研究課題/領域番号 |
20K01244
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05010:基礎法学関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
長谷川 貴陽史 東京都立大学, 法学政治学研究科, 教授 (20374176)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 移民 / 難民 / 社会的包摂 / 社会的排除 / 入管 / 入管法 / グローバル化 / 包摂 / 排除 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、わが国における移民・難民の社会的包摂と社会的排除の様態を、法制度及び社会実態の調査により、法社会学的に分析し、法政策的提言に結びつけることを目的とする。 具体的な研究対象は、日本の移民・難民に関わる法制度とその運用、移民・難民の生活実態である。 研究方法としては、わが国の移民法制の分析、制度の運用や移民の現状等の社会調査(面接調査、質問票調査等)を中心とする。
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研究実績の概要 |
本研究は、わが国における移民・難民の社会的包摂と社会的排除の様態を、法制度及び社会実態の調査により、法社会学的に分析し、法政策的提言に結びつけることを目的とする。 今年度は、昨年度の実施状況報告書でも予告したように、英語論文を公表した(Kiyoshi Hasegawa, "Inclusion and Exclusion of Immigrants and Refugees in Japan: A Preliminary Study," Japanese Yearbook of International Law, Volume 66 (2023) pp.212-244. (2024年2月))。 本論考は国際法協会日本支部の英文年鑑に公表されたものであり、既発表の日本語論文「日本における移民・難民の包摂と排除」広渡清吾・大西楠テア(編)『移動と帰属の法理論』岩波書店99-121頁(2022年8月)に基づき、それをさらに深化させたものである。 論考前半では、日本における移民・難民の排除の実態について説明し、後半では難民関連訴訟における下級裁判所の裁判例の中に、難民の包摂の契機を読み取っている。その上で、それらを踏まえて、論考末尾で包摂に向けた改善策を述べ(入管法における不確定概念の具体化・明確化、技能実習制度の廃止、行政手続法や行政不服審査法の適用除外の見直し、退去強制令書による収容に期間の定めを置く、収容令書の発付に裁判所が関与する仕組みを作るなど)、包摂に向けた理念を構想した。 なお、このほか社会的包摂と排除に関わる理論的探究を含む日本語論文を2本公表した(長谷川貴陽史「儀礼・論証・基底-法社会学における法の概念と考察対象に関する試論的考察」法と社会研究8号3-27頁(2023年5月)、同「地域住民及びその団体の多様化と位置づけ」法律時報1194号36-41頁(2023年9月))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると言える。なぜなら、上述したように、これまでの成果を英語論文として公表し、国際的に発信できたからである(Kiyoshi Hasegawa, "Inclusion and Exclusion of Immigrants and Refugees in Japan: A Preliminary Study," Japanese Yearbook of International Law, Volume 66 (2023) pp.212-244. (2024年2月))。 同論考は、日本における移民・難民の排除の実態について説明し(法務大臣の裁量権の広汎さ、技能実習生に対する処遇、被退去強制者に対する処遇、難民認定の少なさ)、後半では難民関連訴訟における下級裁判所の裁判例の中に、難民の包摂の契機を読み取っている(裁判所によるUNHCRハンドブックの参照や引用など)。その上で、それらを踏まえて、論考末尾で包摂に向けた改善策を述べ(入管法における不確定概念の具体化・明確化、技能実習制度の廃止、行政手続法や行政不服審査法の適用除外の見直し、退去強制令書による収容に期間の定めを置く、収容令書の発付に裁判所が関与する仕組みを作る、収容施設の改善など)、同時に、包摂に向けた理念を構想した(外国人の社会統合を図る「同一化志向」ではなく、理解し合えぬまま共存する「了解志向」)。 ただし、まだ移民・難民等に対する面接調査や質問票調査が不十分である。彼らの生活実態をもう少し明らかにすることが本研究の遂行には有用である。 なお、昨年(2023年)の入管法改正の結果は英語論文にも反映させることができたが、改正後の議論について整理する必要がある。また、政府は技能実習制度を廃止し「育成就労制度」を創設する見込みであるため、この点をフォローすることが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の目標として、第1に、移民、難民、避難民に対するヒアリング(面接)調査を実施したい。本年3月、移民・難民等に対する今年度の面接調査に関する申請が学内の研究倫理審査をパスしたので、相手方と通訳さえ見つかれば面接調査は可能であると思われる。 第2に、入管法改正後の議論について検討を加えたい。改正の主眼は、非正規滞在者を入国管理施設に長期間収容している状況を改善することにある。そのために難民認定の申請を原則2回に制限し、3回目以降は申請中でも強制送還できるようにし、申請を繰り返す非正規滞在者を削減する。もっとも、この点に関しては野党や弁護士会から強い批判がなお残っている。送還忌避者らを迫害を受けるおそれのある国に送還することは、難民条約上のノン・ルフールマン原則に反する、というのが批判の骨子である。この議論の帰趨を見届けるとともに、認定されるべき難民とそうでない難民認定申請者とを峻別できる制度設計を模索したい。 また、政府の有識者会議は技能実習制度を廃止するとともに、新たに「育成就労制度」を創設する方針を提示した。技能実習制度の問題点については上記英語論文でも指摘したところであるが、この制度変更が外国人労働者の境遇をどのように変化させるかを追尾することも重要な課題である。 さらに、昨年度に引き続いて、社会学における包摂と排除の議論を踏まえ、移民や難民をどのように把握するか、理論的な検討をも深める必要がある。社会システム理論において、移民、難民、避難民等をどのように位置づけるかが重要である。国民を一方の極、非正規滞在者を他方の極とする、社会的包摂のスケールの中に様々な在留外国人を位置付け、その権能や資格等を整理してゆきたい。
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