研究課題/領域番号 |
20K01306
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05030:国際法学関連
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
張 博一 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (70634020)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | グローバルデータガバナンス / ガバメントアクセス / データプライバシー / 知的財産 / 越境データ流通 / 信頼のあるデータの自由流通(DFFT) / 一般データ保護規則(GDPR) / 国際法規範定立 / デジタル貿易 / 共同声明イニシアティブ / FTA / デジタル課税 / プライバシー保護 / データの自由流通 / 米国・メキシコ・カナダ(USMCA)協定 / 地域的な包括的経済連携(RCEP)協定 / 国際電子商取引 / WTO / EPA / サービス貿易 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、電子商取引に関する多角的貿易協定(デジタル貿易協定)を形成するための方策とその課題を明らかにすることを目的とする。 まず、国際的なルール形成の最大の妨げが各国の国内法規則の相違であるとの認識から、米国、EU、中国の関連国内法規定、立法過程での議論、国内電子商取引市場の実情について調査研究する。続けて、実効的な法的規律の設定が進んでいる主要の経済連携協定中の「電子商取引章」における諸規定の特徴を分析し、これらの間に親和性はあるかについて考察する。最後に、WTOルール策定に向けた最新の各国提案を実証的に分析し、デジタル貿易に関する多角的な新しい規則・協定を形成するための方策を提示する。
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研究実績の概要 |
本年度は、、国際経済法において「情報」がどのように規律され、期待される役割を果たすものとなっているのかを中心に研究を行った。 物、サービス、人、資本と比べた場合に、情報は公共財的性格を有している。つまり、情報によってもたらされる便益は、一般的に、特定の個人や集団が享受しても、他の人々や集団が同時にその便益を享受するのを妨げず(非競合性)、また、一度オープンとなった情報は対価を支払わない消費者にも広がり利用されうる(非排除性)。よって、情報という資源は広く共有されればされるほどに新たな知的創造につながることから、社会全体の経済的・社会的価値を高めるという観点からは、情報技術の自由な流通は国内、そして国家間においても強く要請されることになる。しかし他方で、無体物である情報はフリーライダーを排除することが難しく、無制限な利用を容認した場合、新しい情報を生産するインセンティブが失われ、中長期的に情報生産が過少になるリスクがある。さらに、先端情報技術、知識の獲得において、先進国が圧倒的な優位を有していることから、国家間に存在する能力の差を考慮し、情報がもたらす価値・恩恵を発展途上国もが享受できるような制度であることが望まれる。 そこで、情報に関する国際経済法の役割を考察し、(1)情報の自由な国際的流通を促進する役割、(2)財産権、人権、国家の重大利益としての情報の価値を保護する役割、(3)国際的な情報格差を軽減する役割に分けて研究を進めた。その結果、非経済的利益の保護を目的とする規制措置は結果として情報の自由流通の妨げとなること、情報に対する捉え方や政策は国家それぞれに異なり、これらを調和させる国際規範の定立や制度の構築は、経済安全保障の考え方の広まりとも相まって、情報の国際移転に対する国家による統制がまずます強くなっていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)知的財産としての情報、(2)知的財産保護と公共の利益の調整、(3)データの越境移転、(4)安全保障関連技術の輸出管理について、それぞれの特徴を踏まえて、国際経済法の規制のあり方を分析した。
知的財産分野については、物やサービス分野における貿易自由化とは異なり、情報に対する「独占」を認めることで情報の実質的価値を保護し、「権利者の経済的利益の保護」と「国際的な情報技術移転の促進」という双方の観点が必要となる。また、情報技術分野での国家間の格差が顕著であるがために、知的な創造物の恩恵を受ける社会の公益の観点から経済的利益の追求を制限する際に、企業の財産権をいかに保護するのかが課題となる。
プライバシーなどの人権や国家安全保障などの国家の権利に関わる情報の場合、データの越境移転に関する新しい規範形成に向けた議論が進められているが、データの越境移転の自由化がどの程度実現するのかという点に加えて、策定された制度が中国や途上国をも包摂した多数国間枠組みとなるのか、G7、G20 を中心とする基本的な価値観を共有する国に限定されるのかが大きな焦点となる。各種の個人データや交通、医療、気候、物流などの社会的データを分析し、それに基づいて新たな経済的価値を創出する能力を有するのは限られた一部の国であることに鑑みれば、新しい規則が一部の国の一部の企業のためのルールとならないよう、途上国への情報技術移転の促進に関する議論を同時に進める必要がある。科学技術と経済・貿易問題を過度に軍事化、政治化することは、先進的科学技術の独占につながり、新興国と発展途上国の発展を阻害することになる。「価値観」ではなく「法の支配」に基づく国際経済秩序の維持・強化を図ることが重要な課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
情報の持つ経済的価値の高まりにより、情報を介して、国際経済法が経済関係のみならず、他の国際 公共政策分野や国家主権に関わる事項をも網羅する体系にその外縁が拡大し、非経済的価値との調整が求められる一方で、国家間の利害関係が多様化・複雑化する昨今の国際社会において、国際経済法がどのような役割を果たすことができるのかということである。多数国間条約の形成がますます困難なものとなっている。 最終年度である2024年は、国際経済現象を一つ一つ入念に分析する作業を進めると同時に、、「国際経済の法」からどのような国際経済秩序を構想することができるのか、国際経済法という一つの学問分野が拠って立つ新たな原理とは何か、をまとめる予定である。
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