研究課題/領域番号 |
20K00984
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
山崎 圭 中央大学, 文学部, 教授 (60311164)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 水害 / 地域社会 / 治水 / 千曲川 / 村落 / 地主・豪農 / 幕府領 / 幕府領支配 / 自然災害 / 村 / 豪農・地主 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、近世信濃の幕府領を中心とした地域において、①飢饉・凶作や地震・洪水といった自然災害に対して地域社会がどのように対応し、その過程で地域自体がどのように変容を迫られたのか、②近世後期に深刻化する社会矛盾や政治変動に対して地域社会がどのように対応し、変容を迫られたのか、③幕末段階で災害時に幕藩領主が地域の存続をめぐり、どのような役割を果たし得たかを明治期を見通しながら解明することを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、(1)洪水と向き合う地域社会の研究、(2)飢饉・凶作と向き合う地域社会の研究、(3)幕末維新期まで見通した幕府領支配の研究、の3つの柱を立てる計画であったが、関係史料が多く見つかったことから特に(1)の比重を高めることにした。 今年度の史料調査は、中野市立博物館(旧柳沢村畔上家文書、継続)、長野市立博物館(赤沼村・赤沼河原新田文書)、長野県立歴史館、須坂市相之島区公会堂等において実施した。これらの調査成果のうち、特に赤沼河原新田文書の分析をもとに「検地帳・年貢割付状にみる千曲川沿い新田の開発と水害」(『中央大学文学部紀要・史学』69号)を発表した。そこでは、17世紀後半に千曲川沿いに開発されたこの新田村に関して、①検地帳からうかがえる開発の状況(開発の担い手、検地による土地掌握の様相等)、②近世を通じて数多く残されている年貢割付状からうかがえる時期ごとの災害発生状況とそれによる年貢減免のあり方、③さらに代官による起返地(洪水被害から復旧した土地)の掌握とそれによる年貢額の変動等について具体的数量的に明らかにした。これは今後の研究を進めるための前提作業である。現在は、連続する水害により著しい年貢減免を認められるほどダメージの大きかったこの村で、人々がどのように生活や生業を成り立たせていたのかについて検討を進めている。 また、調査を進める中で、赤沼河原新田の千曲川をはさんだ対岸にあたる須坂市や小布施町に、同新田との間で相論に及んだ際の史料等が多数残されていることが判明した。そこでは千曲川の流路変更による耕地の帰属や沿岸での堤防設置が対岸に与える影響等が争点になっており、これらの相論は複数の村々の間で発生し、かつ何度も再燃し近代に及んでいる。今後は須坂市・小布施町にも範囲を広げて継続的に調査を続けたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進捗状況はかなり改善し、かつ研究期間を当初の予定より一年間延長したので相応の成果を上げることができる見込みである。【研究実績の概要】で記した三つの柱のうち(2)の飢饉・凶作については十分な史料が得られていないものの、先にも記した通り(1)と(3)、特に(1)の洪水関係についてかなり史料が集まっており、また今後新たに調査すべき対象も見出すことができている。 具体的には、(1)継続中の旧柳沢村畔上家文書(中野市)については史料の点数が多く、全体の目録取りがまだ終わっていないので、中野市立博物館や中央大学大学院生の協力を得て今年度中には調査を完了する予定である。また、本研究以前から中野市教育委員会と共同で調査を進めてきた延徳耕地の治水について、幕府の利益優先的対応や、村々による技術的裏付けを伴った計画立案とそれをめぐる争い等に関して論考をまとめているところである。(2)長野市立博物館で保全作業中の赤沼村文書・赤沼河原新田文書については、保全作業に協力しながら作業済みの史料を撮影してきた。これまで撮影した分の分析をもとに『中央大学文学部紀要』に論文を発表したが、その他にも、「干揚地」と呼ばれる、水害により年貢を減免されているものの、ある程度耕作可能な土地の利用実態をはじめ、水害の状況下で人々の生活・生業がどのように成り立っていたのかについて論文を作成中である。(3)先にも述べた通り、千曲川をはさんだ村々の相論に関する史料が近世から近代にかけて多数残されており、長野市立博物館の他に、須坂市相之島区・須坂市文書館・小布施町文書館等で関係史料の調査を進めている。また、長野県立歴史館で長野県史刊行会がかつて収集した史料の写真を閲覧することで、関連史料の所在状況についても確認した。
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今後の研究の推進方策 |
長野市立博物館で保全作業中の旧赤沼村文書(赤沼上組下組文章)と旧赤沼河原新田文書(赤沼東組文書)については、保全作業に協力しながら作業が済んだものを閲覧・撮影していく。旧柳沢村畔上家文書については、あと少しで目録作成が完結するので、大学院生の協力を得ながら、主に夏休みを利用して調査・整理を行う。相之島区有文書については前回の調査で千曲川関係の史料がかなり含まれていることがわかったので、地元関係者の協力を得ながら引き続き調査・撮影を実施する。小布施町文書館も同様だが、そこまで手が回らなければ、相之島区有文書を優先する。 2024年度は研究の最終年度であり、かつ、これまでの調査でわかってきたことが多くあるので、それらを論文にまとめることはもちろんであるが、それと同時に研究報告や講演を行って成果を社会に還元していきたい。現在のところ、5月に歴史的水害史料活用研究会(長野市)、12月に信州近世史セミナー(テーマ「近世から近代の治水」(仮)」、長野県立歴史館)での報告を予定している。特に前者は、歴史研究者の他に土木工学系の研究者や河川技術者も参加する研究会なので、ここで情報交換をすることにより千曲川水害に関する学際的な成果を得ることが期待される。また、日時は未定であるものの、研究対象村の地元の方向けの講演も依頼されているので、社会的なニーズにも応えたい。また、今回の研究成果を含む単著の刊行に向けてできる限り準備を進める。
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