の記述には不可欠と考え、その方面での試行的論考を発表した。【4】原本資料の購入は、近世節用集3本と少なかったが、実用辞典約30点を得た。【5】節用集史の記述にも資する文献の転載も2点のみながら実施することができた(岡本かの子「落城後の女」(抄出)、上田万年「大戦後の東洋に於ける国語問題(講演)」。HP「近世節用集事典」にて公開)。今後も同趣の参考資料を公開していく試行と捉えている。 以上の成果は、コロナ禍での研究計画の停滞を超克するために、これまでの研究計画を内省的に見直し点検することにより、発想・実現したものであり、ことに【2】【3】は節用集史ひいては辞書史全体における記述の視座を新たに与えた部分のあるものと考える。したがって、本年度の研究成果は、当初の計画以上に進展したと捉えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
1)現在、HP「近世節用集事典」(https://www1.gifu-u.ac.jp/~satopy/kkn1619.htm)にて公開している諸本の情報を拡充する。これは、今年度行ったアウトプットの前倒しには、あえて含めなかった部分であるので、次年度での最重要課題とする。また、その内容の充実を図るため、2022年度に実施できなかった臨地調査を実施する。 2)今年度試行した実用辞典の研究の整備をより一層推進することを企図する。このためには、最初期の諸本の、複写・閲覧等による資料整備を実施予定である。軽便なものゆえ乱雑に扱われることが多く、残存数も少ないため、その複写・保存は重要な意味を持つ。 3)これまでほぼ言及されてこなかった言語生活史のなかでの近世節用集の位置づけをめぐる諸問題については、古文書をのみ取り扱いがちだった近世史研究において書物研究が勃興しており、貴重な成果が急速に蓄積されつつある。それらをも参照して節用集の利用法を中心に辞書史的視点からの記述・報告の準備を企図する。 4)これに関連して、近世節用集をめぐる学際的研究への足掛かりとして、どのような分野において節用集が注意されているかを概観する予定である。近世節用集においては、単に「(漢)字を知るための辞書」としてのみ捉えるのには、当時の社会のなかに位置づけることが難しい点があるからで、多方面にわたる日用教養付録がそのような状況を招来したためといってよい。そうした付録類からする検討への基礎を構築すべく、模索していきたい。
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