研究課題/領域番号 |
20K00924
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03010:史学一般関連
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
石黒 ひさ子 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (30445861)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 墨書陶磁器 / 博多遺跡群 / 水中考古学 / 泉州南外宗正司 / 泉州市舶司 / 泉州安陽下草埔冶鉄遺址 / 花押印 / 花押 / 沈没船 / 泉州 / 綱 / 貿易陶磁 / 綱首 |
研究開始時の研究の概要 |
墨書陶磁器は汎ユーラシア規模で史料としての可能性を持つが、史料化には書写した理由を知る必要がある。これについて三つの課題を設定し達成を目指す。 1「綱」字墨書陶磁器への新解釈:新資料により既存の解釈に再考が迫られている「綱」字墨書陶磁器に新たな解釈を示す。 2 墨書陶磁器文字解釈への新基準:墨書陶磁器の書写内容には「花押」や非漢字文字もある。既存の非漢字文字への理解は不正確であり、文字解釈の新基準を示す。 3 墨書陶磁器の地域間比較という新視点:墨書陶磁器の出土地域ごとのデータベース化を推進する。上記1・2による成果を踏まえて墨書陶磁器に文字が書かれた理由を解明し、史料化への新視点を示す。
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研究実績の概要 |
2023年度は博多遺跡群より出土した墨書陶磁器の集成の完成を目指した。博多遺跡群第221次の発掘報告までを集成の範囲内とすることを目標に、データ入力作業を継続した。しかし発掘報告書の刊行が遅れ、2024年度に入った現在まで刊行は終了していない。この予定変更から、本年度の研究は大きく遅れることになった。 博多遺跡群の墨書陶磁器集成は過去に一度刊行されている。その責任者である大庭康時氏と検討した結果、すでに刊行されている博多遺跡群墨書陶磁器集成には1と2があり、1では全点調査を実施して墨書内容を確認しているが、2では確認作業を実施していないこと、2の刊行後、2023年度までに報告された墨書陶磁器が1000点余あるが、これについては1・2と共通の年代観が示されていないことがわかった。そのため、2022年度末より博多遺跡群墨書陶磁器集成2掲載分と、それ以後の報告分の墨書陶磁器について悉皆調査を実施した。分量が多く、また福岡市埋蔵文化財センターの移転事業との日程の調整もあり、2023年度には9月と2月の二度に分けて調査を実施した。特に1・2で大庭氏が示した年代観をその後に出土した墨書陶磁器にも反映させるため、大庭氏には二回の調査とも参加していただき、閲覧できた資料については年代観を確認することができた。また9月の調査は福岡市埋蔵文化財センターでも注目され、センターの広報活動にも紹介された。 研究発表としては、2023年5月に台湾・玄奘大学で実施された南島史学会第51回大会に参加し、研究報告を行った。7月には中世学研究会シンポジウムで報告した。10月には韓国・光州市で実施されたAPCONF5で報告し、アジア地域の水中考古学究者との知見を得た。2024年3月には中国・山東大学より招聘され学術報告を実施した。また2024年2月には台湾澎湖島・台南の資料状況調査のため現地調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2023年度中に博多遺跡群墨書陶磁器集成を再編集し、刊行することを目標としていたが、達成することができなかった。それは以下の理由による。 1 博多遺跡群第221次調査報告書の刊行が大幅に遅れることが2023年度の後半になってようやく判明し、第221次の内容をどのように扱うべきか方針が立てられなかったこと。第221次調査地は一部が国指定遺跡となった重要遺跡であるため、集成には欠くことができないが、今回の集成には間に合わないことが判明した。そのため第221次については今後補遺という形で補う方法を考えていく。 2 コロナウイルス感染症対策のためデータ入力作業が遅れていたこと。データの入力作業については、博多遺跡群の地元でもある福岡大学人文学部考古学研究室の所属学生に依頼していた。コロナウイルス感染者が出ると研究室が閉鎖されるため、データ入力にも遅滞が生じた。 3 福岡市埋蔵文化財センターでの墨書陶磁器閲覧について、9月の閲覧時に年代確認が徹底できず、2月末にも作業を行うことになったこと。またこの時期には福岡市埋蔵文化財センターの事業や、センター移転事業の開始から、2月の調査日程が2月末になったこと。これらによって基礎となるデータの完成が全体として遅くなった。 4 最終的なデータと図版を集成すると、300頁以上の分量となったこと。2023年2月末の調査終了後データを集積した結果、分量的も刊行するには再検討が必要な状況となった。 これらの理由から、昨年度の目標としていた博多遺跡群出土の墨書陶磁器集成の刊行を年度内に実施することができず、現在までの研究の進捗状況は遅れているという判断にならざるを得なくなった。資料集刊行のためのデータ収集はすでに終了しているが、以上の理由の遅れとデータ整理と編集刊行作業の必要から研究期間をさらに1年間延長し、2024年度には資料集を刊行する予定としている。
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今後の研究の推進方策 |
博多遺跡群出土の墨書陶磁器資料集成については、アルバイトによるデータ入力は2023年度で終了した。本年度はデータ刊行のための編集作業と、刊行を目標とする。すでに2023年度より刊行に向けて準備を進め、印刷業者との折衝を進めている。墨書陶磁器のデータは3000点以上となり、それに画像データを加えた資料集として刊行する予定である。 過去に刊行された博多遺跡群墨書陶磁器資料集については、編纂者である福岡市の大庭康時氏から再編集による刊行を許可していただくとともに、今回の作業にも協力していただいている。また博多遺跡群墨書陶磁器資料集の刊行者である博多研究会とも、再編集による刊行ついて条件を確認し、その条件に沿って刊行する予定である。 博多遺跡群出土の墨書陶磁器集成刊行後は、成果を国内外の関係諸機関・関係者に送付し、相互の情報交換と更なる情報収集に努めたい。また紙媒体による報告書だけでなく、明治大学日本古代学研究所ホームページ等を活用した電子媒体による情報発信にも取り組む予定である。 資料集成刊行以外の研究推進については、これまでの研究期間においても既に報告・論文発表を行っているが、博多遺跡群出土の墨書陶磁器集成により集成されたデータに基づいた研究についても研究を推進し、この研究期間内での成果公表目指したい。研究代表者による墨書陶磁器研究は、これまでの研究にない視点による研究成果として国内外において評価されている。また国際学会での英語報告や中国語での論文発表など、日本国外へ向けた情報発信にも努めてきた。その結果、墨書陶磁器の発祥地である中国の学術界からの注目が増加し、2023年度には山東大学文化遺産研究院より招聘を受けて、現地での講演も実施している。墨書陶磁器及び関連資料を対象とする学術成果報告については今後さらに国内外において論文刊行、学術報告を実施し、研究を推進したい。
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