研究課題/領域番号 |
20K01105
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03060:文化財科学関連
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研究機関 | 福井工業高等専門学校 |
研究代表者 |
嶋田 千香 (毛利 千香) 福井工業高等専門学校, 電子情報工学科, 特命准教授 (20345599)
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研究分担者 |
小越 咲子 福井工業高等専門学校, 電子情報工学科, 准教授 (70581180)
小越 康宏 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (80299809)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | トロロアオイ / 和紙原料 / 福井県 / IoT栽培 / 根の保存方法 / 根抽出液の粘弾性 / 内部組織形態 / ノリウツギ / 組織学的研究 / 保存方法 / 粘液測定 / 組織学的観察 / 和紙材料 / 栽培・保存条件 / 粘液細胞観察 |
研究開始時の研究の概要 |
高品質の和紙の安定的な生産は、世界の美術品の製作や文化財保存に必須である。和紙製作には、繊維を均一に分散させるノリウツギやトロロアオイの粘液が使用されてきた。 2019年、茨城県内のトロロアオイ生産農家が栽培停止を決め、その根を購入していた福井などの産地では大きな困惑が広がった。こうした中で、和紙の継続的かつ安定的な生産のためには、病気に強い栽培方法、ならびに粘液の粘性維持が可能な簡便な保管方法の確立が重要と言える。 本研究では、栽培農家や実際に粘液を使う紙漉き職人を支援し、和紙産業の安定的な継続に貢献できる、栽培条件、植物体内の粘液分布、粘液の保存方法の解明を試みる。
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研究実績の概要 |
和紙は美術品や建築材料など、日本文化の根幹をなす基本的な材料と言える。また、和紙は世界の美術品や書籍の保存修復にも使用され、世界の文化財を次世代に伝えていくために必須の材料である。トロロアオイの根から得られる抽出液は手漉き和紙の粘材であり、特に「流し漉き」の製法で利用されている。この植物はこれまで主に茨城県内で生産されてきたが、その生産量は近年激減し、和紙製造継続に大きな危機感を感じている産地がある。越前和紙はそうした産地の1つである。 本研究の主な目的は、(1)栽培条件、(2)環境に配慮した根の保存方法、(3)根の組織学的及び根抽出液の科学的評価法を、それぞれ確立することであり、R2-4年度は、特に(1)と(3)について大きく進捗させた。栽培されている植物種や栽培方法、根抽出液の簡易評価法(ロート通過時間測定)、内部組織形態については、3年間で4回の学会発表(文化財保存修復学会、設備管理学会)を(R5年度にも学会発表1回予定)、また根抽出液の流体力学的な解析については、1回の学会発表(日本機械学会)が行われた。これらの他、福井県内での栽培成功の新聞掲載、文化財関連の教育プログラム(NPO法人文化財保存支援機構実施)で栽培研究がビデオ配信された。 当初の予定から大きく発展した点は2点あり、(1)栽培については、当初福井県内での栽培成功を目標にしていたが、R4 年度から、良質な根抽出液を得るための普遍的な栽培条件の解明を目指し、実験を開始することができた。また、(3)根抽出液の評価方法では、R3年度から流体力学の専門家との共同体制が整い、根抽出液のより専門性の高い評価が可能になった。 本研究の継続は、R5-7年度の科研費採択により可能となった。今後も(1)と(3)を遂行させると共に、(2)の基礎データとして粘液の分子解析と粘液に繁殖する微生物解析を新たに実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)栽培条件について、トロロアオイの名称で流通する別種の植物、通称ハナオクラが存在し、真正のトロロアオイとは外部形態的な差異があった。また、本研究以前は福井県内で本種の栽培が困難であったが、福井県内での栽培に成功、栽培方法(連作不可、マルチ被覆可、コンパニオンプランツとの混植・摘芽と摘蕾は根成長に影響なし、摘芽のタイミング解明)の知識が蓄積されてきた。R4年度はより高品質の抽出液を得るための栽培方法解明に焦点を置き、土壌中水分の多寡に着目、圃場(砂質土壌)と鉢(赤玉土に軽石の添加)での栽培を試みた。条件ごとの栽培株への影響、並びに環境要因(大気・土壌中の温湿度)との関連は不明瞭であった。 (2)根の保存方法については、粘液の劣化に微生物関与の可能性があることから、微生物繁殖抑制作用のある生薬に着目、保存液中への添加量を現在検討中である。 (3)根の組織観察からは、トロロアオイ根の場合、その粘液が根の中央と表皮下に多く分布していた。トロロアオイとハナオクラとでは、粘液が含まれる細胞間の空隙の割合が、前者の方が大きかった。 根抽出液については、簡易的なロート通過時間測定により、根抽出液の経時的な性質の変化(抽出直後は通過時間測定値の変異が大きく、2日目以降測定値の変異が小さくなる。分子構造の変化が原因として考えられる)、個体間の変異(抽出2日目が最大の粘りを示する株、それ以降も粘り強度が継続する株がそれぞれ存在)があった。また、ハナオクラはトロロアオイと比べ、根抽出液の粘りが劣化しやすく、その色調が白濁しやすい。同一条件下でまた流体力学の視点から詳細な粘液性質(曳糸性、伸長粘度など)解析(測定機器製作も含む)が進行している。 和紙抄造のネリ材料、ノリウツギについては、新たな共同研究者と共に挿木増殖・栽培、北海道標津町のノリウツギ栽培メンバーと情報交換を開始、継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
粘液の性質に影響するトロロアオイ栽培条件の解明、並びに粘液を含有するトロロアオイ根の保存の改善が重要である。これらの解決に向け,原植物の解明,異なる栽培条件での栽培,栽培株から得られる粘液の物理特性・分子構造・微生物解明,更に、これらの結果のデータベース化を実施し、今後の栽培・保存研究に新たな指針を与えることを目指す。 トロロアオイと混同される、ハナオクラの起源を明確にするため、文献、植物標本、浮世絵調査をR5,6年度に実施する。浮世絵調査のためには,美術専門家の協力を予定している。 また、トロロアオイ栽培条件検討のため、福井県和紙工業協同組合の協力の元、埼玉県小美玉市の生産地調査をR5,6年度に実施する。 トロロアオイとハナオクラの圃場での栽培は、R5-7年度の毎年4月から11月で、異なる栽培条件(R5は前年から継続して土壌水分に着目)で栽培すると共に、栽培中の環境要因(気温、気圧、湿度、日射量、土壌水分等)を記録する。生育中は地上部を毎日カメラ撮影し,地上部の生育の経過を記録,撮影後適宜画像解析する。また、環境要因記録のためのセンサー開発・改良も同時に実施する。収穫後に根直径・長さを代表者が計測する。また、栽培後に得られた種子を翌年播種し,植物種の交雑の有無を確認する。 粘液の評価には、R2-4 同様にロートの通過時間計測、物理特性(せん断粘度、第一法線応力差、曳糸性、伸長粘度、表面張力)の他、分子構造(高分子量成分、高分子量成分断片、低分子量成分)、分子構造を分解する微生物解析をそれぞれ実施する。R2-4年度に得られた実験データ、調査結果と共に、令和5-7年度に得られる実験結果を順次データベースにデータ入力、解析する。この粘液評価によって得られた結果は、栽培株から得られた抽出液、並びにクレゾール水溶液等で保管された根の抽出液と比較される。
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