研究課題/領域番号 |
20K01278
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05020:公法学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡辺 徹也 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10273393)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | プラットフォーム課税 / 就業形態の変化 / ギグ・ワーカー / OECD包摂的枠組 / 利益A / デジタルサービス税 / 企業会計 / 法人税法の変遷 / 法人課税の課題 / デジタル・プラットフォーム / 企業会計・会社法と租税法 / 執行コスト・事務負担 / 政策・優遇税制 / 副業 / デジタル課税 / 国際的最低税率 / BEPS 2.0 / 国際的租税回避 / デジタルプラットフォーム / 法人税 / 国際課税 / 経済のデジタル化 / プラットフォーム / シェアリングエコノミー / デジタル / 所得課税 / 売上税 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究ではデジタル化に適正に対応する税制を扱う。具体的には相互に関連する三つの分野に分けて検討を行う。すなわち(i)経済のデジタル化における国際課税の問題、(ii)シェアリング・エコノミーから生じる課税問題、(iii)デジタル化が地方税制度に与える影響とその対応である。 (i)については、現在のOECDの活動を主たるターゲットにする。(ii)については、ホストの確定申告にプラットフォーム企業をいかに関わらせるか等ついて考える。(iii)については、宿泊税、ふるさと納税におけるクラウドファンディング、個人住民税の前年課税から現年課税制度への移行、固定資産税の評価に関するIT化を取り上げる。
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研究実績の概要 |
まず、経済のデジタル化における国際課税の問題については、第1の柱における利益A(amount A)に関するOECDの動向、およびデジタル・サービス税(DST)に関する加盟国の動きを追った。利益Aに関する多国間租税条約ついては、2023年には発効する予定であったが、OECDにおける各国の主張がかみ合わず交渉が難航したため、結局、2024年3月までに条約案を決定し、2024年6月末までに署名式典を実施することになっている。しかし、2024年は米国大統領選挙の年にあたるため、同年中にアメリカが多国間条約に署名する可能性は低いことが判明した。 OECDにおける交渉が遅れがちになっていることに伴い、DSTに関する状況や考え方についても加盟国ごとに違いが顕在化しつつある。条約発効によりDSTを廃止することについては既に包摂的枠組みにおいて合意されているのであるが、既にDSTを導入している国と、導入を待っている国では立場に差が出ている。後者の国はDSTによる税収がなく、かつ条約発効が遅れれば遅れるほど、利益Aによる税収も得られないことになる。カナダはこのような状況に不満をもつ国の1つであり、国際協調路線から一歩後退する動きを取っている。 次に、シェアリング・エコノミーに関する課税問題については、デジタル社会における副業および就業形態の変化と所得課税についての検討を継続して行った。コロナ禍を経た後においてもギグワーカーのような働き手は依然として存在しており、さらにテレワークやジョブ型雇用といった就業形態・雇用形態の変化の動きも続いている。解釈論だけでなく立法論としても、所得分類の見直しを視野に入れる時期に来ているように思われる。 なお、企業会計と法人税との関係については、法人税法22条の2(収益認識会計基準への対応)の導入を前提とした上で、法人税法における費用側の扱いを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画のうち、(i)経済のデジタル化における国際課税の問題および(ii)シェアリング・エコノミーから生じる課税問題についての検討は順調に進んでおり、計画以上に進展しているといえなくもない。ただし、社会におけるデジタル化の歩みは単に早いだけでなく、一定の地点までくれば停止するということもないから、常に新しい研究対象が供給されうる状況にある。実際にこの1年でも大きな変化があった。 したがって、これまでの研究をブラッシュアップする必要性に追われることになる。例えば、生成AI等のデジタル技術の発展が著しく、これらが税制全般に与えうる影響(正と負の双方の影響)を考察する必要性を今現在は感じている。 そのような理由から、当初の計画のうち、(iii)デジタル化が地方税制度に与える影響とその対応についての検討にまで手が回りにくく、やや遅れているといえるかもしれない。しかし、2024年度時点の研究を行う際に、できる限り過去の経緯を取り込む形にすることで、キャッチアップを図ることにする。 結果として、上記(i)(ii)が計画以上に進展しているといえなくもない反面、上記(iii)が計画よりやや遅れている可能性があるため、全体としては「おおむね順調に進展している」という評価にした。もっとも、常に新しい研究対象が出現すること、(iii)が遅れていることは事実であるから、「順調に進展」という表現が適切かどうかやや躊躇するところではある。
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今後の研究の推進方策 |
OECD/G20の包摂的枠組における多国間条約(第1の柱の利益Aに関する条約)の署名・発効については、依然として予断を許さない状況である。したがって、一方的措置としてのデジタル・サービス税(DST)の問題も依然として未解決のまま残されることになる。DSTについてはとりわけカナダの今後の動向を追っていくことにしたい。2023年7月11日にBEPS包摂的枠組が公表した成果報告書(outcome statement)を公表したが、カナダはDST凍結期間延長への反対の立場を明らかにしたからである。 日本はまだDSTを導入していないが、条約が発効しない場合を視野に入れて、DST導入の可否を含む具体的な対応(いわゆる予備プランあるいはプランB)について考えておくべきであるという前提に基づき、日本版DSTのあり方を探る。その際には、イリギスやフランスなど既にDSTを導入している国の制度を参考にすると同時に、他国(とりわけアメリカ)からの報復措置の可能性も視野に入れて検討を進める。 ギグワーカーなどプラットフォームを介して仕事をする人たち(プラットフォームワーカー)に関する納税環境整備については、引き続きプラットフォーム企業に対する源泉徴収義務の導入を軸に検討を進める。その際には、マイナポータルの利便性の向上およびAI等の進化により国税および地方税の執行がどのように影響を受けるかという点を重視する。このうち、地方税の執行については、固定資産税の評価にAIの進化が与える影響が含まれる。また、積み残しの問題となっている「住民税の現年課税化」の問題についても、AIの導入により解決できる問題が存するのではないかといった視点から検討を続ける。
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