研究課題/領域番号 |
20K01420
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05070:新領域法学関連
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研究機関 | 大阪大学 (2023) 神戸薬科大学 (2020-2022) |
研究代表者 |
小門 穂 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 准教授 (20706650)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 生命倫理法 / フランス / 生殖医療 / 性的少数者と生殖医療 / シングル親と生殖医療 / 出自を知る権利 / フランス生命倫理法 / トランスジェンダーと生殖医療 / LGBTと生殖医療 / トランスジェンダー / 性別表記の変更 / 親の変容 / 同性親 / トランスジェンダー親 / 脱性化 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、フランス生命倫理法の2020年改正審議における女性カップルへの生殖医療の拡大に関する議論および2016年の21世紀司法の現代化法審議におけるトランスジェンダーの性別表記変更の要件に関する議論を対象とする維持法研究である。この調査により、フランスにおいて法的な母親・父親の意味するところが変容していること、その変容の背景には、生殖医療の発展と普及に伴う生殖観の変化や、セクシュアルマイノリティーの尊重という社会の変化を下敷きに、従来の生物学的な側面の重視から、当事者の親になろうという意思をより尊重する状況があると明らかにすることを試みる。
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研究実績の概要 |
生殖医療に対して、世界では、それぞれの国の実情に合わせた法制度が設けられ、社会的な変化に応じて、法改正がなされている。 フランスでは、生殖医療の発展と普及や、親の婚姻が子の身分に影響を与えなくなってきたこと、同性婚の合法化などによるセクシュアルマイノリティーの家族形成の容認という社会の変化を背景として、生殖医療の法制度が改正されており、法的な親、法的な母親・父親の定義も変容している。他方で、日本では、生殖医療が広く普及しており、また、同性カップルやシングル女性からの生殖医療の利用への要請があるという状況だが、生殖医療に関する制度は大きく変化していない。 本研究は、生殖医療の発展やセクシュアルマイノリティーに関する社会制度の変化が「法的な親」をどのように変えるのか、フランスおよび比較対象として日本の状況を分析するものである。フランスでは、従来は男女のカップルに限定して生殖医療の利用を認めていたが、2021年の法改正により女性同性カップルも生殖医療の利用者に含まれることになった。女性同性カップルは精子提供を伴う生殖医療を受ける前に同意書と共同認知の書類を提出することで、子を生む女性の女性パートナーも生まれてくる子との親子関係を構築することができるようになった。生んだ女性との母子関係に加えて母の女性パートナーとも母子関係を構築できるようになったのである。 本研究の目的は、主にフランスにおいて法的な父親・母親の位置づけや定義がどのように変容しているのか、および、その変容の背景には当事者の親になろうという意思の尊重があると明らかにすることである。この目的のために、フランス生命倫理法2021年改正の審議における、同性カップルおよびトランスジェンダーが親となる場合の親の定義に関する議論の精査と、出自を知る権利に関する法整備における提供者の位置づけに関する議論の調査を続けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度から継続して、2023年度も、フランス生命倫理法改正を中心に、生殖医療の利用者要件拡大や、拡大に伴う親子関係制度の変化に関する議論の整理を続けている。同様に、出自を知る権利についても継続している。2021年の生命倫理法改正までは精子や卵子、受精卵の提供は匿名の提供者からなされるものとされていたが、法改正の結果、提供を伴う生殖医療によって生まれた人は成人後に希望する場合に提供者の身元を特定しない情報と個人情報を取得できるようになるという大きな方針転換が行われたため、制度が変わったあとの状況について文献調査を行った。これまでにわかったこととして、2021年改正において出自を知る権利が容認された背景には、生殖医療の利用者を女性カップルや独身の女性というドナーの関与を隠しきれない人たちに拡大することや、欧州各国が提供の匿名を解除する傾向にあること、遺伝子検査の普及が挙げられる。出自を知る権利に関する制度について2021年法改正の重要な点には、これから生まれてくる人の権利保障に加えて、匿名の提供者からの提供を伴う生殖医療で生まれてきた人が提供者の情報を取得する権利についても検討され、提供者が同意する場合には提供者情報を取得できるしくみを構築したことが挙げられる。 2023年度は特に子どもから見る生殖医療の制度を再検討し、書籍の章としてまとめた。また、生まれてくる存在から制度を見るという観点からは、胎児に関わる制度をまとめている。さらに、日本の生殖医療の利用者として、卵子提供を受けた人がどのような観点から提供を受ける場所や提供者を選択しているのか検討した。 2021年の生命倫理法改正で独身女性も生殖医療を利用できるようになった経緯については文献調査を進めているが、成果の報告に至っていない。そのため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度も引き続きフランスにおける生殖医療の利用者拡大、出自を知る権利の制度設計、およびトランスジェンダーが親となる場合の親の定義に関する議論の整理を継続して行う予定である。これまでに十分検討できていないこととして、2024年度は、2021年のフランス生命倫理法改正において独身女性も生殖医療の利用者として認められたことについての経緯についての調査を継続する。2021年の法改正では女性同性カップルが生殖医療の利用が容認されたが、同性カップルの生殖医療利用について、これまでは生殖医療を利用できる異性カップルとのカップル間の平等や、子育てに複数の親が関わることの重要性という観点から論じられることが多かった。独身女性の生殖医療の利用については、女性同性カップルに関する議論とは別の道筋で容認されたと見られるが、詳しい分析がなされていないため、議会の審議資料やシングル親に関する動向についての学術研究を中心とする文献調査を行う。また、新しい論点として、終末期における意思決定でしばしば登場する「近しい人」という概念があるが、生殖と子育ての場で、家族ではない「近しい人」がどのように関与できるのか、という点についても考察したいと考えている。
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