研究課題/領域番号 |
20K00950
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
河角 直美 (赤石直美) 立命館大学, 文学部, 教授 (40449525)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 環境史 / 景観復原 / 扇状地 / 天井川 / 土地利用変化 / 遊興空間 / 近代京都 / 歴史GIS / 景観史 / 水害 / 郊外の開発 / 都市史 / 歴史地理学 / 京都学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、地形環境の復原と、地図類・統計類など開発に関わる史資料の収集とデジタル化・GISデータベース化から土地利用復原をGIS上で進め、それらをGIS上で融合して分析することで自然環境と開発を議論する。その結果、近世期から近代にかけての京都の自然環境の特徴と開発の関係性を明らかにできよう。すなわち、自然堤防帯への居住地の拡大が最も遅く、扇状地から丘陵地・段丘へと拡大が進んだ点を、土木技術の乏しい時代における災害リスクを踏まえた居住地選択として指摘できると予想される。それは、1200年の間、度々被災しつつも都市として維持された要因の一つとして位置づけられると考える。
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研究実績の概要 |
本研究は、自然地理学や環境考古学の研究蓄積と都市開発や都市利用の変遷を主とする人間活動に関わる文字情報を、歴史GISに融合し、1200年の歴史と有する京都の都市景観復原とその変遷を検討することにある。過去の自然環境の復原に関しては、先行研究で言及されている京都盆地の詳細な地形分類図とその変遷をGISデータベース化することで、各時代の人文的情報との重ね合わせに対応できるようにした。また、2023年度も京都の街の景観などを描画した絵画資料や、近世から近代にかけての京都について記述したような文字資料の収集をおこなった。とりわけ各研究機関がデジタルアーカイブし公開している洛中洛外図屏風における描画に着目し、近郊農村の実態を検討した。一方、2022年度中におこなった写真資料や絵画資料から読み取ることのできる賀茂川・鴨川における河床の土砂堆積と自然堤防帯への居住の展開といった点について、洛中洛外図屏風での描画にも注視し、景観に関するGISデータベースの構築を進めた。さらに、東山の景観、周辺の農村の変容、いわゆる右京の状況などの描画も参考にした。描画は主観によるものであり、地理的な精度は欠けるものの、複数の屏風を横断して確認することによって過去の景観を復原するための一助となる。近世の京都では、鴨川をはじめ各河川で洪水が発生したと推察されており、一右京では引き続き近郊農村としての役割を果たしていたなかで、洪水被害に遭いやすい鴨川左岸の祇園や建仁寺以南などの開発が進んだことは、自然と人間活動とのひとつの関わり方と注視すべきと考えられる。こうした土地開発や土地利用の思想について、近代以降の土木工学的な思考が浸透していくなかでの連続性や非連続性についても検討を試みたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の流行のなかで、書き残された近世や近代における京都の景観に関する絵画資料やエッセイ、書き物を収集することで、人々の考えや意識といった主観的な内容を補ってきた。こうした資料の解に想定される以上の時間を有した。聞き取り調査をおこなえない時代の状態を知ることのできる資料であることから、地図類や古写真なども踏まえることで、より過去の実態を丁寧に検討していきたい。 コロナ禍を脱したものの、人手を確保できず作業の遅延が生じていること、また資料上の制約をふまえ、京都市の中心部全域を対象とした景観の復原は大枠なものとしつつ、とりわけ賀茂川・高野川・鴨川・桂川などの水辺の景観に着目して、地形環境の変遷と居住地との関係を明らかにした成果を提示することとしたい。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、当初の予定を変更し平安京域とその周辺までとして成果をまとめたい。先行研究で提示された8~10世紀、11~14世紀、15世紀、16~20世紀前半、そして20世紀後半以降の各時代の平安京域を中心とする地形環境の復原図を、2023年度にGIS化したことを受け、鴨川・賀茂川・高野川周辺における河川環境の復原に関わる情報を追加する。そのうえで、水辺周辺に関する土地利用展開の特性について言及していく。そのためにも、花街をはじめ河岸に成立した遊興空間をふまえながら、人間活動の動向をGIS上で可視化する。研究成果のまとめとして、平安京域とその周辺における各時代の地形環境と土地利用について概観したあと、とりわけ水辺に着目して自然環境の変化をふまえつつ人々の土地利用変化を総合的に検討する。そして、洪水による被害をたびたび受け、土砂の堆積と天井川化が進行するなかでも、都市として成長し維持されてきた背景について言及する。具体的には、近世までは、左京の高燥な土地に集住し、水はけの悪い土地などは田畑として土地利用されていた一方で、河川とその周辺については歓楽的な空間となるなど、危険と知りながらも住まう傾向があった。また中洲のような、水域とも力域ともいえるような空間を適宜利用するという水辺との付き合い方を構築している。洪水のリスクが膨らみつつあるなかでも、形成された地形条件を最大限に利用することで、遊興的な部分での生活の質を満たしていった可能性を指摘できると推察される。ただし、その不安定な土地と不安定な立場の人々との関係性についても丁寧にふまえ、日本の都市社会と平野の地形環境とのかかわりについても触れておきたい。以上から、扇状地という地形にいつの間にか依存しながら、河川に親しみ身近な自然と付き合ってきた過去の人々の心の持ち方に、近現代では失われた自然とのかかわり方を見出すことを目指す。
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