研究課題/領域番号 |
20K01078
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03050:考古学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
安藤 広道 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (80311158)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 戦争遺跡 / 公共考古学 / 360度映像・画像 / 3Dモデル / オンラインマップ / 地図型アーカイブ / アジア太平洋戦争 / 360度パノラマ動画 / 軍事遺跡 / 公共歴史学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、アジア太平洋戦争期末期の航空特攻に関わる海軍の軍事遺跡を対象に、多様な立場の方々とともに、公共考古学的観点からの実践的研究を行うものである。多様な視点からの多様な歴史が構築される近現代史は、対立や排除が顕在化しやすい場である。本研究の目的は、そうした場で公共考古学的研究を進めることを通じ、学術的世界からの一方通行的な関係とはまた別の、公共的世界と考古学の関係の在り方を模索することにある。
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研究実績の概要 |
2022年度も、前半はコロナ禍の影響が大きく、戦争遺跡の調査や研究会等を思うように実施できなかった。しかし、2021年度から研究の軸足を地図型アーカイブの作成と公開に移行させたこと、2022年9月以降は、戦争遺跡の現地調査を市民・自治体の協力のもとで実施できるようになったこと、さらには2年間中止となっていた鹿屋市平和学習ガイドによる調査報告会が開催可能になったことなどにより、最終的には2022年度当初の計画以上の成果を得ることができたと考えている。 戦争遺跡の調査については、3Dデータの作成など研究代表者単独で可能なものを除いては、いずれも鹿屋市ふるさとPR課、鹿屋市平和学習ガイドと共同で実施した。2022年9月からは鹿屋市一帯の戦争遺跡の悉皆調査を再開し、その結果、鹿屋基地周辺に5基の無蓋掩体壕が残っていることを確認することができた。うち1基については遺存状態がきわめて良好であったため、2023年3月に測量を実施した。また、第五航空艦隊司令部壕の追加調査も可行い、360度画像をはじめ調査データの拡充を進めた。 戦争遺跡の調査以外では、過去に記録された、戦争体験談や手記、写真、図面等の悉皆調査と、データベースの作成を行った。この調査は、地域の方々が収集・作成した資料や、鹿屋市立図書館等の地域の施設に収蔵されている資料を探索し、それぞれをデジタル化するかたちで進めた。 以上の成果を中心に、南日本新聞社、南九州新聞社、地域の研究者などから提供していただいた情報、さらにWebで公開されている多種多様な情報を加え、株式会社Strolyが提供するプラットフォーム上に貼り付けていくことで、複数の地図型アーカイブを作成した。そしてこれらを統合したものを「鹿屋戦争アーカイブMap」と名づけ、2023年3月18日の鹿屋市平和学習ガイドによる調査報告会にて報告するとともに、一般に公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度も、前半は依然コロナ禍の影響が大きかったものの、9月以降は、感染者数の減少するタイミングと関係者のワクチン接種状況を勘案しつつ、市民や自治体との共同調査を実施することができるようになった。2023年1月以降は、状況が一層改善されたことにより、コロナ禍以前に近い状態にまで戻すことができた。また、2年間開催が中止されてきた鹿屋市平和学習ガイドによる調査報告会が再開されたことにより、研究成果のアウトプットの幅も拡がった。さらにコロナ禍においてオンラインによるミーティングが普及・定着したこともあって、情報収集や意見交換などはコロナ禍以前よりも活発に行うことができるようになった。 以上により、多少の計画変更が必要になったとはいえ、結果として2022年度当初の計画よりも大きな成果を得ることができたと考えている。研究全体としても、コロナ禍の影響で成果のアウトプットの主軸を地図型アーカイブに移行したことで研究期間を1年延長せざるを得なくなったものの、逆にこの変更によって多様なステークホルダーの調査・研究・成果の発信への参加の道筋が大きく開け、本研究の主眼である公共考古学的実践の厚みが増す結果となった。これらのことから、2022年度末までにコロナ禍による研究の遅れを、ほぼ取り戻したと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、2022年度までに制作・公開した地図型アーカイブのアップデートと、年度末の鹿屋市での研究報告、そして研究全体の成果をまとめた調査報告書の刊行が中心となる。 地図型アーカイブのアップデートは、2022年度に確立した方向性に則り、鹿屋市をはじめとする肝属地域の戦争遺跡の調査、体験談・手記等のデータベース化を一層進め、地図上に追加していく作業が中心となる。現在、鹿屋市以外の自治体や郷土史家、県立高校などにプロジェクトへの参加あるいは協力を呼び掛けており、可能なかぎり参加者・協力者の枠組みを拡張したいと考えている。 また、2022年度の「鹿屋戦争アーカイブMap」の作成過程において、鹿屋市一帯の戦争遺跡、及び体験談・手記等をめぐる対話の場を形成するためには、これらを、アジア太平洋戦争末期の戦局の評価のなかに位置付けていく必要があることが明らかになった。そのため、「アーカイブMap」に沖縄や奄美の戦争遺跡や体験談・手記等の情報につながるディレクトリを追加するとともに、そこで公開する情報を収集するための調査を計画に組み込む。なお、2021年度に一般公開した「高座海軍工廠第三工場区アーカイブMap」も、同様のかたちでアップデートを進め、二つの「アーカイブMap」を連繋させて利用できるようにする。 2023年9月からは、以上の取り組みと併行して4ヶ年の研究成果をまとめる作業に入る。そして2024年3月に、鹿屋市平和学習ガイドによる調査報告会にて、市民向けに研究全体の成果報告を行うとともに、研究成果をまとめた報告書を刊行する。冊子体としての報告書は全国の大学、博物館、研究機関、図書館等に配布し、電子データを慶應義塾大学学術情報リポジトリにて公開する予定である。
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