研究課題/領域番号 |
20K01121
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03070:博物館学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
下林 典正 京都大学, 理学研究科, 教授 (70235688)
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研究分担者 |
白勢 洋平 愛媛大学, 理学部, 助教 (50793824)
延寿 里美 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 助教 (40844296)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 鉱物標本 / 博物館 / 比企忠 / 記載鉱物学 / 新鉱物 / 日本新産鉱物 / 非破壊分析 / 標本目録 |
研究開始時の研究の概要 |
鉱物学のような自然史研究において標本の重要性は言うまでも無いが、昨今の鉱物学界では標本の重要性への意識が薄れていることも否めない。本研究課題では、鉱物学の原点に立ち帰るために、日本における鉱物学の黎明期である明治・大正期に収集されて現在は博物館に収蔵されている鉱物・鉱石標本に再びスポットライトを照らし、最先端分析技法を駆使して国内産出鉱物種の再評価をはかることを目的としている。具体的には、京都大学総合博物館で未整理のまま収蔵されている膨大な量の鉱物・鉱石標本の中で『比企鉱物標本』をクローズアップして、整理・登録・データベース化を進めるとともに記載鉱物学的研究を推し進める。
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研究実績の概要 |
当該年度もコロナ禍の影響のために、博物館資料の整理・データベース化についてはほとんどまったく進まずに計画の大きな遅れが生じたままである。 その一方で、記載鉱物学的研究については当該年度も大きな成果があった。愛知県の中宇利鉱山跡から見出されたクテナス石様鉱物の同定を依頼され、初年度に導入したX線分析顕微鏡を用いて非破壊条件下で予備分析を行ったところ新鉱物である可能性が高まった。そこで追加サンプルを入手して電子線プローブ分析やX線回折分析を行ったところ、クテナス石(ZnCu4(SO4)2(OH)6・6H2O)の亜鉛をコバルトやニッケルで置換した鉱物であることがわかった。前者のコバルト置換体はゴベリン石(CoCu4(SO4)2(OH)6・6H2O)と呼ばれ、比較的最近(2018年)になって海外から新鉱物として報告されたものであるが、これまで日本での産出は知られていなかった。そこで日本新産の鉱物種として秋の日本鉱物科学会の総会にて学会発表を行った。また、後者のニッケル置換体(NiCu4(SO4)2(OH)6・6H2O)に関しては海外でもまだ報告はされておらず、新種の鉱物として国際機関に申請を行い(IMA2022-065)、新鉱物「浅葱石」として承認を受けることができた。それ以外にも、兵庫県新井鉱山から塩化鉛鉱、岩手県舟子沢鉱山からフェリリーキ閃石・マンガンチェルキアラ石・バリウム輝沸石、岩手県田野畑鉱山からウンガレッティ閃石といった日本新産鉱物を見出し、共同研究者とともに学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
明治維新後に欧米から地質学や鉱物学を導入した我が国において“鉱物学黎明期”と言える明治・大正時代に国内各地から採集されて博物館に収蔵されている鉱物・鉱石標本に再び焦点を当てて、最先端分析技法を駆使して日本産鉱物種の再評価をはかることが本研究課題での目的であった。そのための主対象を京都大学総合博物館に収蔵されている『比企鉱物標本』に置いて、その標本整理・データベース化を通して当時の日本の鉱物コレクションの存在と意義を社会に発信することが本研究の大きな目的であったが、コロナ禍の影響を受けて博物館資料の整理作業自体にはかなり大きな遅れが生じている。 その一方で、博物館に収蔵されている鉱物がかつて収集された古典的な有名産地付近の調査・探索を行い、なかには産地の再発見や近傍に新たな鉱物産地を開拓することができたなど、記載鉱物学の面では大きな成果を上げてきた。当該年度では、前年度に古典的産地である生野鉱山跡から見出して新鉱物として申請していたザッカーニャ石の高水和物は新種としての認定は受けられなかったものの、愛知県の中宇利鉱山跡から見出されたクテナス石様鉱物が そのニッケル置換体である新鉱物「浅葱石」として承認を受けることができた。さらに、当該年度だけでも兵庫県新井鉱山から塩化鉛鉱、岩手県舟子沢鉱山からフェリリーキ閃石・マンガンチェルキアラ石・バリウム輝沸石、岩手県田野畑鉱山からウンガレッティ閃石といった日本新産鉱物を見出した。 この結果、本研究課題をスタートさせてからの3年間で、新鉱物1種と日本新産鉱物11種の学会報告を行い、記載鉱物学面での成果を上げている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の遂行のためには、本課題の採択以前から比企鉱物標本の整理・登録作業に主導的に関わってきてコレクションの全貌を把握している在京の研究協力者を京大総合博物館に招聘することが不可欠であった。また、京大総合博物館在籍時にその作業に携わった2名の研究分担者にも同時に来訪いただく必要があったが、コロナ禍の影響のため研究組織メンバーを京大博物館に集めることができなかった。そのために本研究課題の遂行には大きな遅れが生じている。 期間延長して最終年度とした次年度には、まずは研究代表者である下林が在京の研究協力者の元を訪れてこれまでの標本整理の記録を引き継ぎ、研究分担者2名の他にも博物館で新規採用された地質試料担当者にも新たに研究協力を仰ぎ、総力で標本整理・データベース化作業を遂行させる計画である。 一方で、記載鉱物学の研究については、従来通り研究代表者・分担者が連絡を密に取りつつ、引き続きそれぞれで推し進めていくことになる。特に京都大学・愛媛大学とで取り組んでいる京都府和束町の稀産鉱物の記載鉱物学的研究においては、新たに京大の学生に研究テーマとして担当させて現地調査や追加試料の採取も行いつつ、京都大学内であるいは必要なサンプルを愛媛大へ送ることで、両大学のそれぞれで観察・分析をして研究を推し進めていく。
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