研究課題/領域番号 |
20K01027
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
私市 正年 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (80177807)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | スーフィー教団 / アルジェリア / 民族運動 / アルジェリア・ウラマー協会 / 5月8日事件 / イスラーム / 道徳、倫理 / ナショナリズム / 植民地主義 / ザーウィヤ / コーラン学校 / カビリー / ナショナリズム運動 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、農村に広がっていたスースーフィー教団が発行していた新聞を分析し、そこに見られる宗教的・道徳的な反植民地啓蒙活動と、政治的ダブルスタンダードに隠れた強い政治志向との結合が、農民大衆層のナショナリズム思想の覚醒に大きな影響を与えたことを明らかにすることを目的とする。具体的には、スーフィー教団が発行していた公認新聞と、地下新聞al-Ruhにおける、道徳、倫理、教育に関する記事から反植民地主義的啓蒙活動の役割を分析することと、政治的記事に関しては、国内問題には沈黙するが、国外の政治には積極的に発言するというダブルスタンダードのスタンスに隠れた強い政治志向を明らかにする。
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研究実績の概要 |
アルジェリア出張が困難であった故、研究計画に沿って既に収集ずみの新聞資料の分析とチュニジアへの調査出張を行った。 チュニジアでは、1861年憲法の史料調査とその分析によって、保護領支配という植民地支配の在り方が多様な改革主義的運動を可能にしたこと、他方で直轄植民地支配を受けたアルジェリアの民族運動、独立運動がそれとは異なる武装闘争による歩みを強いられたことが明らかになった。 研究目的としてかかげた政治的ダブル・スタンダードの検証のため、アルジェリアの民族運動と独立運動に大きな影響を与えた、1945年5月のいわゆる「5月8日事件」がどのように扱われていたのか、ということに着目して新聞資料の分析を行った。とくにスーフィー教団とともに道徳、倫理の改革運動をすすめたイスラーム改革派グループのアルジェリア・ウラマー協会の雑誌、al-Basa’irの記事を参照し、ウラマー協会の「5月8日事件」に対する姿勢を考察した。ウラマー協会は、毎年5月上旬発行の同誌において、「5月8日事件」を大きくとりあげ、それを植民地支配に対する批判材料としていた。たとえば、同誌79号(1949年5月9日発行)では、1面で「Dhikra thamin May(5月8日の記念日)」とする記事を掲載し、「実に植民地支配の時代は、不正とテロリズムと、自由と人間の尊厳に対する攻撃の時代である。植民地支配の歴史のページの全てが、抑圧と流血と才能の鎮圧の称賛、自由の絞殺の称賛である・・・。」と述べて、植民地支配に対する激しい批判の姿勢を表明している。ここには明確なウラマー協会の反植民地主義的姿勢がみてとれる。この結果をふまえれば、「5月8日事件」に沈黙するスーフィー教団の新聞にみられる政治的出来事に対するダブル・スタンダードな姿勢の検討が重要な意味をもってくることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、スーフィー教団の新聞資料を用いて、その政治文化的影響を分析することである。これまでの分析で提起した問題は、第1にスーフィー教団は、農村における道徳的、倫理的改革運動の回路を通じて、その運動を政治改革へと接続していったのではないか、第2にスーフィー教団は国内政治には沈黙するが、国外政治には積極的に発言するというダブル・スタンダードの政治姿勢をとっていたのではないか、その姿勢はスーフィー教団が政治志向性を内包していたことを示すのではないか、いうことである。この2点について比較検討のために、スーフィー教団と同様の宗教、文化教育を柱として倫理道徳運動を行っていたイスラーム改革派グループのアルジェリア・ウラマー協会の雑誌、al-Basa’irの記事を参照し、「5月8日事件」に対する姿勢の分析を試みた。ウラマー協会は、毎年5月上旬発行のal-Basa’ir誌において、「5月8日事件」を大きくとりあげ、それを植民地支配に対する批判材料としていた。しかし、これをもってウラマー協会が反植民地主義的、スーフィー教団が植民地支配に協調的とみるのは間違いであろう。というのもスーフィー教団員の青年たちが非合法下で発行していた新聞al-Ruh紙には、al-Basa’ir誌と同様「5月8日事件」の批判と、それを反植民地支配と結びつける視点がみられるからである。ただし、スーフィー教団とウラマー協会の対照性を明らかにしたことは、本研究の順調な進展を示すものといえよう。なおアルジェリアの植民地期のイスラーム改革運動が独立後のイスラームと政治の関係にもたらした矛盾については、以下の報告において言及した。「1990年代アルジェリア内戦と民兵――民兵の出現とその功罪」(広島・中東イスラーム情勢研究会:第1回研究会:2022/9/4広島大学)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の第一の目的は、倫理道徳的な記事については、それがアルジェリア人民衆を文化宗教的な側面から反植民地的志向へと促したこと、政治的記事については、ダブル・スタンダードの姿勢を指摘することでスーフィー教団の政治志向を明らかにすることであり、第二の目的は、第一で明らかにした二つの点は相互作用となってスーフィー教団の活動をナショナリズム運動へと発展させる力になったことを論証することである。この問題は、すでに“Anticolonialisme et tendance politique des tariqas soufies et des zawiyas en Algerie” (AJAMES,37-2,2021)という論稿で明らかにしたが、アルジェリア・ウラマー協会とスーフィー教団との協働関係についてはいまだ分析が不十分である。それ故、本研究の最終年である本年度は、主としてこの研究にとりくみ、本研究をまとめるつもりである。具体的には、第一に、アルジェリア・ウラマー協会の雑誌、al-Basa’irを資料として政治的記事、とくに「5月8日事件」の記事を分析し、その内容をal-Ruh紙の「5月8日事件」の記事と比較検討を行う。第二に、5月にアルジェリアに調査出張し、アルジェ大学、およびアルジェリア外務省で上記のAJAMES論稿について研究報告をし、研究者たちとの意見交換によって、ウラマー協会とスーフィー教団との協働関係についての議論を精緻化する。第三に、本研究では欠落していた経済問題として、ザーウィヤにおけるHabous(Waqf)財について分析を行う。これは本研究を次なる段階に進展させるための準備でもある。 本研究で得た成果は、2024年度の日本中東学会の大会で研究報告を行う予定である。
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