研究課題/領域番号 |
20K00913
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03010:史学一般関連
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研究機関 | 東京外国語大学 (2021-2023) 京都大学 (2020) |
研究代表者 |
永原 陽子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (90172551)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 人骨研究 / 人種主義 / 植民地主義 / 先住民 / アフリカ / 人種研究 / 人骨収集 / 遺骨返還 / 植民地主義への補償 / 植民地責任 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、19世紀後半から20世紀半ばのドイツ語圏を中心とするヨーロッパの学術機関おける「人骨研究」の実態を、ヨーロッパ並びにアフリカ諸地域での史料調査ならびに聞き取り調査から解明し、それが日本を中心とする東アジアの同様の研究とどのような関係にあったのかについて考察しようとするものである。現在、日本を含む世界各地で大学や博物館等に所蔵された「人骨」の返還を求める動きが広く見られ、これは植民地主義の暴力への償い、植民地責任という大きな問題の一部をなしている。この問題について、本研究は、植民地世界に生きた具体的な「人間」(生体と死体の双方)に即して、世界史的な視野からとらえることを目指している。
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研究実績の概要 |
2023年度は、前年度までに収集した史資料の分析・検討を中心に研究を進めた。 まず19/20世紀の南アフリカ先住民(「ブッシュマン」「ホッテントット」)の人骨収集および生体計測にかんする検討を南部アフリカ諸地域(隣接の西南アフリカ、ボツワナ、ローデシア)に拡げ、植民地境界を越えて医学者・民族学者と軍人の協力関係が展開する状況をあとづけた。とくにヨーロッパでの医学関係の国際会議をハブとして、情報が交換され現地での実践に反映される過程と、大英帝国の情報網の役割に着目した。第二に、植民地における生体計測の実際を「原住民統治」機構の最末端レベルで分析し、そこからアフリカ人側の反応・行動を読み解くことを試みた。現地での実践においては、ヨーロッパの「人種科学」の関心の中心にあった「ブッシュマン」「ホッテントット」のみでなく、多数派のアフリカ人に関しても類似の実践があったこと、後者は前者の特質を明らかにする上で必要とされていた点も看過できない。第三に、「考古学的」発掘が「人種科学」のための「人骨収集」で果たした役割への注目である。これは、たとえばオイゲン・フィッシャーに代表されるように、ナチ時代への「人種学」との関係でも大きな役割を果たした。 以上の南部アフリカに関する研究と並んで、23年度も、ヨーロッパの「アイヌ研究」およびそれと日本の研究者との交流にかんする史料の読み込みを進めた。ヨーロッパから来日した学者が遺骨を持ち帰る段階から、日本の研究者による遺骨の「提供」の段階、さらに日本の研究者が積極的に発信する段階、それが「人種衛生学」や「優生学」の日本独自の発展をもたらし、さらには戦後の「公衆衛生学」にまで展開する過程を跡付けた。 以上の他に、現在ヨーロッパ各地で進む「遺骨返還」にかんする議論についても、南アフリカ、ケープタウン大学の研究者と情報交換を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、19/20世紀ヨーロッパの「人骨研究」を植民地主義の文脈の中に位置づけ、とくに植民地での実践について具体的に明らかにすることを重視している。「遺骨返還」の問題は、近年世界で注目を浴びているが、「返還」を要求する側とそれを求められた側の応酬としてとらえられがちで、現実に植民地の場での住民の歴史的経験については十分な研究がなされていない。そのため、本研究では南部アフリカの場合を取り上げて、文書史料の分析と現在の人々への聞き取りの二つの方法による歴史学的アプローチで研究を進めている。歴史的文書を踏まえない言及が多いこのテーマに関し、文書史料を緻密に調査する点で、本研究は新しい知見を得つつあると言える。 これまでのところ、日本国内で収集できる文書史料(同時代の医学文献、雑誌等)やオンラインで入手できる文書館史料の収集と、南アフリカにおける史料収集ならびに聴き取り調査を進めることができたが、研究期間前半のコロナ禍のために、ヨーロッパでの調査を順延せざるを得ず、なお十分な史資料収集ができたとは言えず、本来の計画よりは調査地点を縮小して対応することになる。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り、ヨーロッパでの調査を順延せざるを得なかったため、研究期間を一年延長し、2024年度に調査を実施し、これまでに進めてきた南部アフリカ地域に関する事例を他の旧植民地地域との関連でより立体的に明らかにする研究を進める予定である。
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